第94話 出発前夜(2)

 今日は、出発前夜、滞在中の最後の晩餐。

 立食形式で、テーブルには、ごちそうが並んでいる。


「まずは、グラスを取ってくれ。」


 伯爵の挨拶により、会食は始まった。


「今回は、我が領のために、尽力してくれて大変助かった。リディア様、グレイス殿、リョウマ、本当に感謝している。」


 伯爵はそう言って頭を下げた。


「今後については、以前からの話にあったとおり、テロア家はリョウマのサポートに回る。情報は、リディア様からリョウマに伝えて頂くということで。そして、リョウマは、なにかあればいつでも頼ってくれていい。私はお前を既に友人だと思っている。遠慮はいらん。どんどん頼れ。」


 僕に向かって笑顔でそう言う。


 はー・・・やっぱりシブイケメンだ。


「わかりました。今後なにかあれば頼らせて貰います。」


「リョウマ、友人だと言ったはずだ。公式の場でなければ敬語はいらん。目上だろうとなんだろうと、私はお前と対等の友人でいたい。呼び方もジラートでいい。」


「・・・わかりました、いや、わかったよ。これからこうしゃべるね。でも呼び方はせめてジラートさんにさせてよ。」


「ああ、それでいい。」

 

 僕たちはにっこり笑い合って握手した。


 その後、歓談は進み、僕以外の人は・・・アルコールも進んでいく。

 特に、シエイラはふらついているようだ。


 それを見てジラートさんは、


「やれやれ、いくらリョウマがいなくなるからと・・・まだまだ子供だな。」


 と苦笑い。


 僕もどんな顔すればいいかわかんないし。


 すると、そんな僕たちを目ざとく見つけたシエイラが僕に近づいて・・・しなだれかかってきた!?

 そのまま腕を首に回してきたシエイラにドギマギの僕。

 うぅぅ・・・いい匂いするし柔らかいし・・・


「ねぇ・・・リョウマさん・・・本当に行っちゃうの?私を置いて行っちゃうの?

・・・離れたくない・・・」


 !?何コレ!?可愛すぎるんですけど!?

 

「リョウマさん!?」

「リョウマ!?」


 リディアとグレイスが慌てて近寄ってくるが、シエイラはお構いなしに、耳元に口を寄せて、


「私の気持ちはもう知っているでしょ?なら一緒にいましょう?私リョウマさんのためならなんだってできますよ?だから・・・ね?」


 ゾクゾク!!

 ひぃぃぃ!やばい!この状況はやばすぎる!!

 何がヤバいってジラートさんの前なのに・・・

 ああ・・・でも頭溶けそう・・・


「リョウマさん離れなさい!!」

「リョウマ!!」


 鬼二人が僕達を引き離した。


 は!?危なかった・・・今のはやばかった・・・

 駄目だ駄目だ!僕には桜花がいるんだ!桜花、僕頑張ってるよ!・・・だから再会した時はお手柔らかにお願いします!

 多分バレるから(泣)


 僕は既に、色々困っている状況が桜花に露見するのを確信している・・・今から気が重い・・・


「リディア・・・グレイス・・・ねぇ、三人でリョウマさんを囲いましょ?そうすればリョウマさんどこにもいかないかもよ?あなた達もその方がいいでしょ?ね?そうしましょ?」


 シエイラは二人にすがりつきながらそう言った。

 リディアとグレイスは困惑・・・いや、違うか、何かを考えながら口元を引き結んでいる。


 僕どんな顔をしていればいいんだよ・・・だってこれ・・・二人の気持ちを代弁しているようなものだろ?


「・・・リディア・・・グレイス・・・私・・・みんなと一緒に・・・」

 

 寝ちゃったか・・・


「やれやれ、リディア様、グレイス殿、リョウマ、申し訳ない。私は娘を寝室に連れて行こう。戻るのに少し時間がかかりそうだから、三人で話し合うといい。しっかりと、ね。」 


 ・・・お膳立てされちゃったなぁ。

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