第91話 冒険者ギルド(9)


 試験官は、身体強化魔法を使用した後、突っ込んで突きを放ってきた。


 まあまあ早いね。


 でも、グレイスの足元にも及ばないし、フェイルとは比較にもならない。


 僕は、ギリギリまで引きつけた後、踏み込みながら屈んで避けて、そのまま木剣を左手で下から支えるように持つ。


 試験官が、驚愕の表情で僕を見た。


 多分、試験官には残像が見えていたはずだ。


 だから、


「残像だよ。」


と教えてあげた。


 今から使うのは、廻里流剣術の技で『巌崩し』という。


 これは、下から刀の持ち手と逆手で、下から刀身を峰側から押し上げるように切りつけと押し上げをし、返す刀で兜割りをするという技だ。


 試験官は技を食らった後、ふらつきながら、


「・・け・・のか・・・」


と言って倒れた。


 ふう・・・終わったな。


 試験官の仲間が駆け寄ってきて、倒れている試験官を助け起こしている。

 ギルドの職員達はみんなポカンとしている。


 そしてギルマスは・・・


「そん・・な・・・そんな・・・馬鹿な。Aランクだぞ?このギルドで最強のなんだぞ?嘘に決まっている・・・夢だ。・・・悪夢だ。」


 ぶつぶつ何か言っている。


 そんな状態のギルマスの方に、リディア達が近づいていくので、僕も近づく。


「ギルドマスター。約束は守って頂けますね?」


 リディアがそう言うと、ギルマスは、


「・・・・・・」


 無言だった。


 リディアは追い打ちするように、


「納得いっていないようですね。ならこのギルドにいる冒険者の全員を、リョウマさんに叩きのめして頂いたら、納得いただけますかね?ギルドマスターの了承を得たということで、リョウマさんにお願いしてもいいのですが、どうされます?」


と言うと、そこで、初めてギルマスは反応したが、


「・・・あ・・・あ・・・だが・・・」


となんともよくわからない。


 そこに、試験官の仲間が、


「ギルマス!いいかげんにしろよ!!てめえのくだらねえプライドのために、冒険者を犠牲にするんじゃねえ!!この小僧が強いのはよくわかっただろうが!!」


「そうだ!約束ぐらいしっかりと守れ!元はと言えば、お前が面倒くさいとランク上げ申請を渋ったのが原因なんだぞ!責任くらいしっかりと取れ!!お前がわがままを通すなら、ここであったこと全てギルド内にぶちまけるぞ!お前の信用もギルドでの立場も全部消し飛ぶぞ!それでもいいのか!」


と捲し立てた。


 それを聞いたギルマスは、顔を伏せて、震えながら、


「・・・申し訳ありませんでした。手続きをさせて頂きます。」


 と言った。


「当初のお約束通り、Cランクでお願いしますよ。それと、こちらは急ぎですので、一週間以内に完了するようお願いします。言っておきますが、本来は予め、申請をしておいて、合格したらすぐに申請を終えるよう、準備するのが当たりまえです。そちらの都合で行った試験なのですから。それをしていないのは、あなたの怠慢でしかありません。なんとかするように。それまで、暫定Cランクとしてクエストを受注します。良いですね?」


 底冷えするような声でそう話すリディア。


 ギルマスは俯いたまま、


「・・・・はい。」


 決着・・・かな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る