第30話 廻里 桜花 (5) side桜花



 龍馬の携帯に映る映像と音声は、間違いようがないものだった。

  

 私の友人たちが、一方的に詰め寄り、龍馬を糾弾している。

  

 どちらかといえば、龍馬の方が、きちんと受け答えしようとしていた。

  

 糾弾の理由は、私の言うことを聞かないことらしい。


 そんなこと頼んでないのに・・・

  

  

 だんだんと罵倒する言葉に変わっていった。

 生意気だとか陰キャだとか関係ない言葉が増えていく。

  

 そして、男子三人が一斉に殴りかかった。

  

 周りは囃し立てるだけ。

  

 龍馬は数回避けた後、ため息を吐いてから、それでも殴りかかってきた三人に、それぞれ一発ずつ掌底を叩き込み倒していた。

  

 うそ・・・こんなに強かったの!?

 でも空手とも柔道とも違う・・なんだろう?

  

 周りは静まり返っている。

  

 映像の中の龍馬は、そのまま机に近づき、カバンを持って帰ろうとしていた。

  

 当然ビデオはそのまま撮影されている。

  

 先生がやってきて龍馬を止める。

  

 周りの生徒が、龍馬が一方的にやったと先生に言っている。


 先生がそれを信じて、龍馬に怒っている・・・

  

 何これ・・・・全然違う・・・私聞いてないわよ・・・なんで・・・それじゃ嘘つきは・・・

  

 私が入ってきた。

  

 龍馬にひどいことを言っている・・・彼は本当の事しか言っていなかった。

  

 私が信じないと言っている・・・酷い顔だ。

  

 なんて醜い表情・・・そしてそれは、周りの生徒も同じだ。特に酷いのは・・・私の友人グループだった。

  

 完全に嘲笑している。

  

 龍馬が映像を止めた。

 何か言っているが、耳に入ってきても、頭が理解できていない。

  

 でも、これだけは今でもしっかり覚えている。

  

 龍馬がすれ違いざまに言った、

  

 「いい友達持ってるね。流石品行方正な君にはお似合いの友達だよ。見る目があって良かったね。少数を排除するのが君の正義とは思わなかった。嘘をつくのが正しいって言う君とは、嘘をつけない素行不良者の僕では友達になれないなぁ。」

  

 ガツンと頭を殴られた気がした。

 私は何も見えていなかった。

  

 そのとおりだと思った。

  

 反論のしようがない。


 彼の、私を見る蔑んだ目が脳裏に焼き付く・・・

  

 気づいたら彼はいなかった。

  

 周りには呆然としている者、青い顔をしている者、泣いている者もいる。

  

 担任の先生は頭を抱えていたが、校内放送で呼び出され走っていった。

  

 私達もそれについていった。

  

 そこからはよく覚えていない。

  

 覚えているのは、親が来ていた事と、彼に謝罪をしたこと。

  

 友達に、何故あんなことをしたのかと聞くと、私のためにしたことなのに、なんでそんな言われ方をしなければいけない、という事と、私も龍馬をいじめていただろうという罵倒。


 意味がわからなかった。


 少なくとも私にいじめているつもりは無かった。

  

 私の今まではなんだったのだろうか。

  

 帰宅後も、両親は何も聞いてこなかった。

  

 お父さんが、ただ一言、

 

「自分を見つめ直せ」


 と言っただけだった。

  

 だけど、私は何が正しいのかわからなくなっていた。

  

 学校も行けなくなっていた。


 最初の数日は、グループの友達からSNSで連絡が来ていたけど、返信しなかったら3日で来なくなった。

 

 もう間違えたくない・・でも、何が正しくて、何が間違っているのかわからず、耳に残っているのは、龍馬からすれ違いざまに聞いたあの言葉だけ。

  

 目の曇っている私には、もはや正しい道など見つけられるはずがなかった。

 

 自惚れて、人を傷つけることしかできなかった自分など、いなくなった方がよいのではないか・・・そんな風に考えて、気づいたら二週間経っていた。

  

 そして・・・来たのだ。

  

 誰よりも優しい彼が・・・

  

 私はあの時、助けて貰った。

  

 そして友達になって・・・好きになった。


 その後は、彼の隣を歩けるよう努力してきた。

  

 好きになって貰えるよう女も磨いた。

  

 そして、ようやく恋人同士になれたのだ。

  

 必ず助けてみせる。


 見つけてみせる・・・そう、必ず。

  

 うん?

 なんだろう?

  

 なんか周りが光っているような・・・

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