偉大なる日常
ウォンさんには本当に申し訳ないけれども、彼の豪邸における
「荒ぶる神々を押さえつける統治神たる女神様だから世界各所、いえ、大宇宙の至るところに於いて当然の話であります!」
って
「あんさんら。ハノイは見ての通り働く人間たちのユートピアでっせ。ギルドごとにストリートの名前が明示されてるしな」
「えっと・・・・・梨子、今からわたしが言うことをウォンさんに翻訳してくれるかな?『ギルドなんて言うと日本では異世界の話になっちゃうので職人て言い方の方がいいですよ』って」
梨子が言うとウォンさんからこう返って来た。
「なんででっか?本来ギルドゆうたら実生活で汗水たらして『しんどいなあ』って泣きながら金稼いでる人間たちのことでっせ?それがどうして『過酷過酷』っていう描写やら内輪にしか通用せんチート?やらで物語のいちアイテムみたいに矮小化されなならんのでっか?おかしいやろが!」
ベトナム語にも大阪弁のような、更に大阪弁の中でも河内弁みたいな言い回しがあるんだろうか、語気でウォンさんが憤っていることが伝わってきた。
でも、マニアックなわたしだから敢えて言うよ。
『もう日本の小説は手遅れかもしれない』
「ウォン殿。しばらく露店で商売させてもらうぞ」
どうやらハノイの古美術商たちを取り仕切っているらしいウォンさんに了解を得てわたしたちはウォンさんの家からハノイのストリートに毎朝通い始めた。当然ながら女神さまをハーレーのサイドカーでお連れして・・・・・そしてとても畏れ多いことだが女神さまを客引きのためにお姿をお見せしながら声を出した。
「いらっしゃぁい、遥か日本からお出ましいただいた女神さまのお足下にこれまた選び抜いた工具(
素人っぽくない、いい意味でないブローカーのようなおじさんがわたしたちの露店の前に立った。
「うーむ。うーむ。うーむ・・・・・・・・素晴らしい!売ってくれんか!?」
「いいでしょぉ、このワンピ」
「違う!その女神の彫像だ!」
「バカ者ぉ!」
梨子が怒鳴りつけた。
「この女神さまは『ホンモノ』なのだぞ!売れる訳がなかろうが!」
「な、な、な?だ、だから贋作でないホンモノなんだろ?なんて
「『作品』ではない!ホンモノの神様なのだ!この無礼者が!」
わたしたちは話し合った。
「梨子、ジェト、
「梨子ぉ。大臣には確認したのぉ?」
「ホットラインが遮断されてしまっているのだ」
「深刻。行動如何」
「ちょ、ちょっと梨子」
「なんですか教官殿?」
「大臣ってもしかして防衛大臣?」
「はい、そうですが?」
「直接やり取りしてるの?」
「はい、教官殿。これは有事の鉄則です。『一次情報しか信じるな』。誰かの
なるほど。
ならばマニアックなわたしの本領としてはこういう答えだね。
「じゃあ、究極の一次情報は『女神さま』だね」
「!」
「!」
「・・・・・!・・・・・」
「
「教官殿!」
「な、なに?」
「教官殿はやはり我らの師です!」
「や、やめてよ梨子。ただ単に最近では誰も振り向かなくなったマニアックな知識を言っただけだから」
「でも
「ですが教官殿。残念なことに女神さまは
「我思。可聴。代役声」
「「「えっ?」」」
「必来、代役」
鬼選の言う通りだ。わたしたちが女神様のそのご意志を直接観ることも言うことも聴くこともできないのだとしたら、きっと女神さまが伝えんとすることを表現する『代役』がわたしたちの前に現れるんだろう。
わたしたちは毎日毎朝毎晩食べて寝て起きてハノイのストリートに立って女神様と共に時には梨子の古い絵のタッチのポストカードを日本の最先端絵師作と謳って売りつけたり、ジェトの八時二十分タレ目で「わたしが着用済みよぉ♡」と色香に迷わせて古着を少年たちに売りつけて彼らの服の使用法が分からなかったり、鬼選と極めて似通った容姿の少女たちが工具や電子部品をまるでアクセサリーでも観るようにしゃがみ込んで物色したりとそんな風にして『日常』を過ごした。
ウォンさんの家のメイドさん(!)たちが作ってくれる生春巻きは最高だった。
そうして3×7=21日が過ぎてそろそろ自分たちがいかがわしい露天商として単なる穀潰しになりかかっているかもしれないと思い始めてる時だったよ。
来たよ、『代役』が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます