第84話 消えたソフィアの結界
今回やっておきたかった、メモリーネ、ジブリール、コーネリスの装備の強化。それは一応、できたと思う。
メモリーネとジブリールは、出来上がったナイフにずっと見惚れているようで、腕輪の中に戻ると、集中して自分の世界の中で武器を眺めるとのことだった。
リボンを受け取ってくれたコーネリスは、ずっと照れたように顔を赤くして、それが恥ずかしかったのだろう。一旦、腕輪の中に戻ることにするそうだ。
あと、シムルグの分もアクセサリーは用意してある。
この前従魔になったシムルグには、首輪の形のチョーカーを作ることにした。
だけど……。
「この前から、ずっとシムルグは眠そうだ」
「ソフィアちゃんの屋敷を出た後から、ずっとだよね」
『(少しお眠なの……。多分、力が戻ってきてるんだと思うの)』
シムルグは、以前瘴気に飲み込まれた一件以来、体が小さくなってしまっている。
だから、その分の力が戻ってきている……ということは、シムルグにとってはいいことなのかな。
『(ご主人様、ありがと……。私の分も作ってくれて……)』
「うん」
俺はシムルグの指輪をそっと撫でた。
そうする頃には、もう陽も暮れていて、夜だ。窓の外には月が浮かび、星が輝き、夜の景色が広がっている。
部屋の中には、俺とテトラの二人っきりで。
俺は部屋にある蝋燭に火を灯すと、テトラと向かい合った。
「テトラにも一応、これ」
「え! 私の分もあるの!?」
「うん。ブレスレットだけど」
俺はポケットからブレスレットを取り出して、それをテトラに差し出した。
銀色の、落ち着いた雰囲気の、月光のような輝きのブレスレット。
「前々から、テトラとコーネリスの分は作り始めてあったんだ」
「全然、気づかなかった! 腕輪で、テオのことはずっと見てたのに……。ねえ、テオ、これってもしかして私が寝てる時に作ってくれたの……?」
テトラがブレスレットを手に持ちながら、どこか控えめな様子で聞いてくる。
俺はその頭をそっと撫でると、テトラの腕にブレスレットをつけることにした。
テトラの右腕には眷属の腕輪があるから、ブレスレットは左腕に、だ。
「どうかな」
「綺麗……」
天井にかざし、月光のブレスレットを見て、琥珀色の瞳を潤ませるテトラ。
俺はそのテトラの様子を見守った。俺はこの時間が好きだった。
テトラが喜んでくれている顔を見ていると、いつも救われた気持ちになる。
もっと、高級な店で、ちゃんとした職人が作ったブレスレットをプレゼントしたいという気持ちもあるけれど。
テトラの身につけるものは、全部、自分で作りたいとも思っている。そしてずっとそばで笑っていてほしいと、いつも思う。
「んんっ。てお……っ。くすぐったいよぉ……っ」
もじもじとくすぐったそうに、身をよじるテトラ。
「また腕輪を通じて伝わったのか……」
「ふふっ。いつもテオの気持ちは伝わってきてるよ……?」
腕輪があるから、こっちの感情は筒抜けだ。
一応、この前、スキルがランクアップしたことで、そういうのの調整もできるようにはなってはいるようだけど、それでも全部調整できるわけではない。
「でも……腕輪で繋がってても、一つだけ伝わってこないことがあるの」
テトラが上目遣いで聞いてくる。
「テオはずっと私たちのことを気にかけてくれるよね。アクセサリーもだし、普段から私たちのことを大切にしてくれるよね。ねえ、テオ。テオはいつもどうしてそこまでしてくれるの……?」
「それは……内緒だ」
「え〜」
唇をとんがらせるテトラ。
「知りたいな〜」
「べつに、そんな、言うほどのことでもないしさ……」
「う〜ん、そうなのかなぁ……」
正確にいうと……違う。
俺がただ本人には知られたくないだけだ。
「でも、気になるな〜。腕輪で伝わらないテオのこと、気になるな〜」
「あっ、テトラっ」
「教えて欲しいな〜。ベッドでゆっくり、教えて欲しいな〜」
ぐいぐい、と、俺の体を押して、ベッドに押し倒すテトラ。
ギシリ、とベッドが軋む音がした。
テトラは押し倒した俺の腰の上に乗って、体を倒して抱きついてきた。
「ねえ、てお……教えて? テトラに教えて。言葉じゃなくてもいいから、直接テトラにておの気持ちを教えて?」
俺の体の上に乗ったまま、ちゅっ、と俺の口にキスをするテトラ。
唇にテトラの柔らかさを感じた。
「テトラ……」
「てお……んっ」
俺はテトラの頭を撫でる。首も撫でる。背中まで撫でる。
そうすると、テトラがじれったそうに口づけをしてくる。
薄い服越しに、テトラの肌の暖かさを感じる。
「てお……ちゅっ」
どこか熱っぽい顔をしながら。
啄むように。
テトラが俺の頬を両手で包んで、口づけをしてくれる。
薄暗い部屋の中に、シーツが擦れる音が溶けた。
蝋燭に映し出されている俺とテトラの影が、じゃれつくように重なっていた。
そして、それを数十分間続けていると、テトラがとろけたような顔になっていて……。
そして……。
「あつくなっちゃった……っ」
服をはだけた。テトラの白くて細い肌が、俺の目の前に露出される。
「テオもあつくなっちゃった……っ?」
俺の服もはだけさせて、俺の胸にすりすりと頬擦りをしてくるテトラ。
「てお……っ。好きっ。大好きっ。こうやって二人だけで過ごすの、久しぶりな気がするねっ」
「……うん。最近は、月光龍の巣だったり、ソフィアさんの屋敷に泊まったりで、テトラと二人っきりなのはなかったもんな……」
「うんっ。だから、ねえ、てお……。今なら、好きなことできるよ?」
「テトラ……」
「ておのしたいこと、テトラもやりたいよ? ねえ、てお……まず何からしたい?」
「それなら……テトラの胸に顔を埋めたい」
「ふふっ。どうぞっ」
そう言って、俺の上に乗っているテトラが俺の顔に胸を押し付けてくれる。
いい香りがした。柔らかかった。
俺はテトラの背中を抱きしめると、それを深くまで感じた。
「ておくんは、私の胸に顔を埋めるのが好きだもんねっ。ておくんはおっぱい派だもんねっ」
「……かもしれない」
「ふふっ。やっぱりそうだったっ」
テトラがおかしそうにくすりと笑う。
でも……テトラの胸に顔を埋めるのは好きだった。
とくんとくん、という心臓の音。
これが好きだ。この音を聞いていたい。聞いていると、安心する。ずっと聞いていたいと思うし、テトラの肌の熱もずっと感じていたいと思う。
「いいよ……てお、いっぱいテトラのこと感じて? テトラの全部はテオのものだよっ」
はだけた服を脱いで、きつく抱きしめてくれるテトラ。
その後、俺たちは唇を重ね、ベッドの軋む音が部屋に溶けていった。
そして、また思った。テトラがそばにいてくれるから、俺はこうしていられるのだと。
* * * * * * * *
そして、それから数日後。
それは突然の出来事だった。
「「あっ、……結界が……消えた……」」
街を覆うソフィアさんの結界。
それが……消えた感覚があったのだ。
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