第68話 3人が欲しいもの


 この前に来た時もそうだったけど、この店には様々な商品が並べられている。

 埃っぽくて、薄暗い店内に、ローブや武器、あとアクセサリーや、魔道具なんかも取り扱っているみたいだった。


「ああ、そうじゃよ。だから、その子たちのおもちゃも買ってあげられるのぉ? メテオノールくん、ヒッヒッヒ……っ」


 ……そこまで知られているのか。

 もうこのおばあさんに対して驚くことはないと思う。


「「ご主人様、見ていいー?」」


「うん、いいよ。でも、お店の物だから大事に見なさい」


「「あいあいさー!」」


 手を挙げたメモリーネとジブリールが、魔道具が売られている場所へと向かった。


「コーネリスちゃんは今アクセサリーが欲しいと思っているのかの? じゃあ、たぁんと見てごらん。ヒッヒッヒ……っ」


「……な!?」


 コーネリスのことも言い当てる老婆。

 どうやらコーネリスはアクセサリーが気になっているみたいだ。


「コーネリスも好きな物を選んでおいで」


「で、でも……悪いわよ」


 遠慮するコーネリス。


 だけど、コーネリスには特に色々買ってあげたかった。


「この前、村のことでコーネリスには助けてもらった。ついこの間の依頼の時も、コーネリスは頑張ってくれた。いつもメモリーネとジブリールの面倒も見てくれるし、そのお礼……じゃないけど、その分のお礼はしたいんだ」


「ご主人様っ」


 コーネリスの頬がほんのりと赤く染まる。


「えへへっ。ご主人様に褒めてもらえたっ」


 コーネリスはそう言って身を寄せると、俺の胸にぐりぐりと甘えるように頬ずりをした。


「うんっ。じゃあ、欲しいもの選んでくるっ」


「うん。行っておいで」


 その後、顔をほころばせたコーネリスは、心なしか弾んだ足取りで、アクセサリーのところへと向かった。


「じゃあ、テオ。私たちは、一緒にあの子達の服を選ぼっか」


「では、わしも一緒について行こうかのぉ」


「「……あ、はい……」」


 テトラが俺の手を握って歩き出すと、なぜかついてくる老婆。


「ヒッヒッヒ……ッ」


 それからはテトラと老婆と一緒に、コーネリス達に似合いそうな服を選んでいく。

 予算はあまり考えずに、機能性とか、そういうのを重視して選ぶつもりだ。


「う〜ん、でも、あの子達の服装は、今のままでもいいかなっても思うんだよね」


 テトラが服を見ながら呟いた。


「確かにそうかもだけど、せっかくだし買ってあげたほうがいいんじゃないかな……?」


「おばあちゃんはどう思いますか?」


「うむ。そうじゃの……。買ってもらえるのはいいが、あの子達は義理堅いから、買ってもらったらその服を着なきゃ、と思うはずじゃ。そこで気を使わせるのは、悪手ではないか?」


「……それは……。……一理ある……」


 ……そうだ。

 宿で話した時も、コーネリス達はあまり服には興味を示してはいなかった。


 今だってそうだ。

 メモリーネとジブリールは魔道具のところ。コーネリスは、アクセサリーのところへと向かっている。


 3人とも、服にはあまり興味を示していない。


「今のあの子達が着ている服は、恐らくお気に入りなんだと思うのじゃ」


「うんっ。あれは、テオがあの子達を眷属として誕生させた時に、備わっていた服だから、愛着があるんだと思う」


 テトラの言う通りかもしれない。


 ちなみに、今のコーネリスは赤色と銀色のスカートタイプの服。

 メモリーネとジブリールはお揃いで色違いの、子供用の服を着ている。

 メモリーネとジブリールは、場合によってゴーグルとスカーフ、あとバズーカを取り出せるようで、三人の腕には腕輪が嵌められている。


 改めて見ると、みんなの服装は今のままでもしっくりきている。みんな自身も不満そうではない。


 あと、メモリーネとジブリールに比べたら、コーネリスはアクセサリー類が少ないように思える。

 だからコーネリスはアクセサリーが欲しいと思ったのかもしれない。

 メモリーネとジブリールがおもちゃを買いたがっているのも、子供だからというだけではなくて、新しい武器代わりになるものを欲しているのかもしれない。


「全然、的外れだった……」


 ……全然ダメだった。


 今日はみんなにプレゼントを買ってあげたかった。

 いつも助けられているから。だから、形があるもので渡したかった。


 だれど、それは自分のためだったんだな……。

 それぞれ欲しいものがあるなら、それを察するぐらいしてあげないとダメだった。


「ヒッヒッヒ……ッ。メテオノールくんは不器用じゃのう……。でも、メテオノールくんのそういうところがワシは好きなんじゃよ」


「い、痛い痛いッッ……!?」


 おばあさんが、俺の背中を叩く。

 このおばあさんに触れられると、いつもバチィ……! と痛みが走る。


「て〜〜〜お〜〜〜〜。おばあちゃんに、デレデレしてる〜〜〜。いけないんだ〜〜〜〜」


「し、してないしてない」


 俺はジトッとした目で、頬を膨らませているテトラに、慌てて否定をした。


「ふふっ。でも、私もそういうテオは好きだよ? だって私もテオに貰えるものなら何でも嬉しかったもん」


 テトラが俺の腕を抱きしめながら、顔を綻ばせてそう言ってくれた。


 ……昔からそうだ。

 何かを送るとテトラは喜んでくれる。

 その顔を見るのが好きだった。

 だから、テトラには何でもあげたいと思ったんだ。


「あの子達もきっとテオから何かをもらえるなら、それだけでも嬉しいと思うよ。テオは私たちのことをたくさん考えてくれて、思いやってくれるから。ほらっ」


 そこにコーネリス達が戻ってきて……。


「ご、ご主人様……。あのね、このアクセサリー。お揃いで、つけたいんだけどダメかしら……?」


「「ご主人様ー! ご主人様用の武器を発見しました。これを買って、お揃いの武器を装備したいのー!」」


「……俺の……?」


「「「うん!」」」


 大きく頷く三人。


「「「だって、ご主人様にはお世話になってるから!」」」


「ふふっ。テオがみんなに買ってあげたいと思ってるように、みんなもテオに何かをプレゼントしたかったんだね。みんな優しいね」


 3人を見ながら、テトラが見守るように琥珀色の瞳を優しく揺らしていた。


 俺にもプレゼント……。

 いつもお世話になっているから……。


「そっか……。あ、ありがとう」


「「「あー、ご主人様、照れてるー!」」」


「ふふっ。テオってば、可愛いっ」


 テトラたちが微笑みながらこっちを見てくる。


 俺はなんだか顔が熱くなってくるのを感じて、それを誤魔化すように、そっと顔を背けるのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る