第36話 一番目の眷属 コーネリス

 

「……数時間前は、本当にすみませんでした……。大変反省しております……」


「「素直になった……」」


 あらかたオークを倒し終え、森を抜けて一息つけるようになると、赤い髪の彼女がそう言って改まった様子で頭を下げてきた。


「私は一人でご主人様達の元からいなくなったのに、助けてもらって……。本当に申し開きもございません……」


「ふふっ。やっぱり根はいい子なんだよね」


 そんな彼女の様子を見て、テトラが見守るように微笑む。

 それでも彼女はまるで怒られてしまった子供のように、申し訳なさそうにしていた。


 ……やっぱり飛んで逃げたことを気に病んでいるらしい。

 でも、そう思えるのは、彼女が優しい証拠でもあるんだと思う。


「どこも、怪我はないかな……?」


「は、はい……。ないです」


「それならよかった。でも念のために回復をしておいたほうがいいかもしれない」


「あっ、だったら私がやるね」


 テトラが彼女の手を握り、聖女の力で彼女を回復させてくれる。

 それと同時に俺の腕輪にもテトラの魔力が流れ込んでくるのが分かった。


 テトラには聖女の力が宿っているから、回復系の魔法も使える。

 そしてテトラは普段からこうして腕輪を通じて俺にも回復の魔法をかけてくれているから、俺も助けられていた。


 たとえ俺が怪我をしたりしても、腕輪でテトラと繋がっている限り、常時ほぼ治すことができるはずだ。


 ……実はさっきもそうだった。

 俺はまだ魔法を使い慣れていないため、魔法を使うと体が魔力に追いつかないことが多い。

 それをテトラが、腕輪を通じて負担を癒してくれているから、どうにかできている。


「ん、これでよしっ」


「あ、ありがとうございます」


「どういたしまして」


 とりあえず彼女の治療が終わった。


 俺はその様子を見守ると、近くに落ちているオークの魔石を回収しておくことにした。


 緑色の魔石。この魔石はあって困るものでもないから、拾える時に拾っておいた方がいい。

 オークももう来ないだろうし、ゆっくり集められるはずだ。


 周りを見回してみる。

 木漏れ日の差し込む森の中のあちこちから、魔石の光り輝く輝きが見てとれた。


 俺はそれを一つ一つ拾って回収していく。


「あ、あの、これ……」


 そうしていると赤い髪の彼女が俺の側に立っていた。その手には落ちていた緑色の魔石。彼女は

 それを恐る恐ると言った風に差し出してくれた。


「私も……手伝います……」


「ありがとう。助かるよ」


「う、うんっ」


 頷いてくれて、すぐさま別の魔石を拾ってくれる彼女。

 赤い髪が揺れて、そこから覗く耳が赤く染まっていた。


「テオ……。かわいいよね。恥ずかしがりな所もあるみたいだし、見てて和むね」


 テトラが彼女を眺めながら、くすりと顔を綻ばせる。


「癒されるね……」


「それは……分かるかもしれない」


「ねっ」


 テトラが俺の腕を抱いて、嬉しそうに微笑む。

 だけど不思議なもので、彼女を見ていると、俺も自然に穏やかな気持ちになっているのを感じた。


 しゃがんだりして、ちょこちょこ地面に落ちている魔石を拾っている彼女。

 こっちをちらちらと見ていて、目が合うと恥ずかしそうに慌て始める。


「「か、可愛い……」」


「〜〜〜〜っ」


 俺たちはそんな彼女を眺めながら、二人で微笑みあった。


「……は、はい。これも受け取って」


 そんなことがありつつも、魔石を持ってきてくれる彼女。

 俺は頷き、魔石を受け取る。


「そ、それでね、もう一個受け取って欲しいものもあるの……」


 モジモジとしながら、毛先だけ銀色になっている髪を指先でいじる彼女。


「は、はい……これ」


 ゆっくりと差し出された手の中にあったのは、腕輪だった。


「私の『眷属の腕輪』を……受け取って欲しいの」


 その声はどこか不安そうな声だった。


「……勝手にご主人様の元からいなくなって、あんなことしちゃったけど……それでも受け取ってもらえるなら、受け取ってくれますか……?」


「もちろんだ」


 断る理由なんてない。そう言ってもらえるのなら、俺も嬉しい。


「あっ、でもまだ名前を聞いてないね」


「そういえばそうかも」


「……そうだったわ。私の名前は……コーネリスだと思う。スキルで出てくる眷属には、あらかじめご主人様の中で名前が与えられることになってるの」


「俺の中で……」


「ええ。無意識のうちに、ご主人様がそれぞれに名前をつけてくれているの。腕輪を通じてお母様の気持ちも混ざってて、そうして与えられた私の名前がコーネリスって名前だと思うの」


「そっか……」


 もちろん、それを拒むのも眷属の権利でもあるという。


「でも……私はこの名前は好きかもしれない。だってかけがえのないものだもの」


 腕の前でぎゅっと手を握った彼女が、優しい声音で呟いた。


 それなら、彼女はコーネリスだ。


 俺のスキルに初めて応えてくれた子。


 出てきてくれてから色々あったけど、かけがえのない最初の眷属だ。


「だからご主人様……。私の腕輪を受け取ってくれますか……?」


「うん。ありがとう」


 改めて確認するように言う彼女に頷き、俺は自分の手を差し出した。


 そうすると彼女はゆっくりと俺の腕に自分の『眷属の腕輪』を嵌めてくれて、赤い宝石が埋まっているその腕輪に口付けを落とした。


「コーネリスは誓います。これから先、何があっても、ご主人様のお側にいさせていただきます」


 膝をついて、誓ってくれるコーネリス。


 そんな俺たちの腕には、お揃いの赤い輝きが眩く輝き続けるのだった。


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