第20話 人知れず村の生活を豊かにしていた少年① (村の話)
「ち、父上、また村に魔物が来ました……」
「ま、またか……。これで何度目だ……」
ここは、テオとテトラが住んでいた村。
現在、その村では、とある問題がいくつか起こっていた。
すでにテオが村を出てから、しばらくが経っている。
当初は聖女殺しのテオがいなくなって村長は清々していたのだが、そんな悠長なことをしている場合ではなかった。
今も息子のボンドとともに、疲れた顔をしている。
窓の外を見てみると、武器を手に持った村人たちが慌てて魔物の討伐へと向かっている姿があった。
「どうしてこんなに魔物が来るようになったのだ……」
テオがいなくなってからというもの、村に魔物がくることがグッと増えた。
今までも、そういうことがなかったわけではない。この世界は魔物と人間が互いに生活している世界であり、当然、村に魔物がやってくることがある。
それは月に数回あるかどうか。最近ではめっきりその頻度も減っており、村は大変穏やかだった。
しかし……テオが村から出て行って以来、驚くほど魔物が村の作物などを荒らしに来ているのだ。
……これは純粋に、テオが日頃から事前に魔物を倒していたことから起きていることだった。
テオは生活のため、村長に魔石を納めるため、毎日村の外に出て魔石を探しに行っていた。
基本、テオが活動していたのは森で、その森で魔物と相対することが多かった。
そんな時、テオは自分で作った魔法の武器で、魔物を倒していた。
そのおかげで魔物が村に来る前に、退けることができていたのだ。
そしていつしか魔物はテオを恐れて村に近づくことはなくなり、村は魔物に脅かされることのない平和な日々を送ることができていた。
テオのやっていたことはそれだけではない。テオは倒した魔物を村の決まりに従って、村長へと納めていたのだ。
その結果、その素材は村を豊かにする方向へと使用されていた。
しかし……。
そのテオはもうこの村にはいない。
そのため、魔物たちが村に来るようになった。
襲ってくるのなら倒すしかない。しかし……その魔物が予想以上に強いことが問題だった。
「ち、父上……。村人たちが、魔法の武器をもっとくれと言っております……」
「ぐ……消費するペースが早い……。このままだとすぐに底を尽きるぞ」
必死で育てた作物を荒らされないためにも、村人たちは総出で魔物を倒している。
彼らもそれぞれスキルを持っているため倒すことはできるのだが、それでも苦しいのは確かだった。
それでも、彼らは命を落とすことなく、魔物と相対することができている。
彼らが使用しているのは、魔石を加工して作られた魔法の武器。テオが作った強力な品だ。
何より、それは安全だった。テオの作る武器は、安全性に気をつけて作られている。
だからこそ、安心して使用することができていた。
しかし消耗品なため、消費の数が多い……。
テオは村を追放される際に、村長が言いつけた数の何倍も、その武器を作って置いていったのだが、それがなければこの村は今頃魔物に蹂躙されていることだろう……。
「「ひぃ……」」
そう考えると、村長は寒気が止まらなくなりそうだった。
そしてその武器の数も、日々減り続けている……。
「しかし、ボンド……。お前、その怪我は大丈夫なのか……!?」
村長は自分の息子のボンドが、深い傷を負っている姿を見て心配した。
ボンドは魔物にやられて負傷していた。
ボンドは村にやってくる魔物を退ける際に、テオの魔法の剣を使わずにどうにかしようとしたのだが……結果がこれだった。
(あいつの作った剣など使ってたまるものか……)
ボンドは許せなかった。テオの作った剣を使うのだけは、テオに屈したようで嫌だった。
『魔物がきたぞ……!』
そんなボンドの耳に聞こえてきたのは、窓の外の村人たちが魔物の来訪を知らせる声。
ボンドはそれを聞き、その場に向かった。
(俺はあいつになど負けない……)
今、この場を守っているのはテオの功績だ。しかしそれだけはあってはならなかった。
自分はあの可哀想なやつなどよりも、優秀なのだから。
しかしーー
「うがはぁ……ッッ」
村の外にきていた魔物の攻撃を受け、地を転がるボンド。
口からは吐血をして、激痛が全身を駆け巡る。
(じ、じぐじょう……)
彼は弱かった……。
そんな彼のそばには、丁寧に作られている魔法の剣が落ちているのが分かった。
(こ、これはあいつの剣……)
テオの作った魔法の剣。テオが一つ一つ丁寧に作り上げた剣。
それが、自分のそばに落ちている……。
手を伸ばせば、簡単に届く距離に落ちていて……。
「く、くそぉ……くそぉ……!」
ボンドは顔を歪めて泣き叫んだ。そして……泣き叫びながら、そのテオの作った剣を手に取った。
「くそぉおお……! これがあいつのぉぉおお……!」
そうしてボンドが、テオお手製の剣を振るう。
見下していたテオに、ボンドが屈した瞬間だった。
* * * *
その一方で、村での食糧事情も大きく変化していた。
テオとテトラがいなくなったことで村人が減った。つまり二人分の食料に余分ができた……ということもなく、今はまだ大丈夫なのだが、このままだと食糧不足になる気配があった。
それは単純に、魔物の討伐に人手が割かれてしまい、別の作業が滞ってしまっているのだ。
魔物の討伐は畑仕事とは別の体力を消耗することになる。
そのせいで、そちらにまで手が回りそうにない。
なにより、この村には未だに教会からの神父が滞在している。
その神父はすでに目覚めているが、あの日、独断で動いたことにより、神からの罰を受け、廃人のようになっていた。それにもかかわらず、食事の量は多く、現在村長の家に泊まっているそれを賄うために、村長は自分の分の食事を抜かねばならなくなるほどだ。
(く、くそ……、教会の目がなければ……)
神父以外にも、教会の者たちは数人この村に滞在している。
なにか粗相をして、彼らに教会へと報告されたら村長の首が飛ぶ。彼ら自体は公平で正しい心の持ち主なのだが、村長はそれを恐れていた。
教会の者たちの何人かは、すでに教会へと発っている。
それは聖女のテトラが死んだことを報告するためでもあり、神父の今の状況を報告するためだ。
残りの者は村人とともに農作業をしており、彼らが働き者だったのが唯一の救いだった。
その他の村人たちも、総出で食料の確保をするための案を出している。
その中には、先日スキルの啓示を受け、自分のスキルを知った村の少女たちも集まっていて、色々と試行錯誤をしている。
そうしながらその若き少女たちがする会話は、村からいなくなってしまったテオの話題ばかりだった。
「ほんと、ありえないわ……! テオくんを村から追い出すなんて、あの村長は何考えてるのかしら……!」
「そうよ……! テオくんはテトラちゃんを失って辛いはずなのに、村からも追い出すなんて人のやることじゃないわ……!」
彼女たちは以前からテトラとも仲良くしていた少女たちだった。
彼女たちはテオが村から追放されたことに怒りを抱いていた。
「教会の人達も言ってたもん。テオくんは悪くなかったって……!」
「テオくん……大丈夫じゃないよね。テトラちゃんのこともあるし……」
「私ももっとテオくんに寄り添いたかった……」
「「「はぁ……」」」
彼女たちはため息をつく。
その顔には後悔ばかりが浮かんでいた。
テオは村で見下される存在だったが、村の少女たちからの評判は良かった。
そんなテオのことを考えると、少女たちはどうしても上の空になってしまう。
そしてテオのことが自然と頭に思い浮かんでくると、切なさを感じる。
大人しめで、話しかけると、答えてはくれるものの、どこかぎこちなかったテオ。
テオは女子と喋るのが、下手な少年であった。そういう控え目なところにも、彼女たちは惹かれていた。
「「「テオくん……」」」
その他にもテオがいなくなったことで、様々なところで綻びが見え始めていた。
テオはこの村を人知れずに豊かにしていたのだ。
故にこの事態は自然なことで、いつかは訪れるはずのことで。
それでもこの村は、他の村と比べると、今までが豊かすぎるほどで……。
一度、その恩恵を受けていた村人たちは、陰ながら自分たちを支えてくれていたテオのありがたさを今になって深々と知るのだった。
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