第44話 魔法スキル③

 この世界には魔法という超常の力が存在する。

 自身の体内や大気中に存在する魔力を操り、様々な現象を引き起こすスキルだ。


 魔法を使うには、対応する魔法の才能のスキルを取得しただけでは足りない。

 魔力を知覚できるようになる『魔力知覚』、魔力に干渉できるようになる『魔力操作』のスキルを取得して初めて魔法を使うことができるのだ。


 ゴブリンの集落での戦いで俺たちは大量のポイントを得た。

 俺たちは攻撃手段を増やすべく、そのポイントを使い新たなスキルの取得する。




「ははっ。魔法かあ。ワクワクするな」


 ファンタジー世界に来てから憧れ続けてきたのが魔法だ。

 俺は上がったテンションを自覚し、手のひらを前方に向け構える。

 狙う先に居るのはフヨフヨと体をくねらせているスライムだ。


 『魔力知覚』を発動すると大気が青白く光って見える。

 この光が魔力を示しているのだろう。


 俺は『魔力操作』を用いて大気中の魔力を操作する。

 これは『集中』の使用感に似ているか。


 違いは『集中』が消費するのがSPであるのに対して、『魔力操作』はMPを消費する点だ。

 俺の体の中から魔力が抜けていく軽い虚脱感を覚える。

 

「行くぞ、『ウインド』!」


 手に力を込める。

 すると、目の前で魔力が渦巻くのを感じる。


 俺が取得したのは『風の魔法の才能』だ。

 俺は感覚に身を任せ、さらに手へと力を込める。


 次の瞬間、俺の前方へつむじ風が走る。

 魔力を纏った青い風はスライムを吹き飛ばし、その核を打ち砕いた。


「おお。結構威力があるな」


 ただの風であればスライムの核を打ち砕くなんて無理だろう。

 この威力はやはり魔法ゆえだと言うことか。

 


 俺が風の魔法を選択したのは弓矢との相性を考えてのことだ。

 俺は続けて弓矢を構える。


 手ごろなモンスターは周囲にいなかったため、俺は適当な岩に狙いを定め弓を引く。

 矢を放つと同時に『ウインド』を発動。


 魔法の風は狙い通り矢を包み込むようにして直進。

 そのまま超速で進んでいき岩へと着弾。

 風の矢は岩の表面を大きく削り、岩へとめり込んだ。


 予想通り、風の魔法は弓矢の威力を上げてくれるようだ。




「風の矢、かっこいいっすね!」


 声に振り向くと、チームのメンバーが俺の下に移動してきていた。


「みんなはスキルの取得は終わったのか?」


「はいっす。それで、皆でスキルを見せあおうって話になったんすよ」


「いまのロンリの魔法、凄くカッコよかったね! 実は私もロンリと同じ風の魔法を取得したんだ。歌と風って相性よさそうでしょ!」


 皆の顔を見れば笑顔が浮かんでいる。 

 俺と同じで新しいスキルに心が浮かれているのだろう。


「よし。じゃあ、順番に魔法を見せあうか。お互いのスキルを知ってなきゃ連携もできないからな」


「うん。賛成だよ!」


 俺の提案を皆が了承する。

 俺たちは自身の取得したスキルを互いに披露することにした。




「じゃあ。私から行くね。『ウインド』!」


 ウグイは手のひらを前に突き出し、スキルを使用した。

 川に向け打ち出された風の弾丸。

 それが着水すると、水中で爆発が起きたかのような大きな水しぶきを上げる。


「なかなかの威力だな」


「うん。でも、私が風魔法をとったのは攻撃の為だけじゃないよ! 見てて。あなたに癒しを~♪ あなたに活力を~♪」


 ウグイの声に乗せ、体力を回復させる風が体を包む。

 魔力で生み出した風により届けられる癒しの歌は、今まで見てきた歌の効果範囲よりもずっと広い。


「なるほどな。音は空気の振動だから、風魔法で強化ができるのか」


「うん。これでより遠くに、たくさんの人に私の歌を届けることができるね!」


 ウグイは嬉しそうに笑う。


 ウグイの風魔法。

 攻撃魔法としても十分な威力だが、これで回復要因としての活躍もより見込めるようになった訳だ。




「ウチのスキルも見てよっ! ウチは『雷拳』っていう拳に雷属性を纏わせるスキルにしたよっ!」


 キツツキは手にはめる金属製のグローブ同士を撃ち合わせる。

 バチバチと、グローブの間に雷光が走った。


「この拳を打ち込めば、相手を痺れさせて動きを鈍らせることができるらしいよっ! 私の連撃と相性がよさそうだよねっ!」


「それって、自分は感電しないものなのか? めっちゃ痛そうだが」


「ううん。自分には効果が無いみたいだねっ!」


 キツツキは拳をぶんぶん振って見せる。

 拳の表面を電気が走っているのだから普通であれば痛みがありそうだが、キツツキ自身にはダメージは無いようだ。


「まあ、それを言うなら『連穿』とか、『インファイト』とか、木を粉砕できるような一撃を拳で放っても私の拳が壊れてないんだから何を今更って感じだけどねっ!」


「まあ、確かにそうだな。魔法なんかもいったん手元で火の玉なんかを生成してから打ち出してるし、アルマの『硬殻』みたいにダメージ自体を軽減するスキルもあるもんな。使用したスキルの影響で自分がダメージを受けることは無いっていうことか」


「まあ、そういうことだねっ!」


 あははっ、とキツツキは豪快な笑いを見せる。


 なるほど、自身のスキルに対する耐性か。

 だが、そう考えるとゴブリンメイジ戦はどうだったんだろうか。

 俺はゴブリンメイジが生成した火球のコントロールを奪い、ゴブリンメイジを倒している。


 つまり魔法は自分の制御にあるうちはダメージを受けないが、発射し自分の制御を離れればその限りではないということだろうか。


 いままでは自爆するようなスキルが無かったから気にしていなかったが、自分の近くに魔法を放つときは注意が必要そうだ。




「ロンリさん。僕のも見てくださいっす! 『土遁の術』!」


 俺が魔法の仕様を考察していると、ウサギから声が掛かる。

 新しく取得したスキルを使うようだ。 


 ウサギの職業は忍者だ。

 忍者には一般的な魔法とは別に忍者専用の魔法である『忍術』というものが存在する。


 今回ウサギが取得したのは『土遁の術』であった。

 本来の意味での土遁の術は土の中に術者が隠れることを指すはずだが、このスキルでは違うようだ。

 ウサギが力ある言葉を発すると、前方5メートル程の地面が隆起し、高さ三メートル程の小高い山が出来上がる。


「今のが土遁の術っす。地面を隆起させたり、逆に陥没させたりできる見たいっす」


「へえ。地面の陥没っていうのもこのぐらいの規模でできるのか?」


「そうっすよ。最大で三メートルぐらいまで陥没させられるっす。まあ、最大威力でやってしまうと魔力が枯渇しちゃうっすから今も結構しんどいんすけどね」


 見ればウサギの顔色が青くなっている。

 今の魔法も相当無理して発動したようだ。


「三メートルの隆起や陥没だと攻撃としてはいまいちか」


「うう、そうなんすよ。これじゃあスライムも倒せないんす。火遁の術が強力だっただけに、土遁の方も土から鋭い槍が突き出してくるみたいなのを想像してたんすけど、形状を指定するような細かい操作は無理みたいっすね。これはスキルレベルが上がるのに期待っす」


「ああ。だが、防御面では結構使えそうだな。目の前にこれだけ大きな土の壁を作れるのなら立派な盾になる」


「それも微妙なんすよね。僕の場合土遁の術を使うぐらいなら走って逃げた方が早いっすからね」


「はは。そりゃあ贅沢な悩みだな」


 ウサギの不満だか自慢だか分からない言葉を聞いて俺は苦笑する。

 



 その後もチームメンバーで順々に新しいスキルを披露していくことになった。


 アルマは『氷の魔法の才能』を取得。

 これでアルマを氷弾を生成し攻撃が可能になった。

 また、地面を凍らせたり、周囲の気温を下げることで相手の行動を鈍くする事も可能だ。


「やはり僕みたいなクールな男には氷魔法が似合いますね!」


「おーい、アルマ。戻ってこーい」


 ……アルマ、大丈夫か?

 長年ファンであった団長さんと出会ってから、アルマはずっと浮かれ調子だ。

 戦闘はちゃんとやってくれているので問題は無いのだが。

 いい加減、気持ち悪いぞ。


 まあ、アルマ自身はさておいて。

 アルマが氷魔法を選択したことはナイスな判断だろう。


 魔法で生み出した氷は当然固体だ。

 壁のように使えば敵からの攻撃の防御にも使えるはずだ。


 低温による行動阻害は効果が出るまでに時間が掛かるが、受けを主体とするアルマにとっては相性がいいだろう。


 後は発言も冷静であれば文句のつけようがなかったのだが。



 さあ、気を取り直して。

 キツネが取得したのは『光の魔法の才能』だ。

 キツネの戦闘スタイルは『虚飾』を使い他人の姿をコピーして戦うものだ。

 そのため自身のスキルへの依存度は低い。

 

「な、なので私は攻撃手段としてではなく、サポートの手段として光魔法を取得しましたあ」


「光魔法か。どんなことができるんだ?」


「ええっと、光を発したり、光を操作できる魔法ですう」


「あれ? 光魔法と言うと治癒とか回復のイメージがあるけど」


「すみません。光魔法にそんな効果は無いようですう」


 なるほど。光魔法は文字通り『光』を操る魔法というわけだ。

 イメージとは違うが有用そうなスキルであることは間違いない。


 キツネの『虚飾』はコピーする対象のスキルに能力が依存するため、隙ができやすい傾向がある。

 光魔法であれば姿を隠すなどの効果が期待でき、その隙を埋めてくれそうだ。


 キツネが手のひらをかざすとそこから強力な光が発せられた。

 これなら灯りとして使える上に、相手の目をくらませることもできるだろう。



 最後にレイブンのスキルだ。

 彼女が取得したのは『爆発の魔法の才能』。

 レイブンの職業は錬金術師であり、いくつかの魔法が職業スキルに載っている。

 爆発の魔法も一般スキルには乗っていない魔法系の職業に特有のスキルの一つのようだ。

 レイブンはすでに雷の魔法も持っていたようで、これで現在二種類の魔法を使うことができる。


「爆発の魔法は他の属性魔法とは違い、特殊な魔法になります~。消費する魔力が膨大である代わりに威力は強力で、半径3メートル以内の任意の地点に遠隔で爆発を起こすことができます~」


「おお。それは強力だな。敵の近くでいきなり強力な爆発を起こせるわけだ。そんなの避けられないだろ」


「普通はそうですね~。ただ『魔力知覚』を持っている敵なら回避は可能です~。火や水の魔法などは魔力を物質に変化させますが爆発魔法は魔力をエネルギーとしてそのまま使います~。魔力は圧縮されると爆発する性質を持っていて、爆破魔法はその性質を利用します~。周囲の魔力を一点に凝縮させてから解放する事で爆発現象を起こすんです~」


「魔力を一点に凝縮する、か」


 レイブンの説明に俺は頷く。



 これで全員の新スキルを確認した。

 一気に強化された俺たちチーム。

 俺は各々、自身のスキルを試す皆を見て笑みを浮かべるのだった。

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