第43話 魔法スキル②

 『物理軽減』により物理攻撃の効き目が薄いスライム。

 炎による攻撃が効きづらい水棲のモンスター。


 川に生息するモンスターたちは今まで俺たちチームが主力で使ってきた物理と炎に耐性を持っている。

 俺たちは川での戦いを経験し、新たな攻撃手段の必要性を感じていた。


「一度皆さんで休憩しましょう。少し早いですが晩ご飯でも食べながらスキルの話はしましょうか」


「はい。ぜひそうしましょう」


 俺たちは川に着いてからモンスターたちと戦い詰めだった。

 疲れも出てきていたため、俺はコウノさんの提案を二つ返事で了承する。




「うわあ。本当になんでも収納しておけるんですね」


「ああ。すげえ便利だよな」


「チーム倉庫があれば普段使いの調理器具ぐらいなら問題なく持ち運べますよ」


 団長さんとコウノさんがまずはビニールシートを取り出して敷くと、その上にチーム倉庫から物品を次々に取り出していく。

 バーベキューコンロが二台に、炭に、野菜や肉などの食材。

 テーブルが二脚、椅子が七脚。

 テーブルの上には皿やコップなど食器類が置かれる


「僕らも食べちゃっていいんですか?」


「もちろんです。その代わり皆さん、焼くのを手伝ってくださいね」


「はい!」


 コウノさんは炭に魔法で火をつけると、コンロの上に金網を乗せる。

 俺たちは手にしたトングを片手に野菜や肉を網に載せていく。


 香る肉の焼ける香ばしい匂い。

 俺の腹の虫が鳴きだす。


「そういえばこの肉って何の動物の肉なんすかね」


「はあ? ……ウサギ、嫌な想像をさせるなよ」


 肉を焼いていると、隣で皿を構えていたウサギが変な質問をしてくる。

 というか、なんでお前は食べる専門です、みたいなスタンスなんだよ!


 何の肉か、か。

 見た目は普通の鳥の肉に見えるが、聞かれると確かに気になってくる。

 まさかカエルとか、モンスターの肉じゃ……


「いいえ。さっきまで戦っていたカエルの肉とは違いますよ。普通の食用肉です」


 ウサギが確認すると、コウノさんは笑顔でそう返答される。

 良かった。カエルの肉じゃなかったのか。


「それで、何の動物の肉なんすか?」


「ええっと……まあ、味はおいしいですよ?」


 うわああああああああ。ウサギ、なんで確認するんだよ。

 せっかくコウノさんがごまかして答えてくれたのに。


「ええっ!? なんでオオカミさんそんな怒った目で睨むんっすか」


「うるせえ。食べ物の恨みだ!」


 あえて詳しく聞かなかったのに、これでは悪い想像をしてしまうじゃないか。

 俺は怒りのままにウサギを睨みつける。




「それで、おめえたちはどのスキルを習得するつもりなんだ」


「うーん。まだ決めかねてます。俺は魔法スキルを習得しようと思うんですが、おすすめってありますかね?」


 食材が焼ける。

 気持ち肉を少なめにとりながら食事をしていると団長さんから声を掛けられる。


 スキルの取得は各々で考えることに決まった。

 俺も一通りスキル欄に目を通したのだが、どうせならやはり前々からあこがれていた魔法を取りたい。


 しかし、今のポイントでは魔法の前提スキルである『魔力知覚』と『魔力操作』を取ると一種類の魔法を取得するのが限界であった。

 いったい、どの魔法にするべきか。


「魔法のおすすめか。俺は魔法スキルは取ってねえからな。他のチームメンバーが使っているところを見ての感想になるがいいか?」


「はい。それでも構いません」


「僕も一緒に聞かせてください!!!」


 アルマが勢い勇んで話に加わってくる。

 うん。本当にアルマは団長さんのことが好きだな。

 ……おかげで耳の中がキーンとしたじゃねえか。

 耳元で大声を出すなよ。


「おう。元気なのはいいことだぜ」


「はい! ありがとうございます」


 アルマの声に団長さんが笑顔を漏らす。


「ははは。まあ、参考になるかわからんが話すぞ。まず前提としてスキルは一般スキルと職業スキルに分けられるのは知ってるよな。職業スキルの方が一般スキルに比べて取得コストが安いし、その職業特有のスキルなんかは総じて効果が高めに設定されているようだ。もし、職業スキルに魔法関連のものがあるならそれを取得すべきだろうが……」


「残念ながら俺の職業には魔法関連の職業スキルはありませんね」


「僕もです」


 俺の職業は狩人で、アルマの職業は騎士だ。

 どちらも物理系の戦闘職であり、職業スキルに魔法関連の物はない。


「そうか。なら一般スキルから取得するしかねえな」


「はい。それでどのスキルを取得しようか迷っているんです」


 一般スキルに並ぶ各種魔法の才能は計七種類だ。




~~~~~


『火の魔法の才能』 50ポイント:火(熱)を生み出す 火を操作する


『水の魔法の才能』 50ポイント:水を生み出す 水を操作する


『氷の魔法の才能』 50ポイント:氷(冷気)を生み出す 氷を操作する


『土の魔法の才能』 50ポイント:岩を生み出す 土(地面)を操作する


『風の魔法の才能』 50ポイント:風を生み出す 大気を操作する


『雷の魔法の才能』 50ポイント:雷を生み出す 雷を操作する


『光の魔法の才能』 50ポイント:光を生み出す 光を操作する


~~~~~





 それぞれ魔法の取得ポイントは同じだ。

 そうなると性能面も大きな差は無いと思われるため、あとは自分の戦闘スタイルと合うかどうかが選択基準となる。

 

「そうだな。まず『火の魔法』は手元に火の玉を生成、それを打ち出して攻撃する魔法だ。レベルが上がればより強力な火の玉を生成できるようになる。他にもすでに存在する火の勢いを増したり、周囲の温度を上げることができる」


 火の魔法と聞いて想像するのはやはりゴブリンメイジだろう。

 辺り一帯を焼き尽くす圧倒的な威力。

 あの魔法を見たせいで強力な魔法のイメージがあるが、取得したばかりでは10㎝大の火の玉を生み出せる程度らしい。


 そもそも水棲のモンスターには火が効きづらいから新しい攻撃手段を取得しようとしているのだ。

 火の魔法は選択肢から外れるだろう。


 団長から他の魔法の特徴も確認したが、それぞれが大まかにできることは共通しているようだ。

 魔法の主な効果は二つ。


 一つはその魔法に対応した物を手元に生成し、発射する効果。

 例えば土の魔法であれば手もとに10㎝大の岩を生成。

 生成した岩を相手に向け発射できるというものだ。

 風の魔法であれば空気の弾丸、雷の魔法であれば雷撃を放つことが可能となる。


「効果を聞くと同じ威力で打ち出すなら氷や土は生成されるのが固体なので威力がありそうですし、雷も強そうですね」


「ああ。確かにそうだな。だが、魔法の効果はもう一つある。魔法で物質を生成するだけでなく、すでに周りにある物を操ることもできるんだ」


「ええっと、例えば、水の魔法だったら川の水を操作して相手にぶつけることができる、とかですか?」


「ああ。対象が自分の周囲一メートル以内にある物である必要はあるが、一から物体を生成するより魔力の消費はずっと少なくなる」


「そうなると、ええっと。川の水を操作してモンスターを窒息させるなんて使い方もできますかね」


「おお、おめえさんいきなり怖いこと言うな。まあ、一メートル以内にあるものであれば浮かせたり、自由に動かしたりできるぜ。本来ならそれを打ち出して遠くの敵を攻撃するのに使うがな」


 団長さんは若干引きつった笑顔を浮かべている。

 俺は水集中の運用を思い浮かべながら質問したのだが、確かにいきなり窒息とか言われれば驚くか。


 その後も団長さんから話を聞きながら次に取得すべき魔法を検討した。




「おう。どうやら決めたみたいだな」


「はい。武器との相性を考えて、俺は『風の魔法の才能』を取得することにしました」


 食事を終え、悩むこと10分程。

 俺は取得するスキルを『風の魔法の才能』に決定する。

 俺の武器、弓矢と相性のいいスキルということで矢の推進力を上げられる風の魔法を選んだのだった。


 アルマは取得する魔法をまだ迷っているようだ。

 ノートに何やら書き込みながら、地面に座り込んで真剣に何事かを考えている。


 他の皆はスキルを決めただろうか。

 チームの皆のスキルも気になるが、それよりもまずは自分のスキルの試し打ちがしたいな。


「団長さん。ちょっと試し打ちに行ってきますね」


「ああ。この辺りはそこまで強いモンスターは居ねえがあまり遠くには行くんじゃねえぞ」


「はい。気を付けます」


 俺は初めて使う魔法にワクワクしながら、川の方へと移動を開始する。

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