第19話 岩集中

 オークとの激闘を終えた翌日。

 俺たちは森へ探索に出かけると、モンスターを相手にスキルの使用感を試していた。


「ウキャキャ」


「ウキャー」


 相手は猿型のモンスター、グリーンエイプ。

 グーリンエイプは五匹以上の集団で行動するモンスターで、普段は木の上で生活している。

 敵が近づくとすぐに逃げ出す臆病な性格で、いままで一体も倒せていなかった。


 俺たちは慎重に身を隠しながら狙いを定める。

 グリーンエイプの群れはまだこちらに気づいていない。

 奇襲を仕掛けても矢の一発で倒すことは不可能。だが。


「“石”集中!」


 俺は木々の後ろに隠れスキルを発動。

 狙うは猿の内の一体。

 俺は事前にマーキングを施しておいた拳大の石を集中の対象にする。


 俺自身も認識できない程の速度で飛来する石の弾丸。


――ゴスッ


「ウキャ!?」


 見事命中!

 石が頭に直撃した猿はそのまま地面に落下。

 他の猿たちは突然の事態に蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。




「よっしゃ! 仕留めたな」


「オオカミさん。お見事っす!」


 俺たちは地面に落ちた猿の下に近寄る。

 そこには頭蓋骨部分が大きく陥没した猿が転がっており、死んでいるのは明らかであった。


 石集中は、オークを倒した岩集中の廉価版だ。

 マーキングで印をつけた対象を、集中で引き寄せる。

 5秒かけて対象を目標地点まで移動させる集中の効果の影響で、距離が離れれば離れるほど威力が増加する。


 弾となる岩を小ぶりな石に変えたことでSPの消費を抑え、発動を容易にしたものだ。

 オークのような高耐久のモンスターでなければ石をぶつけるだけでも攻撃力は十分。

 こうやって不意打ちであれば倒すことができるわけだ。


 俺はウサギとハイタッチ。

 戦闘の勝利を喜ぶのだった。






 俺たちは場所を移すと、地面に腰を降ろし休息を取る。


「オオカミさん。まじパねえっす!」


 ウサギは開口一番に俺に賛辞を送る。


「すごい威力っすね、石集中。それに、オークを倒したときは岩集中でしたっけ。オークの巨体がトラックに轢かれたように吹っ飛んでいったす。オオカミさん、まじ最強っす」


「いや、岩集中は確かに強力だがいくつか欠点がある。使い勝手は悪いぞ?」


 ウサギの言葉に俺は苦笑を返す。

 ウサギは手放しに褒めてくれるが今使った“石集中”、そしてオークを葬った“岩集中”にはいくつもの明確な欠点がある。

 そう気軽に使える技では無いのだ。


「欠点っすか?」


「ああ。それも致命的なものが四つ。まずは距離の制限だ」


 俺は真剣な眼で首を傾げるウサギの前に手を出すと指を一本立てる。


「マーキングは効果範囲が無制限で、どこに居ても視認可能だ。だが、集中は別だ。集中は対象に取る物体が、重く、遠くにあるほど消費するSPが増加する。つまり、あまり離れた位置の物を対象に取ると、目的地にたどり着く前にSPが尽き不発に終わる」


 現在俺はレベルアップしSPの最大値は増えている。

 しかし、オークとの戦いではその上限値近くまでSPを消費した。

 つまり現在の俺のSPでは岩を集中させようとすれば500メートル程が限界だということだ。


 ここは障害物の多い森の中だ。

 仮に途中で集中の効果が切れれば、高速で飛ぶ石の行き先は予想できず下手をすれば自分にあたる可能性もある。

 対象に取る物体を質量の小さい物にすれば距離は伸ばせるが、それも根本の解決にはならない。


「なるほどっす。でもそれはレベルアップしてSPが上がれば制限は緩和されるっすね」


「ああ。そこは今後に期待だな」


 レベルが1上がることで増えるSPは10。

 初期値の100と比べ、10%分も上昇するのだ。

 どこまでレベルを上げることができるのかは分からないが、期待は十分に持てる。

 いつかSPを気にせずにスキルを発動できるようになればいいが。


「二つ目の欠点は連射が不可能な点だ。マーキングで印をつけられる対象は同時に三つだけだ」


「ああ、それだとSPがあっても最大で三発までしか打てないんすね」


「マーキングのスキルレベルが上がれば、同時に打てる印の数も増えるがな。これも今後に期待だ」


 対象に取る物体との距離が遠すぎれば不発に終わるが、近すぎても威力が出ない。

 必然的に岩集中を使うにはマーキングした対象からある程度離れる必要がある。

 マーキングで印をつけるには、対象に手で触れる必要がある。

 一発撃つごとにある程度の距離を移動していては、連戦で使うには向かないだろう。


「三つ目の欠点は着弾までの時間だな。集中の仕様上、スキルを発動してから着弾まで5秒かかる。動いている対象が相手だと5秒あればある程度の距離を移動してしまう」


「5秒のラグは確かに痛いっすね。こちらに気づいていない相手ならまだしも、ウルフのような俊敏な相手には当たらなそうっす」


 オークを相手にしたときは相手が俺に向けまっすぐに進んできていた。

 的も大きかったため無事に当てることができたが、ウサギのいうように俊敏で小柄なウルフのような相手であれば当てるのは難しい。


「それで最後がSPを大量に消費する点だな」


「んん? それさっき言わなかったっすか? それはスキルなんだから当たり前っすよね」


「ああ。だが、岩集中の場合その消費量が問題だ。岩集中一発で俺はほとんどすべてのSPを消費する。つまりスキルが使えなくなる」


「それは確かにデメリットっすね。SPの回復にも時間が掛かるっす」


「俺の攻撃手段はSPに依存する物がほとんどだからな。SPが尽きれば俺は牙を抜かれたも同然だ」


 岩集中は確かに強力な攻撃手段だ。

 今までに俺が出すことのできなかった高い攻撃力を実現することができる。


 しかし、挙げればこれだけの弱点があるのだ。

 考えなしに使っていればいつかは隙を付かれ、手痛い反撃を受けるだろう。

 使うとしたら鈍重で、倒すのに火力が必要なモンスターぐらいか。


 これからも基本の攻撃は弓矢と水集中が中心となるだろう。




「うーん。岩集中を使わないっすと、オークを倒すのは難しいっすね。北の方の探索はどうするっすか」


「しばらくは拠点の南側で活動するしかないな。運悪くオークが拠点付近に来たら、最悪拠点を放棄することになるかもしれない」


「ひええ。それは勘弁っす」


 オークは高耐久、高火力のモンスターだ。

 今の俺たちの攻撃手段で通用するのは岩集中だけだろう。

 それも連発はできないから、仮に2匹以上で群れているところとぶつかれば必敗だ。


 俺たちが北側の調査を計画しているのは拠点の安全を確保するためだ。

 安全を確保するために渡らなくてもいい危険な橋を渡っていては本末転倒だ。

 幸いウサギの足があるから逃げることは可能だろうが、避けれる危険は避けた方がいい。

 ここはオークたちを無理に刺激せず、南側のモンスターを倒し実力を付けるべきだろう。


「拠点を失わないためにも、早いところ強くならなきゃな」


「はいっす」


 俺たちは今後を見据え、計画を立てるのだった。

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