第26話 閑話 色に溺れる
今回は本題に全く関係ないので、読み飛ばしても大丈夫です。
大学生のダメダメな日常です。つまり日常回。
×××
全日本が終わった後の直史は、疲労回復の名目でもって、堂々と野球部を休んでいた。
それでも微調整のために100球ぐらいは投げ込みをし、朝晩にはストレッチをするところなど、完全に野球ジャンキーの行いである。
肉体の回復のためにしっかりと安静にするのか、それともあえて動き回って微調整を行うのか、どちらかが正しいのかは程度による。
さすがの直史も試合で倒れた時などは、丸一日は休んでいたものだ。
どちらにしろ全日本の終わった後、野球部は一週間はオフになる。
もっともその間も、練習をするやつはいて、それなりに自主トレはするのだが。
直史はそれなりに運動はしていたが、前から考えたことを実行しようとしていた。
パソコンやタブレットではなく、あえて紙を使ってまとめたそれ。
見せられた瑞希は真っ赤になっているが、どこか期待もしている。
「というわけで48時間耐久セックスの内容を考えよう」
バカ二人と言えなくもないが、大学生の中では時々こんなアホなことをするエロエロカップルはいる。
瑞希が父の知り合いから紹介してもらった部屋は、セキュリティもしっかりしていて、防音などもちゃんとした、ワンルームだが充分に広いものだ。
東京の学生の部屋など、三畳ほどしかない狭いワンルームもあるものだが、瑞希の父はかなり娘の身の安全を案じている。
まあそんな恵まれた環境での一人暮らしなので、直史はこんなバカなことを考えるわけだ。
高校時代から一度はやってみたかったのだ。
お互いの性欲を、とことんまで満足させるというこの行為。
土日を使った、本当にセックス漬けの48時間。
そのための計画を二人は、主に直史が主導で考えているのである。
真剣な顔をした直史が言う。
「まず事前に用意しておくものだけど、二日分の飲食物。特に水分補給は大事だな」
おそらく野球の試合よりも汗だくになるので、一番それは重要なことである。
あとは二日間部屋にこもりっきりになるので、レトルトの食品類。
ベッドの上で散々に運動するので、バスタオルやタオルは当然大量に準備する。
直史はこういうことを準備しているのが楽しいらしいが、瑞希はまだそこまで割り切れない。
正直なところ、かなり堅い家庭で育った瑞希は、快楽に溺れることがあまり良くないという価値観を持っている。
だが直史は、開発してくるのだ。
瑞希の肉体自体は、普通に快楽を追求できるタイプだと、自分でも分かっている。
そして自分でも意外なことだったが、瑞希はMである。
肉体的に痛いことなどは別で、言葉で罵られることなどが好きなわけではないのだが、自分の中の性欲を露にさせられるのが、恥ずかしいが気持ちいい。
ちなみに直史はドSである。
だが肉体的・精神的に痛めつけるのが好きというわけではなく、相手を支配するタイプのサディストだ。
瑞希が感じている限りでは、上手に気持ちよく恥ずかしい気持ちにさせてくれるのだ。
そしてその後は、ぐでぐでの状態で散々に甘やかしてくれる。
まあピッチングの感じなどを見ていれば、相手をおちょくるのが大好きであるのは間違いない。
そんな二人の性癖が完全にマッチしているのが、羞恥プレイと拘束プレイである。
とは言ってもそこまで過激なものではない、と直史は思っている。瑞希にとっては充分に過激なのだが。
羞恥プレイでも恥ずかしい格好をさせるというのもあるが、自分の肉体の中にある快楽への欲望を曝け出させることを、瑞希は恥ずかしがりつつも好む。
直史は相手の屈辱的な様子を見つめながらも、本当に尊厳に触れるところまでは快楽を追求しない。
自分にだけはこんな姿を見せてくれるのだ、と思うと興奮する。
羞恥プレイでも直史は、瑞希の露な痴態を他人に見せつけることなどは考えない。そういった姿まで含めて、全て自分で支配したいと考えるのだ。
よって一番簡単な形であると、跡が残らないように手枷などを使って、ベッドに拘束するのが一番多い。
あとは足も拘束して、恥ずかしい姿を隠せないようにしたりする。
高校時代からベルトやタオルなどでの、簡易的な拘束プレイは行っていた。
だが自分の部屋ということもあって、瑞希は色々と器具を持ち込まれている。
どうせここでするしかないので、ここに置いておくのが合理的なのである。
「あとは強壮剤に、器具か。ローションも一応用意して、途中でシャワーも浴びるだろうし」
まるで旅行の準備をするかのように、チェック項目を確認していく直史である。
「ピルは大丈夫なんだっけ?」
「うん、それはいつも通りに」
実は性生活が安定的に行われるようになってから、ホルモンの分泌が変わってきたのか、瑞希の体調は良くなっている。
ただ今度は避妊のために、ピルを飲んでいるわけである。
淡々と器具を並べていく直史であるが、瑞希の見慣れない、よく意図が分からない物もある。
「これは何?」
「これは――」
説明されて絶対の拒否に合う事もある。
ただだいたい瑞希は、興が乗ってしまえばたいがいのことは許してくれる。
だが幸いと言うべきか、二人には価値観の違いはあまりない。
それとさすがにやめてくれというワードを決めておくのも大切である。
準備が終わった金曜日の朝、直史は週末の食事はいらないと寮の食堂に伝えておく。
樋口もまた、女のところに行くらしい。
直史の価値観的に見ると、樋口の本命は新潟にいる年上の女性である。
だがどうせ性欲を処理するなら、たっぷりと運動もしておきたいと、そんな雑なことを考えるのでが樋口である。
本命の女性がいるのに、わざわざ手間をかけて、そういった人間を確保しておくというのは、直史には理解出来ないことである。
「俺は別にどうでもいいんだけど、向こうから近寄ってくるからな。お互いに軽い関係だし」
「避妊と性病予防はちゃんとしてるのか?」
「避妊具での避妊はあまりアテにならないから、ちゃんとカレンダーでの確認もしてる」
こいつは本当に、本命以外には対応が雑である。
六大学の中でも早慶の野球部は本当にモテる。
中でもこの二人のように、一年の春からベンチに入っている者は特別だ。
特に顔が売れている直史などは、合コンの人数合わせに、野球部以外でも呼ばれたりする。
その場合まだ人数が足りていなければ、樋口か星や西を誘うことが多い。
直史がこれだけは理解しがたいのは、樋口はセックスフレンドがいるにもかかわらず、将来の嫁候補を名門女子大の皆さんとの合コンで探したりすることである。
法学部の方でそういうことがあれば呼んでくれと、直史にまで言っているのだ。
樋口は直史と違って、完全にその辺りの倫理性が薄い。
もっとも単なる女好きで、食えるものを全て食うという考えではない。
「いつか刺されないか?」
「キャッチャーだから刺すほうが得意だけどな」
「誰が上手いことを言えと」
大学のキャンパスでは、直史は樋口と会うことは少ない。
そもそも法学部は、法学関連の講義を多く取らなければいけないからだ。
だがそれ以外の教養系の単位は、そこそこ同じ講義であったりする。
けっこう趣味の性質が似ているのだ。
あとは高校時代からのつながりで、星と西が、違う学部ではよく話す。
近藤たちとはクラブハウスでは話すのだが、キャンパスが違うためそれ以外では没交渉になりがちだ。
それでも土方あたりが、合コンの数合わせに樋口を誘っていくことはあるが。
また、西はそろそろ本気で彼女がほしくなってきたらしい。
ラブラブイチャイチャしている直史や樋口が悪い。
樋口の方は外では、それほどイチャイチャなどはしていないのだが。
あと西は案外女性関連ではヘタレなところもあるため、星を巻き込むことが多い。
すると樋口の愛人つながりで、三人で合コンというほどでもないが、食事をしたりはするらしい。
あと人数が合わないと、直史が呼ばれたりする。
こういう時の直史は、瑞希におそるおそる承諾をもらってからしか参加しない。
肉体関係では完全に主導権を握っているつもりの直史だが、恋愛関係においては対等でいたいと考える。
そもそも本人の認識では、別に他の女性と関係など持ちたくないのだが、普通に交友関係は増やしていきたいのだ。
直史の将来設計は瑞希と綿密に絡み合っているため、彼女のご機嫌伺いは大切なことである。
もちろん本心から、他の女性に目が向かないのも本当のことだが。
大学生活というのは、なかなかに暇だったり忙しかったりする。
だが直史も樋口も思うのは、野球部は忙しすぎるということだ。
毎週月曜日はオフであるし、リーグが終わった後などは一週間オフになるのだが、それ以外はほとんどずっと練習をしている。
朝から晩まで練習をしている人間もいるのだが、実際の練習時間は少ない。
いくら設備が揃っていても、100人以上の部員がいれば、練習場や設備のリソースは限られているのだ。
そんな中で直史は、辺見から話を求められたこともある。
来年、弟の武史が、やはり早稲谷に入学してくる予定だと。
直史としては、自分よりも素質は上だと答える。
だが同時に、自分以上にマイペースだとも正直に答える。
直史は勝つためには、やるべきことをちゃんとやる人間だ。だが武史にはそこまでの意識はない。
実の弟であるだけに、直史は武史のことをちゃんと把握している。
おそらく武史が人生で一番努力したのは、高校の入試試験対策である。
それ以降の野球部での練習でさえ、あれ以上には頑張っていない。
逆に言えばその程度の頑張りで、あそこまでのピッチャーになっているということでもある。
辺見としては158kmが投げられるサウスポーなど、欲しいに決まっている。
しかも春のセンバツの優勝投手だ。
U-18の日本代表にも選ばれて、実績をしっかりと残している。
ただし直史以上にマイペースとなると、手綱を握るのには不安になる。
「単純に、野球に全てを賭けられないだけで、その他の部分については真っ当だと思いますよ」
適切な兄の意見である。
来年になれば、武史だけではなくツインズも東京にやってくる。
既に自分で生計を立てられるだけの収入を稼いでいるあの二人は、完全に独力で東大合格を目指している。
そしてそれは、あの二人にとってはそれほど難しいものではないだろう。
あと、高校を卒業したら、イリヤが東京に完全に拠点を移す。
考えようによっては、この一年が最も平穏な一年となるのかもしれない。
自分がどれだけ騒動を巻き起こしているのかをそっちのけで、遠い目をする直史であった。
×××
続・白い軌跡も投下しております。
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