第144話6-14救いの手
女神エルハイミ。
もともとは普通の人間で、エマ―ジェリアさんの生家、ハミルトン家の令嬢。
幼い頃よりたぐいまれに見る魔力を持ち、そして無詠唱で魔法を扱えた天才であった。
僕も少し思い出したけど、当時狩人のジルであった僕はこの人に助けられそして今の僕たちが住む「ジルの村」で幸せに過ごせた。
そんな彼女、エルハイミねーちゃんはティアナ姫の為にさらに絶大な力を手に入れこの世界の女神へとなった。
「女神様がエルハイミねーちゃん‥‥‥ そして僕の姉さんがティアナ姫、ティアナねーちゃん‥‥‥ シェルさんはシェルねーちゃんで、ミーニャがイオマだった‥‥‥」
「どうやらだいぶ思い出したようですわね? えーと、今はソウマでしたわよね? それで魔王ミーニャはどんなおいたをしたのですの?」
女神であるエルハイミねーちゃんはまるで世間話でもするかのようにあっけらかんと聞いてくる。
僕はどう言っていいのかためらっているとシェルさんが割り込んできた。
「エルハイミ! 本体のあなたが出て来るなんてどう言う事? あたしのエムハイミは!? まさかあなたと一つになっていないでしょうね?」
「シェル、ちゃんとエムハイミはあなたを待っていますわよ? エスハイミはコクと一緒ですけど」
言いながら又も姉さんの首に手を回すエルハイミねーちゃん。
そして顔を近づけ姉さんに聞く。
「ソウマの様子だと魔王ミーニャがおいたをしているようですわね? ミーニャは何をしているのですの?」
「エ、エルハイミ‥‥‥ あ、あの私は‥‥‥」
またエルハイミねーちゃんにくっつかれ姉さんはたじろぐ。
「くっ、お姉さま! 今は見逃してください!! もう少しで、もう少しでソウマ君があたしのモノになったのに!!」
ミーニャは空間に固定されて身動きが出来ない状態ながらもエルハイミねーちゃんにそう言う。
「うーん、そう言われましてもアガシタ様のあの様子、それにシェルやセキたちの様子から見ると見逃してはいけないような気がしますわ?」
「そ、そうよ! エルハイミ!! 早い所ミーニャの魔王の魂に枷をかけて! でないとこの子は世界征服をしてしまうわ!!」
シェルさんにそう言われエルハイミねーちゃんはすぃ~っとミーニャを見る。
するとミーニャはびくっとなって脂汗をかき始める。
「ミーニャ、魔王が目覚めて力が有るとしても世界征服とか何を考えているのですの? この世界を征服してどうするつもりですの?」
「え、そ、それは世界征服してみんながあたしの言う事聞けばソウマ君だっていじめられなくなるし、あたしのお嫁さんにしてソウマ君の初めてをもらってあたしが最初で最後の女になって、そして幸せな家庭を築いて‥‥‥」
身動きできないミーニャはそれでもあれやこれやと言い出したけど、エルハイミねーちゃんは大きくため息をついてから言う。
「それならわざわざ世界征服しなくてもあなたの力でソウマを守ればいいだけの話では無いのですの? もし魔王の力に目覚めていなくても私の見立てでは今のあなたはイオマの時代よりずっと力が有るように思いますわよ? 多分一国を相手にしても引けを取りませんわよ?」
「あっ‥‥‥」
ミーニャは変なうめき声を漏らす。
うん、多分最初に思いついた勢いだけで世界征服とか始めちゃって、面倒だから配下になった麒麟たちに世界征服のこと任せっきりで深くあれこれ考えていなかったんだろうな‥‥‥
「で、エルハイミ母さん。今の状況なんだけどさ」
ぴこぴこ~っ!
セキさんとアイミもエルハイミねーちゃんに話しかける。
エルハイミねーちゃんはきょとんとしてから手を振ってその場にテーブルとお茶のセットを出す。
「話が長くなりそうですわね? とりあえずお茶でも飲みながらお話を聞きましょうですわ」
言いながら姉さんを引っ張って椅子に座るのだった。
* * * * *
「うーん、つまり魔王ミーニャが世界征服を始めちゃったのでソウマたちが連れ戻せって長老に言われたのですのね?」
「うん、そうなんだけど女神さ、ま? なんか言いにくいな」
「今まで通りエルハイミねーちゃんで構いませんわ、ソウマ」
言いながらべったりと姉さんにくっついている。
姉さんは引きつった顔しているけど無理やりはエルハイミねーちゃんを引きはがそうとはしない。
「ううっ、私の魂がエルハイミと会えて喜んでいるのだけど、フェンリルの私がもの凄く拒否しているぅ~」
「あら、ティアナの中のフェンリルと言う人物がまだいるのですの? んんっ? 魂レベルで同化しているのですの? って、ティアナこれって二重人格状態では無いですの?」
エルハイミねーちゃんはそう言って姉さんの瞳を覗き込む。
「あー、だからフェンリルはフェンリルのままでいたいって言ってるのよ。そして今はソウマに心奪われているってわけ」
シェルさんにそう言われエルハイミねーちゃんは、ばっとシェルさんを見てからまた姉さんを見る。
そしてジト目になって顔を姉さんに近づける。
「ティアナ‥‥‥また浮気ですの?」
「い、いや、そうじゃなくて、私はフェンリルであってティアナじゃ無いのよ。だから記憶であなたの事は嫌いじゃ無いのは分かっているけど、その、お、女の子同士でそう言うのはどうかなぁ~って思うのよ‥‥‥」
姉さんはそう言いながら脂汗をだらだら流す。
するとエルハイミねーちゃんは、ばっと姉さんから離れ何処からか持ち出したハンカチのすそをかじって「きぃーっ」とか言っている。
「ずるいですわ! 三百年前は何だかんだ言ってリルとルラのせいで本体の私が『世界の壁』の修復で当時のティアナの一生を諦める羽目になったと言うのに! あの時ティアナは次の人生は私にくれるって言っていたのにぃ! ティアナ、また浮気ですの!? 何度目ですの!? 今度の人生ではティアナに赤ちゃん産んでもらおうとしたのにですわ!! しかも今度の浮気相手はジルで実の弟で男の子ですの!?」
涙目でハンカチの端を咥えながら鼻先を赤くして悔しがっている。
そんなエルハイミねーちゃんを見ながらエマ―ジェリアさんとリュードさんが僕の肘を突く。
「ソウマ君、これは一体どう言う事ですの? どうも私たちが崇めている女神様とだいぶイメージが違うのですけど?」
「なぁ、ソウマ、この嬢ちゃんが本当に女神様だってのかよ?」
二人にテーブルの下で突かれながらそう聞かれても僕だって全部思い出している訳じゃない。
どうしたものか迷って姉さんを見ると脂汗をだらだら流しながら釈明をしている様だ。
「あ、あのねエルハイミ。あなたの事が嫌いって訳じゃやないのよ? でも今の私はフェンリルと言う女性で、弟のソウマが大好きなの。そして同性でそう言う事を嫌がっている訳で、魂は同じでもティアナでは無いのよ‥‥‥」
きっ!
エルハイミねーちゃんはそれを聞くと姉さんを睨む。
「そうかもしれませんが記憶は戻っていますわよね? それなのに私をずっと避けていたのですの? ずっとティアナが転生してくるのを待っていたと言うのにですわ! 三百年前のあの時だって、当時のティアナを諦める代わりにやけになって分体のエムハイミとエスハイミがシェルとコクに手を出してあなたの気を引こうとしたのに、あの人とあの人生は楽しそうに‥‥‥ ああっ! 今思い出してもイラついてきますわ!!」
だんっ!
一気にお茶のカップを飲み干しテーブルにたたきつける。
「あ、あのぉ~、お取込み中すみませんが、お姉さまそろそろあたしも解放してもらえないかなぁ~っと」
きっ!
エルハイミねーちゃんににらまれまだ空間固定されているミーニャはすぐに黙る。
『め、女神様、お茶のおかわりです~』
『お、お菓子も有りますよぉ~』
リリスさんとソーシャさんがエルハイミねーちゃんをなだめる為にお茶のおかわりと追加のお菓子を出す。
エルハイミねーちゃんはおかわりのお茶をもらうとくいっとそれを飲んでリリスさんを睨む。
「クロエさんに弟子入りしてメイドの何たるかを学んだ方が良いですわね? ミーニャ、教育がなっていませんわ!」
どう考えても八つ当たりだ。
そして、きっ! となって僕を見る。
「ソウマ、あなたはどうですの!? ティアナのこと、どう思っているのですの!?」
「はい? 僕は姉さんのこと、(姉として)好きですよ?」
僕が素直にそう言うとエルハイミねーちゃんは衝撃を受けるかのようにたじろぐ。
ガーンっ!
「ま、まさか相思相愛ですの!? 将来をもう誓っちゃったのですの!? 将来設計までして子供は何人とか、スイートホームは白い壁の赤い屋根の家がいいわとか語っちゃっているのですのぉっ!?」
「エ、エルハイミ、ちょと落ち着きなさいよ?」
「はぁ、相変わらずエルハイミ母さんはティアナ母さんの事になるとおかしくなるわね‥‥‥」
ぴこぴこぴこぉ~。
シェルさんやセキさんがアワアワ言っているエルハイミねーちゃんをなだめる。
アイミまで参加しているのに頭を抱えてぶつぶつ言い始めている。
なんかエルハイミねーちゃんがおかしくなった時のエマ―ジェリアさんにそっくりだった。
うん、流石は同じハミルトン家。
やっぱりそう言った遺伝子でもあるのかな?
「それでも、それでも三百年も待ったのですわよ!? ティアナぁっ! 考え直してくださいですわぁっ!!」
言いながらまた姉さんに抱き着く。
うーん、なんか昔のエルハイミねーちゃんのイメージから更におかしい方へと変わっていくような‥‥‥
「め、女神様って本当にティアナ姫が大好きですねの‥‥‥」
「こんなのが俺らの崇めていた女神様だってのか?」
ぴこぴこぉ~
エマ―ジェリアさんもリュードさんも流石に呆れている様だった。
アイミも何かフォローしているようだけどあまり効果はないようだ。
シェルさんはそんな様子を見てもため息をついて眺めている。
「はぁ、エルハイミ母さんのティアナ母さん好きは相変わらずだけど、とりあえずこの茶番をかたずけなきゃ駄目でしょうに?」
セキさんはお菓子を口に放り込みながらそう言う。
「いろいろ楽しかったけど、エルハイミ母さん、そこの魔王ミーニャの悪さはジルの村の折檻部屋送りで許してやんなよ。ただ、悪魔融合とか上位悪魔との憑依されている軍隊の連中とかは助けてやらなきゃだよ?」
セキさん言われてエルハイミねーちゃんはこちらを見て瞳をぱちくりさせている。
「ミーニャそんなに色々おいたしていたのですの?」
「ちがっ! 違いますお姉さま! それは麒麟が勝手にやった事であたしは世界征服して来いって言っただけで!!」
ミーニャがそう言うとみんな一斉にミーニャを見る。
「流石にそれは通らない理屈ね」
「あー、まあ、あたしは久しぶりに神殿から出られて暴れられたから楽しかったけど、町の連中を融合とかして自由を奪うのは賛同できないわね」
「め、女神様の教えに背くことはすなわち悪ですわ!」
「主が見つかったのは良いが、魔王がハバ利かせられてちゃおちおち可愛い男の子あさりも出来んもんなぁ」
ぴっこぴっこ、ぴこぉ~
『魔王様、流石に全部麒麟様に押し付けるのは‥‥‥』
『ああ、そんな我が儘な魔王様もステキ!』
みんな口々にミーニャを批判する。
まあ、あれだけのご迷惑を皆さんにかけたのだ、当たり前と言えばあたりまえなんだけどね。
「うーん、流石にそこまでやられると放ってはおけませんわね? アガシタ様ったらまたどこかに逃げて行ってしまうし、あまり魂の放置をしておくわけにもいきませんわ、冥界の女神セミリア様に怒られてしまいますものね」
そう言ってエルハイミねーちゃんはミーニャに向かって手を差し伸べるとミーニャが一旦光ってまた元に戻る。
そして今まで空間に固まって動けなかったのが動き出した。
「あ”あ”ぁっ! お姉さま酷い!! 魔王の魂との連結を切ったぁ!!」
「当り前ですわ。これで魔王としての力は使えなくなりましたわ。でも元々のあなたはこの世界でもかなりの力を持っていますわ。この人生はそれで我慢なさいですわ」
エルハイミねーちゃんの前に来て文句を言うミーニャだったけど流石にエルハイミねーちゃんには逆らえない。
エルハイミねーちゃんは次いで手を上にあげて力を溜める。
どぉおおおおおおおぉぉぉおぉぉおおおぉぉぉんッ!!!!
「うわっ!?」
いきなり世界が揺れた。
そう言いあわらすしか無かった。
「な、何が起こったのですの!?」
「お、おい!?」
一体何が!?
「あー、流石本体ね。エルハイミ、そこの二人は強制送還しなくてもいいの?」
「あら、サキュバスはもともとこの世界にもいましたわ。悪魔要素が強いですがこちらに派生した魔物に異界の精神体が融合していますもの、その程度の小物はこの世界でも害にはなりませんわよ?」
言いながらにこりと笑って姉さんに抱き着く。
そして首をかしげながら姉さんに聞く。
「これで今回の事は終わりで良いのですわよね?」
「ま、まあこれでミーニャのやらかしたことは収拾がついたのかな?」
「いやいや、姉さんミーニャを村に連れ戻さなきゃだめだよ?」
姉さんの答えに僕はまだ完全に長老に言われたことが終わっていない事を告げる。
するとエルハイミねーちゃんは不思議そうに僕を見る。
「でもそれはソウマがミーニャをジルの村に連れもどせば良いのですわよね? それとこの世界の人間たちの生活についてはシェルがシーナ商会を通じて様子を見ればいいし、セキも神殿に戻れますわよね? あ、ごめんなさいですわ。あなたがエマ―ジェリアでしたわね? 確かに私に似ていますわね? そうだ、今ならあなたの心臓をソウマと同じく作り直してあげれますわよ? ついでにセキに心臓を戻して空間束縛も解いてあげますわよ?」
エルハイミねーちゃんは一気にそこまで言ってエマ―ジェリアさんに手を向けるとエマ―ジェリアさんの胸が光って光の玉が出て来る。
その光の玉はセキさんの大きな胸に吸い込まれ、エマ―ジェリアさんの胸にも光が灯りやがて消えていく。
「えっ? ええっ!?」
「こ、これはですわ!? セキとのつながりが感じられなくなりましたわ!?」
エルハイミねーちゃんはにっこりと笑ってセキさんに言う。
「これでセキはもう何にも束縛される事はありませんわ。そこのエマ―ジェリアと離れても大丈夫ですわよ? それと、エマ―ジェリア、あなたの心臓は特別にしましたわ。最大は流石にセキには及びませんがその心臓はソウマと同じく大量の魔力を発生できますわよ」
え?
僕の心臓にもそんな事を?
驚き自分の胸を擦ってみるけど、確かにミーニャ槍で突かれた傷も何も無くなっている。
「め、女神様! 感謝いたしますわ!!」
「あ~、本当だ。エマとのつながりが感じられなくなっちゃったな。ちょと寂しいけどこれで自由になった訳か! ソウマ、これでしょっちゅう遊びにいけるよ!」
エルハイミねーちゃんに感謝のお祈りを捧げるエマ―ジェリアさん、ニコニコとしながら僕の首に手を回して来るセキさん。
「ふう、まあこれで今回の件は一件落着か。エルハイミ、あたしのエムハイミはちゃんとあたしを愛してくれるんでしょうね?」
「それは大丈夫ですわ、約束通り今まで通り可愛がってくれますわよ。彼女はあなただってちゃんと愛してますから♪」
「もう、根底は同じ癖にエルハイミの馬鹿ぁ/////」
にっこりと笑うエルハイミねーちゃんにシェルアさんは顔を赤らめそう言う。
「ソウマ君! あたし魔王の力がなくなっちゃったよぉ! どうしよう!? ソウマ君守れるかな!?」
「ちょ、あなたソウマ君に何抱き着いているのですの!? ソウマ君、あなたは私の恥ずかしい姿を見たのですわ! 責任とってくださいですわ!!」
『魔王様が魔王様じゃなくなってしまったわけかぁ‥‥‥じゃあ、もうあたしも我慢しなくてソウマ君つまみ食いしても良いよね?』
『そうなると私も魔王様でなくなったミーニャ様に手を出しても良いと言う事ですね!?』
「ソウマぁ、俺もソウマといちゃいちゃしたい!」
ぴこぴこっ!
みんな僕にまとわりついてくる!?
わいわいとしているそれを見てたまらず姉さんも声を上げる。
「ちょっ! ソウマぁ!! 駄目よソウマは私のなんだからっ! もう、ソウマのいけずぅっ!!」
「いけずはあなたですわよ、ティアナ。ずっと待っていたのですから‥‥‥ もう我慢できないのですから‥‥‥ ティアナ、あなたが欲しいですわ‥‥‥ だから、もう一度あなたにはティアナとして覚醒してもらいますわ!」
みんなが僕に群がっている中姉さんに抱き着いていたエルハイミねーちゃんはそう言って姉さんに手を向ける。
すると姉さんが光り始め宙に浮く。
「え? ちょっと、エルハイミなにこれ!?」
「ティアナ、この件はじっくりと話し合う必要が有りますわ。私と一緒に天界に行ってもらいますわ!!」
言いながらエルハイミねーちゃんもその存在を開放してとうっすらと光りながら宙に浮く。
「え? 姉さん??」
「ちょ、エルハイミやめなさい! 私はフェンリルんなんだから!!」
「ティアナ、二人でじっくりとお話ししましょうですわ!! それではみなさん、御機嫌ようですわ!!」
カッ!
一瞬光りを強くして姉さんとエルハイミねーちゃんはその場から消えた。
「え? ね、姉さん? フェンリル姉さんっ!!」
僕の驚きの声だけがその場にこだまするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます