第143話6-13女神

 

 「やっと終わって下界に来てみたら、何なのですのこれは?」

 


 その声はとても可愛らしくてそして僕が遠い昔によく聞いた声だった。


 「あら? その子って‥‥‥ ジルですの? もしかして危ないのですの? 会ってすぐにまた転生するまで会えないのも残念ですわね、ではこうしましょうですわ!」



 あれ?


 遠のく意識がはっきりとしてきた?

 そしてもの凄く体が温かい??



 「これで良いですわね? まったく、やっと『世界の壁』の修復が終わったと言うのにみんなこんな所で何をしているのですの?」


 視界が戻る。

 そして声のする方に視線を向けると金髪碧眼のエマ―ジェリアさんによく似ているお姉さんがいた。

 こめかみの上に三つのトゲの様な癖っ気が左右に有り、エマ―ジェリアさんよりもう少しお姉さん。

 ものすごく美人なんだけど、何処か抜けている雰囲気がするこの人って‥‥‥



 「エ、エルハイミねえちゃん‥‥‥?」



 「あら? ジルの頃の記憶が戻っているのですの? えーと、今の君の名前は?」


 「ソ、ソウマ‥‥‥」


 「ソウマですの? ではソウマ、あなたの心臓は私が作り変えましたわ。でもまだ不安定ですから無理はしないでですわ」


 そう、この人はエルハイミねーちゃん。

 女神様でとてもすごい人‥‥‥



 「って、エルハイミねーちゃん!? め、女神様っ!?」


 「はい、そうですわ?」



 きょとんとして空中にまだ浮いている。

 存在があふれ出し、体から明るい光を放っている。



 「まさか君が直々に此処へ来るとはな? まあいい、エルハイミ早い所僕に枷られているこの『世界に壁』を取り払ってもらえないだろうか? これのせいで人間以下の力しか出せないよ」


 「あらあらあらあら~、アガシタ様ともあろう女神様がどうしたと言うのですの? ん? この魂の色と匂いはですわ‥‥‥」


 エルハイミねーちゃんは姉さんを見る。

 そして、ぱぁっと顔を明るくして姉さんに抱き着いた!?



 「ティアナぁッ!! 転生していたのですのねっ!? あ、そう言えばエドガーからお祈りでまだ完全にティアナが覚醒していないとかなんとか言ってましたわね? でもおかしいですわ、この魂の色といい、香りといい、完全にティアナのはずですのに?」



 「エ、エルハイミぃ!? なんでここに!?」


 「もう、三百年前のリルとルラの後始末がやっと終わったのですわ! そう言えば今度転生する時はちゃんと私のモノになってくれるって約束でしたわよね?」



 ぶちゅぅ~~~~っ!



 エルハイミねーちゃんはそう言いながら姉さんに口づけする。



 「#$%&#!? んぅうううううぅぅぅっ!!!!」


 「ん~っ、ちゅぱっ! 三百年ぶりのティアナの味ですわぁっ! もう、ずっとあなたが転生するの待っていたのですわよ!!」



 キスされ抱き着かれたままの姉さんは目を白黒させている。



 「エ、エルハイミ‥‥‥ あなた、『世界の壁』の修復が終わったの?」


 「あらシェル、あなたも何処へ行っていたのですの? もう一人の私も寂しがっていましたわよ? って、セキ? それにイオマ?? これはですわ??」


 改めて周りを見回しきょとんとして瞳をぱちくりさせている。



 

 「お姉さまなのですね‥‥‥」


 『魔王様、お下がりください! こ奴、女神か!?』



 言いながら麒麟は槍を構えエルハイミねーちゃんにその強力な一撃を放つ。

 しかしエルハイミねーちゃんは後ろを向いたままその槍の先をひょいっと人差し指と親指でつかみ取ってしまった!



 「あらあらあら~、そんなモノ振り回したら周りの人の迷惑ですわ? ん? あなた異界の悪魔王ですの? もう、こんなん所に湧いて出られては迷惑ですわ、消えないさですわ!」



 ふっ!



 『かはっ!?』 


 ぶっ!

 ぼろっ、さらさらさらぁ~



 槍の先をつまんだままエルハイミねーちゃんは麒麟に向かってふっと息を吹き付けると麒麟は一瞬で真っ白になり粉の様に吹き消されてしまった。



 『ひっ!? き、麒麟様が一瞬で!?』


 『ま、魔王様っ!!』


 リリスさんとソーシャさんが慌ててミーニャの前に出て来てエルハイミねーちゃんと対峙する。


 

 「まさか‥‥‥ お姉さま自ら来られるとは‥‥‥ 何故来られたのですか!?」


 「えーと、イオマでは無くて、今は何と言いますの?」


 エルハイミねーちゃんは首だけミーニャに向けてにっこりと言う。


 「‥‥‥ミーニャです。魔王ミーニャ。それが今のあたしです!」



 ばっ!!



 そう言いながらミーニャは僕に飛び掛かる。



 「こうなったらソウマ君だけでも私のモノにして逃げる!!」


 「あら、だめですわよ? イオマ、ではなく、今はミーニャでしたっけ? 魔王が覚醒しているのですわね? もう、おいたしてはいけませんわ」



 ぱちんっ!



 「くはっ!?」



 エルハイミねーちゃんは姉さんに抱き着く片手を外し指を鳴らすとミーニャがその場で固まった。



 「くっ! これは『世界の壁』!? そんな、あたしの操作を上回っている!?」



 「駄目ですわよ? 魔王が覚醒したからと言っておいたしているみたいですわね? アガシタ様も既に開放していますわよ? あら、ライム様、レイム様もお久しぶりですわ~」


 見ればアガシタ様は腕を回し自分の調子を見ている様だ。



 「ふう、やっと自由になれた。全く君たち女神と魔王は厄介この上ない。だが僕の様な古い女神はもうこの世界ではお払い箱かな?」


 「いえいえ、私はこの世界の維持はしますがアガシタ様をどうこうするつもりはありませんわよ? 今まで通り天秤を揺らしてくださいましな」


 「はぁ、あなたが復活したなら、それすらしなくたっていいでしょうに?」


 「本当ですね、エルハイミさん。動けるようになったのですからこの世界の事ちゃんと面倒見てくださいよ?」


 アガシタ様とメイドさんたちはそう言いながらエルハイミねーちゃんのそばまで行く。

 そして姉さんを覗き込みいう。



 「彼女が出てきたからには僕らはもう不要だろう。後は君たちに任せるからよろしくな」


 「へっ?」



 それだけ言ってアガシタ様たちはその場で溶けるかのように三人とも消え去った。



 「あ~っ! アガシタ!! 面倒事全部私たちに押し付けるつもりぃ!?」


 「シェル、仕方ないわよアガシタ様だもの‥‥‥」


 「あ、あれが女神様!? た、確かに私と似ていますけど、え、えっ? なんか神殿に祀っている女神様と違いますわっ!?」


 「ほ、本物の女神様かよ?」


 ぴこぴこ~っ!

 しゅたっ!



 消え去るアガシタ様を睨みつけているシェルさんをなだめるセキさん。

 そしてエルハイミねーちゃんを見たままわなわなと震えているエマ―ジェリアさん。

 あまりの事の連続で固まるリュードさん。

 そしてエルハイミねーちゃんにしゅたっと手を上げて挨拶しているアイミ。



 「さてと、せっかく下界に来たのですわ。ティアナも見つかったし、いろいろと聞かせてくださいですわ」



 エルハイミねーちゃんはそう言ってにっこりと僕に向かって笑うのだった。

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