第140話6-10解放


 「少年、お姉さんが良い事を教えてあげよう~♪」



 アガシタ様はにたぁ~っと笑い僕を手招きする。



 「アガシタ様、言い方がなんかいやらしいですよ!」


 「いやらしいと言うか、いやらしい事しか考えていないでしょう、アガシタ様は」


 ピンクの髪のメイドさんも青い髪のメイドさんもあきれた様子でそんな事を言っている。


 しかしアガシタ様はそんな事を全く無視して僕を手招きしている。

 流石に女神様に呼ばれれば無視できないし、姉さんの手助けになるなら仕方ない。

 僕はアガシタ様に誘われるまま傍へ行く。


 「よろしい、少年よ。今現在多分ティアナは精神的に追い詰められている。ここで君が応援しても逆効果だ。このまま行けば君は魔王の物となってしまう訳だが、それは君も望まない結果なのだろう?」


 「はぁ、とりあえずミーニャを村に連れもどさなきゃいけないので」


 アガシタ様は僕のその言葉を聞き、嬉しそうに頷く。


 「では僕からの助言だ。君の姉のティアナにどうのこうの言っても無駄だからここはあの魔王に君が声援を送るんだ。それも情熱的に、そして彼女が心底喜ぶようにな」


 「はい? でもどうやってですか?」


 「それはだなぁ~ ごにょごにょ~」


 アガシタ様は僕の耳に近くである事を言う。

 それを聞き終えて僕は思わず声を上げそうになった。


 「あ、あの、そんな事ミーニャに言わなきゃだめなんですか!?」


 「なに、君がそう言えば必ず君の姉、ティアナに勝機が訪れる。ほら見て見なよ、また魔王との得点に差が出てしまった」


 言われて得点ボードにソーシャさんが点数を入れてるのを見て驚く。

 既に第七投目が終わり、その差は何と六点!

 

 ここから挽回するのは至難の業だ。

 こうなると恥ずかしがっていちゃだめだ!


 僕は意を決してアガシタ様の助言に従う事にしたのだった。



 *



 『おおっとぉ! ここで義理の姉選手粘りの高得点、十点だぁッ!!』


 『頑張りますねぇ、しかしここまでの点数差は既に八点。魔王様の勝利は確実でしょう』


 『それでは魔王様、最後の一投をお願い致します』



 麒麟たちの実況中継がミーニャに最後の一投を促す。


 既に点数差は八点。

 ミーニャがミスする事は考えにくい。

 そうなればミーニャの勝ちが確定する。


 姉さんは既にその場にしゃがみ込み悔しそうに涙している。



 「うううぅっ、私のソウマが、お姉ちゃんと初めてを迎えるはずのソウマがぁ!」


 「くふふふふっ! フェンリルさん、約束は守ってもらいますよ! この十二年間あなたに邪魔されてソウマ君をなかなか手に入れられなかった。でも、それも今日までの事! 大丈夫ですよ、義理の姉として丁重に扱ってあげますから! そして可愛いあたしたちの赤ちゃんを見せてあげますよ、沢山ね!!」


 ミーニャは大笑いしながら投てき線の前に立つ。

 そして的に向かって今まさにその矢を投げ放とうとしていた。



 もう迷ってなんかいられない! 

 こんな事言うのは恥ずかしいけど、アガシタ様に言われたとうりに僕はミーニャに言う。



 「ミーニャっ!」



 びくっ! 



 僕の張り上げた声にミーニャがビクつきこちらを見る。

 その表情はややも怪訝そうな感じだったが次の瞬間僕が叫んだ言葉に驚きのモノになる。



 「ミーニャ、好きだ! 大好きだ!! 愛してる、僕はミーニャと結ばれるために生まれてきたんだ!!!!」



 「えっ、えっ、ソ、ソウマ君??」



 「ずっと好きだったんだ! 僕の大切なミーニャ! 僕は君の味方だ、愛してるマイダーリン! ぇぇとぉ‥‥‥」



 なんだっけ?



 「君の全てが欲しい、僕と一つになろう、そして二人でアダムとイブになるんだ、だよ(ぼそっ)」


 台詞を忘れそうになるとすかさず僕の影にアガシタ様が現れこそっとサポートしてくれる。



 「そ、そうだった、君の全てが欲しい、僕と一つになろう、そして二人でアダムとイブになるんだ (棒読み)!」


 

 どっきゅあーんっ?!!



 僕がアガシタ様に言われた通りにミーニャに叫ぶとミーニャに何かが刺さった様だ。

 瞳がハートマークに変わり、何か背景がピンク色に変わりバラのお花が咲き乱れる!?



 「あ、あぁ、ソ、ソウマ君があたしに愛の告白を! しかもあたしが欲しいってぇ‥‥‥ あ、あのソウマ君が、こんなにもはっきりとあたしを欲しがるなんてぇ♡♡♡!!!!」



 ふらぁ~


 ひょぃ~


 ぷすぅ~



 『あ”あ”ぁ”っと! 魔王様どうした事か!? ここで痛恨のミスぅっ!?』


 『魔王様!? いかがなされたのですか!!』


 『に、二点!? と言う事は義理の姉選手九十二点、魔王様‥‥‥同じく九十二点となります!!』



 最後にミーニャが投げたダーツはひょろひょろひょろぉ~っと飛んで行ってかろうじて的には当たったけど得点は最低の二点。

 これでミーニャの得点と姉さんの得点が同点に並んだ!



 「あ、あれ? 同点‥‥‥」


 涙を流していた姉さんが実況を聞いて、はっと気づく。

 

 「なななななな、なんてことぉっ!! せっかくのチャンスがぁっ! ソウマ君をあたしのもに出来たのがぁ!!」


 ミーニャも我に返ってその痛恨のミスに気付き、地団駄を踏んで悔しがっている。

 僕は恥ずかしい事を言ったけど、どうやらミーニャが最後の一投でのミスを誘えたようだった。



 「くっふっふっふっふっ、『世界の壁』で力が封じられてはいるが魔王とは言え所詮は十三歳の少女。愛する者の熱い言葉に心揺れないはずは無かろう?」


 「あ~、アガシタ様やっぱりえげつない事を」


 「まあ、アガシタ様らしいと言えばそうですが」


 なんかアガシタ様がもの凄く嬉しそうにしている。



 「くっ! こんなの認めない! せっかくソウマ君があたしのモノになるはずだったのに! ソウマ君があんなに熱い愛のささやきをしてくれたのに!!」


 「そう言えば、ソウマ! 何あれ!? ソウマまさか本当にミーニャの事が!? お姉ちゃんソウマの為なら何だってするんだよ? それなのにミーニャを選ぶって言うの!?」


 ミーニャと姉さんが一斉にこちらにやって来る。

 そして僕の腕をとり合って耳元で二人ともギャーギャーわめく。


 「あ~、その、アガシタ様にそう言えって言われたんで~」



 ぴたっ!

 

 ぴぴたっ!! 


 僕は仕方なく本当の事を言うと二人はピタッと騒ぐのをやめる。


 「え、ええぇ? じゃ、じゃあソウマ君のあの熱い愛の告白は?」


 「ソウマがお姉ちゃんを要らなくなったって訳じゃ‥‥‥」


 二人はそう言いながら僕を見てからアガシタ様を見る。

 するとアガシタ様はにまぁ~っと笑ってから言う。


 「なに、僕はちょっとだけその少年に加担したんだよ。魔王、君にこのまま力を封じられているのが癪にさわってね、仕返しさせてもらったんだよ」


 「あ~、やっぱり根に持ってたんだぁ~」


 「まあ、アガシタ様らしいですけど」


 アガシタ様はカラカラと笑いながらそう言うとメイドの二人はため息を吐きながらそう言う。


 

 「くっ、一応先代の女神で敬意を払って力だけを封じておいたのに、こんな仕返しをしてくるとは!!」


 「じゃ、じゃあソウマはやっぱりお姉ちゃんが良いって事よね!? ソウマぁっ!!」


 「あっ! フェンリルさん何ソウマ君に抱き着いているんですか!?」


 一旦アガシタ様を睨んで悔しがったミーニャは抱き着いてくる姉さんを見るとまた僕の腕を引っ張って引きはがそうとする。


 

 『あのぉ~、魔王様、延長戦を致しますか?』


 麒麟が騒いでいる僕たちに向かってそんな事を言って来る。

 しかしミーニャはそれを聞いてピタッと止まる。


 「もういい‥‥‥」


 そう言ってすっと立ち上がり、パチンと指を鳴らした。

 するとシェルさんやセキさん、そしてエマ―ジェリアさんやリュードさんが元の姿に戻る。


 「くっ! って、あ、あれ?」


 「あ”あ”ぁっ! お肉ぅっ!! はっ? あ、あれ?」


 「いやぁあああぁぁぁぁぁっ! ソウマ君見ちゃだめですわ!! 見たら責任とってもらってお嫁さんにしてもらいますからですわぁっ!! って、あ、あれ、ですわ??」


 「うっぷっ、もう飲めねぇ‥‥‥ ん?」


 みんなの時が動き出したかのように周りの様子を見てきょろきょろとしている。

 あ、エマ―ジェリアさんに限っては真っ赤になってかけられた毛布をしっかりと羽織っている。


 「ミーニャ?」


 「ソウマ君、君がいるから穏便に済まそうとしたけどやっぱりダメ。こうなったら力ずくでも君を奪って見せる。信じていたのに、あの愛の言葉がソウマ君の気持ちだと思ったのに!! もう、絶対にソウマ君の初めてはあたしが奪うんだからぁ!!!!」




 ぶわっ!!   

   

  

 「うわっ!」


 ミーニャはいきなり爆発するかのようにその力を解放する。

 僕でさえわかるこの圧力。

 本気で機嫌が悪いんだ!




 『おおっ! 魔王様が!!』


 『すごい! 濡れちゃいそう!!』


 『ああ、流石魔王様! この調子でご指南させていただいた通り少年の初めても奪ってください!!』


 麒麟たちがそう言って実況中継の道具をかたずけミーニャの前に跪く。




 「ミーニャ!!」


 「フェンリルさん、やっぱりあなた気に入りません! こうなったらあなたを倒してソウマ君をあたしのモノにします!! シェルさん、セキちゃん。あなたたち邪魔だからさっさとあっちに行っていてください!」




 こうして姉さんとミーニャは睨み合うのだった。

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