第111話5-12奈落の底
モルンの町近くを通りかかった僕たちは街道から少し外れた丘から異様な気配を感じそこを見ればあからさまな遺跡の入り口が有った。
「前にモルンの町に来た時にはこんな物は無かったのだけどね? 何かしら」
シェルさんは遺跡の入り口を調べながらそうつぶやく。
光の精霊を呼び出し入り口から少し入った所を照らす。
「うーん、とりあえず奥は深そうね?」
「仕方ないよシェル、入ってみよう」
シェルさんが唸っているとセキさんは手の平に拳を「ぱんっ!」と当ててにやりと笑う。
多分出て来る敵対するモノはぶちのめすつもりだろう。
前にセキさんとの稽古で聞いたけど、セキさんは竜族の中でも「闘竜」と呼ばれ戦う事を好むらしい。
うん、もう僕にもこの二人の噂は何となく分かった。
こんな人たちを相手に逆らうもんじゃない。
「わざわざ面倒な所にもぐる必要があるのか? 主はどうする?」
「この感じ、どうもミーニャが関わっているんじゃないかしら? シェルたちの言う通り入って見た方が良いわね」
姉さんを見ると瞳を金色にしている。
「同調」をして何かを見ているのだろう。
リュードさんは肩をすくめ「仰せのままに」とか言って一礼して馬車を近くの林に停め、馬も水とエサを与えて木の幹に縛っておく。
どうも長丁場になることを想定しているみたいだね?
「さてと、それじゃぁみんな入って見るわよ? 良いかしら?」
シェルさんはそう言って先頭になって遺跡に入って行く。
セキさんもエマ―ジェリアさんもそれに付いて行く。
姉さんやリュードさん、そして僕もそれに付いて行くのだった。
* * *
遺跡の中は床も壁もそして天助までも奇麗な石造りだった。
「それほど古くは無いのかしら? ずいぶんと小奇麗ね?」
「今の所魔物も罠も無いとか一体何なのここ?」
「シェル様、壁がうっすらと光っていますわね? 明かりの魔法は不要ですわね?」
エマ―ジェリアさんの言う通り壁がうっすらと光っているので明かりが無くても十分に歩いて行ける。
迷宮と言うよりは何かの施設なのかな?
特に曲がりくねった道というわけでもなく今の所はほぼ真っ直ぐに下へ向かっている様だった。
「やっと扉ね? 結構長い入り口だったわね、何なのかしら?」
シェルさんはそう言いながら瞳を金色にして精霊たちにその扉を調べさせる。
光の精霊たちは扉の周りでふよふよして、いくつかが隙間から扉の向こうへ行く。
そして戻って来てシェルさんの周りでまたふよふよする。
「ふむふむ、扉には特に罠は無いか。んで、扉の向こうは広場になっている? ますますここが何なのか分からなくなってきたわね?」
シェルさんはそう言いながら無防備に扉に手をかける。
そしてノブを引いて扉を開けた。
中はかなり広い部屋だった。
僕たちはそこへ入り中の様子を見る。
「何ここ? それにこの雰囲気‥‥‥ まるで以前別世界に行った時のような感覚‥‥‥」
「シェル、あれ見て!」
セキさんが指さすその先には大きな鏡の様なモノが有る。
シェルさんはそれを見て首をかしげる。
「あれって‥‥‥ まさか!?」
言いながらシェルさんはまた瞳を金色にする。
そしてその大きな鏡の様な物を見て唸る。
「そう言う事か‥‥‥ 消えた軍人たちはここからその魂を喰らわれた。もしくはその体を依り代とされていたって事か!!!? 魔王、そこまでするの!?」
シェルさんはここで何が有ったか気付いたようだ。
「シェル、一体何が有ったって言うのよ?」
姉さんはシェルさんに何が有ったか聞く。
しかしシェルさんは忌々しそうにあの大きな鏡を見たままだ。
「最悪よ、これじゃぁ悪魔王ヨハネスと同じよ‥‥‥」
「あいつ!? じゃあ、これって異界との通路って事!? 異界の住人、悪魔どもがこちらの世界に来るための門だって言うの!?」
「セキ、一体どう言う事ですの!?」
シェルさんのそのつぶやきにセキさんが反応する。
そして誰もが思う事をエマ―ジェリアさんが聞く。
「以前秘密結社ジュメルってのがいてその幹部、十二使徒の一人ヨハネス神父ってのが異界の悪魔の王と融合してこの世界を滅ぼそうとしたの。悪魔ってのはもともとは異界の住人。それを召喚してこの世界の魂を喰らいつくそうとしたのよ‥‥‥」
セキさんはそう言い始める。
そしてその言葉を引き継ぎシェルさんも言う。
「今の女神、エルハイミがその野望を打ち砕いたわ。前神の天秤の女神アガシタ様と共に。しかしアガシタ様は異界の神との戦いで力を使い果たし、この世界をエルハイミに託したの。だから彼女は未だにこの世界を守るために三百年前のあの傷を修復する為にずっと一人で世界の壁の修復を続けている。だから分身体以外の本体は動けない。この三百年間ずっと一人でこの世界を守るために頑張っていると言うのに!」
苛立つシェルさん。
一気にそこまで言うと髪の毛を逆立てる。
そして瞳を金色に輝かせ上を向いて言い放つ。
「要請するわ! 魂の隷属を使いその力を私に行使させて!! エルハイミ、この異界への通路を破壊して、二度と異界の住人をこちらに呼び入れさせないで!!」
シェルさんがそう言うとシェルさんが光り輝き始める。
そしてずかずかとその鏡に向かって歩いて行き拳を振り上げその鏡に拳をぶつける。
ぱきーんっ!
ガラスが割れるような音がしてその鏡はすうぅ~っと消えて行った。
「シェル‥‥‥ やったの?」
姉さんはそうシェルさんに聞く。
「使いたくは無かったわ。今の彼女の負担になるからね。でも仕方ない。私だけではどうしようもないもの」
シェルさんの輝きは無くなり瞳の色も元の深い緑色に戻っている。
自分の拳を見ながらシェルさんは苛立つ。
「魔王ミーニャ、絶対に許さない」
「シェルさん‥‥‥」
苛立つシェルさんに僕はこれ以上何も言えなくなるのだった。
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