第106話5-7フェンリルの危機
「はぁっ! 【赤光土石流拳】!!」
カッ!
どがががががががぁん!!
セキさんの放つ【赤光土石流拳】が魔王軍のアークデーモンたちをなぎ倒す。
「ガレント流剣技二の型、二重の刃!!」
ざんっ!
僕もガレント流剣技でセキさんの技から逃れたアークデーモンを切り伏せる。
「よし、ソウマもう少しよ!」
「はい、セキさん!!」
ほとんどセキさんとシェルさんの後方支援で魔王軍の数を減らしているけど僕だって役に立つために頑張っている。
時折エマージェリアさんの魔法が援護で来るのでいつも以上に張り切っている。
あちらに抜け出た悪魔はアイミが処理してくれるからエマ―ジェリアさんたちの防御も任せて置ける。
僕は思い切りショートソードを振るうのだった。
* * *
「ソウマ君! フェンリルさんが!!」
セキさんと魔王軍を破竹の勢いで倒していたらエマ―ジェリアさんが悲鳴を上げる。
何かと思って振り向いた僕の目に有り得ない光景が映った。
「姉さんっ!!」
それはあの白虎に首を掴まれ宙にぶら下がれたフェンリル姉さんの姿だった!
自分の目を疑った。
だってあの姉さんが白虎に掴まりもがいているのだから。
『人間にしてはよくやった方だな。なかなかに楽しませてくれたぞ』
「ぐっ、こんな‥‥‥」
姉さんは掴まれた首を両の手で振りほどこうとしているが白虎が力を入れると苦痛に表情をゆがませる。
その瞬間僕は後先考えずに白虎に飛び込んでいた。
ばっ!
「姉さんを放せぇっ! ガレント流剣技二の型、二重の刃!!」
「操魔剣」も使って今の僕に出来るすべての力をつぎ込んで姉さんを掴む白虎の腕に刃を振り落とす。
しかし伝説のセブンソードと言われるこのショートソードの刃はその毛皮を少しも傷つける事は出来なかった。
『ふむ、その剣普通のモノでは無いな? 闘気をまとっていなかったら腕を切り落とされていた所だ。だが少年よ、まだまだ未熟!』
どんっ!
白虎から何とも言えない闘気が噴き出す。
僕の剣はその闘気に押されはじけれてしまった。
「ぅう、ソ、ソウマ‥‥‥」
「くそっ! 姉さんを放せっ!」
いまだ姉さんの首を掴かんでそのままに白虎はこちらに振り向く。
『魔王様の言いつけだ、少年よ貴様を魔王様に献上する。大人しく従えば良し。さもなくば!』
ぐぐっ!
メキッ!
「かはっ!」
白虎の姉さんを掴む手が強められ姉さんが苦悶の声を上げる。
「姉さんっ!」
「ソウマ退いてっ!! ドラゴン百裂掌!!」
姉さんの名を叫んだ僕の後ろからセキさんが叫びながら技を繰り出してきた。
その掌は白虎の表皮をむしり取るかのように無数にドラゴンの爪を立てる。
白虎はしかし慌てずもう片方の剣を持った手でそのすべてを弾いた。
「なっ! あたしのドラゴン百裂掌を弾いた!?」
『貴様、人では無いな? だがその程度ではこの俺は倒せん!』
ぶわっ!
白虎は更にその闘気を膨れさせる。
「何こいつ!? 十二悪魔より強い!?」
『ほう、奴等を知っているか? だがあのような下等な者どもと比較されるのは心外だな。我は悪魔王、四大悪魔が一人、白虎! さあこの女の命が欲しければ大人しくすることだ!』
シェルさんもこちらに来て白虎を見る。
そして驚きに声を上げた。
「シェルこいつ強いの? 十二悪魔より上って何?」
「悪魔王、四大悪魔とか言ったわね? まさかこいつ異界の住人!? ヨハネス神父と同等!?」
『ほう、よく知っているな。魔王様より代価をいただき召喚していただいた。召喚されたからにはきっちりとその役目果たさせてもらう!!』
そう言って白虎はちゃきっと剣を向ける。
姉さんが人質に取られては流石に動きようがない。
「くっ、姉さん!」
『少年よ大人しくこちらに来るがいい。そうすればこの女の命は助けてやる』
膠着状態になってしまったこの場で白虎が僕にそう言う。
シェルさんもセキさんもこれ以上動きが取れなくなり、僕は仕方なしにショートソードを地面に突き立て白虎の元へ歩き出す。
『ふふっ、いい心がけだ、これで魔王様もお喜びになられるだろう』
「ところがどっこい、主をそう簡単に殺らせるわけにはいかねーんだよ!!」
大人しく白虎に近づく僕にその声は上から降って来たかのように聞こえた。
がぎぃいいいいいぃぃんッ!!
「くそっ! なんつー硬さだ!! だがっ!」
声の主は今まで出番の無かったリュードさんその人だった!
僕たちが戦闘に入ってから姿を見せなかったけど、白虎が掴む姉さんの腕に重い一撃を入れた。
残念ながらその一撃は白虎に全く通じていなかったけどわずかに姉さんを掴む手をゆるませた。
その瞬間僕は持てる力全てを使って出来ないはずの技を使う。
「ガレント流剣技五の型、雷光!」
どんっ!
剣は無いけど抜刀の構えから一気に脚力と闘気をその一瞬に載せて踏み込み抜刀と同じく腕を振るう。
振るった腕は姉さんの腰を掴みその勢いを殺さず白虎の束縛から姉さんを奪い返した。
「よっし! 流石ソウマだ!」
『ぬっ!?』
ずざざぁざざざぁぁああぁっ!!
姉さんを抱えた僕は白虎の後ろに姿を現した。
が、途端に体中が痛み節々から血が噴き出た。
「きゃーっ! ソウマ君!!」
「ソウマっ!」
「ソウマっ!!」
「お、おい坊主!?」
ぴこっ!!
しまった、いきなり雷光を使ったから体が悲鳴を上げてしまった。
がくっ!
体に力が入らない。
姉さんを抱えていた体が膝から崩れる。
「うぅ、ソ、ソウマ?」
「ごめん、姉さん僕これ以上は‥‥‥」
どしゃっ!
駄目だ、もう起き上がる事も出来ない。
「ソ、ソウマぁっ!! いやぁっ!」
『見事と言っておこう、少年よ。その女を助ける為に力を超えたか。しかし無理をしたために体が悲鳴を上げたな?』
どす、どす
白虎がそう言いながら僕に近づいてくる。
でも、もう体に力が入らないよ。
「ソウマぁっ!」
ああ、姉さんごめん、もう立てそうにもないや。
「アイミっ!【特殊技巧装着】!!」
姉さんの叫び声が聞こえたのだった。
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