第57話3-16生贄


 僕はすぐ隣の部屋の扉を開ける。

 そして見たモノは!



 「ぐへへへへぇ、シェル様もう我慢できませんわぁ!」


 「ちょっ! エマっ! セキ何ニヤニヤして見てんのよ!? 早くこの縄ほどきなさいってば!!」



 ベッドに手足を縛られて寝かされているシェルさんにエマ―ジェリアさんが覆いかぶさる所だった。



 「あのぉ~、シェルさんもエマ―ジェリアさんもセキさんも大丈夫なんですよね?」



 「あらソウマ? なんか知らないけど気付いたら縛られてこんな所に寝かされてたけどここって宿屋なの? ソウマが運んでくれたの? でもなんで縛り付けてるのよ?」


 セキさんはちぎられた麻紐をプラプラとつまみ上げる。



 「ソウマぁ~、お姉ちゃんどこ太ったって言うのよぉ~っ!!」


 姉さんがやっとこっちへ来たみたいだけどまだ言っている。

 僕はセキさんに首を振りながら言う。



 「セキさん、僕がやったんじゃなくてこの村の人たちが僕たちを生贄にしようとしたんですよ! ここは宿屋じゃないですよ。多分村長の家か何かだと思います」


 「はぁ?」



 セキさんは目をぱちくりとしながら僕を見る。


 「あの、所でシェルさんの縄取ってあげないんですか?」


 見るとエマ―ジェリアさんが姉さんが僕にするようにシェルさんにキスしようとしている。

 あれって起きたら必ず姉さんがやって来るけど、やっぱり他の地域でもやっている風習だったんだ。



 「ぅむぅ~ん、シェル様ぁ~」


 「エマ、やめなさいってば! こらっ! セキぃっ!!」



 シェルさんはなんかわめいている。 

 でも今はそれどころじゃないんだよ、早くリリスさんにも加勢に行かなきゃ流石に男の人を三人も相手じゃ悪魔でもきついだろうし。



 「エマ―ジェリアさん、早く済ませてシェルさんの縄ほどいてリリスさんの加勢に行かなきゃですよ!」


 「ハえっ!? ソ、ソウマ君!? なっ、なんでここにいるのですの!? 私とシェル様の初めてにソウマ君が観戦ですのぉっ!?」


 「ないからっ! やめなさいってばエマっ!! ソウマ、早くこの縄ほどいてっ!! そしてエマを引き離してぇっ!!」



 うん良く分かる。


 朝から起きると姉さんがしつこくキスしてくる時が有るしたまに抱き着いてなかなか放してくれない時が有るんだよね。


 うっとおしいったらありゃしない。


 そんな所をミーニャに見つかるとものすごく不機嫌になりたまに姉さんと口論になるんだよなぁ~。

 よくミーニャもおはようのキスしたがっていたけど。



 僕は仕方なくシェルさんの縄をほどきにかかる。


 「くぅううぅうぅですわ! 邪魔が入りましたわ!! でもシェル様、私はあきらめませんわよ!!」


 僕がシェルさんの縄をほどき始めるとエマ―ジェリアさんは悔しそうに引き下がる。

 よっぽどおはようのキスをしたかったのかな?

 まあ姉さんのあれ見ていれば分からなくはないけど。



 「ソウマぁ~、ねぇねぇ、お姉ちゃん無視しないでよぉ~ もしかして太ったお姉ちゃんに愛想ついたのぉ~??」


 「あのね、姉さんは太ってないよ。いつも通り奇麗な姉さんだよ!」


 仕方なくそう言ってやると表情をぱぁっと明るくして嬉しそうに僕に抱き着いてくる。

 勿論僕はその胸でもがくことになるのだけど。



 「ぶっ!」

 

 「良かったぁ! ソウマがお姉ちゃんの事要らなくなったかと思ったわよ! もう、奇麗だなんて!! ねえソウマ、このまま結婚しちゃおうか!?」


 「ぶはっ! 何馬鹿な事言ってるんだよ、姉弟で結婚なんかできる訳無いだろ!?」 

 「もうっ! ソウマのいけずぅっ!!」



 冗談ばかり言っている姉さんを引き離しシェルさんに状況を簡単に言ってリリスさんの加勢に行こうと言うとシェルさんは襟元を直しながら言う。


 「ありがとうねソウマ。あの子なら大丈夫よ。本気になったサキュバスは普通の男が十人になってかかっても倒せるものじゃないわ。むしろ返り討ちになって搾り取られるだけ搾り取られてしまうわよ」



 え?


 リリスさんってそんなに強いんだ!?


 でも搾り取られるって、まさか吸血鬼の様に血を吸われちゃうの?

 もしかして食べるって血を吸う事なの?

 

 うわぁ~、それじゃあ僕も将来リリスさんに血を吸われちゃうの?



 思わず自分の首に手を当ててしまう。

 だって先生の所にあった本では吸血鬼って首筋から血を吸うのが多いらしいから。


 「じゃ、じゃあリリスさんは大丈夫って事ですか?」


 「多分大丈夫でしょう。それよりよくもやってくれたわね! ここの村長ってのは何処!? この落とし前はしっかりとつけてもらうわよ!!」


 珍しくシェルさんもご立腹のようだ。

 そう言えば僕が初めて上手く行ったガレント流体術で村長らしき人を倒したんだっけ。

   

 僕はそれを思い出しシェルさんたちを引き連れて廊下の倒した村長たちの所へ向かうと。



 「はううぅぅ~っ! もっとお願いしますぅ!!」


 「新しい世界がぁ! もうやみつきぃ!!」


 「俺は今、真実にたどり着いたんだぁ!」



 なんかリリスさんにあの男のひとたち三人が縛り上げられて上半身裸で上から蝋燭とかたらされている。

 時たま鞭に様なもので打ちつけているけど何故かその男の人たちはその度に嬉しそうな悲鳴を上げる。



 『あらソウマ君、どうやら姉たちは見つかったようね? 大丈夫だったの?』


 「あぁ、はい、おかげさまで無事でした。ところでリリスさんこの人たちどうなっちゃったんですか?」


 『あたしがいろいろと調教してあげたの。そしたらずいぶんと大人しくなってねぇ~』


 見れば三人とも恍惚とした表情でリリスさんを見ている。


 うん、これは放っておいた方が良いみたい。

 僕はシェルさんたちをまだ気を失っている村長の所まで連れて行く。



 「この人が村長らしいですね。僕を生贄に、シェルさんや姉さんたちを盗賊に引き渡すような事を言っていました」


 「ほほぉぅ、このあたしを盗賊如きに引き渡すと言うの? いい度胸ね!」


 そう言ってシェルさんはその村長らしき男の胸元を引っ張り上げ何やら精霊魔法を唱えるとこの人はすぐに気が付いた。



 「ぐっ、一体何が?? うわっ!?」



 「ねえ、あなた村長さんらしいわね? これは一体どう言う事か詳しく説明してもらいたいわね? この私、『女神の伴侶シェル』にここまでの事をしたのだから覚悟は出来ているのでしょうね?」


 「ひっ!? め、『女神の伴侶』ぉっ!? まさか!? そんなお方とはつゆ知らず!!」



 村長と言うその人は額にびっしりと脂汗を書きながらふるふると嫌々をする。



 「ふぅうぅぅぅん、そんなことしようとしてたんだぁ~あたし暴れても良いよねシェル?」


 そう言うセキさんを見るとぽきぽきと指を鳴らしている。


 「あんた終わったわよ? この『爆竜のセキ』を怒らせちゃったら、一緒にいる『聖女』でも押さえられないわよ?」


 「ひっ!? そ、そんなぁっ! 『爆竜のセキ』に『聖女様』だってぇっ!? 村が消し飛んでしまうっ!!」


 みるみる七面鳥の様に顔色を変える村長は涙目どころががちがちと歯を鳴らして震えている。

 するとシェルさんはにまぁ~っと笑って村長に顔を近づけ言う。


 「嫌だったら大人しく私たちの言う事を聞くことね?」


 すると村長はこくこくと頷く。


 うん、とりあえずこれで後の事は大丈夫だろう。

 シェルさんたちが完全に主導権を取ってしまえばこの後の事も上手くやってくれるだろうから。


 僕はやっとほっとして未だリリスさんにいじめれれている男の人たちを見る。

 うーん、いじめは良くないだろうけど今回は自業自得だよね?




 僕は村でああいういじめをされなくて本当に良かったと思うのだった。

  

 

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