第11話1-11道間違えちゃった


 「フェンリルさん本当に行ってしまうんですか?」



 姉さんは冒険者ギルドの受付嬢であるネミアさんに手を握られている。

 それを青ざめながらぶんぶん振って振りほどこうとしているけどしっかりと握られているので離れられない。



 うん、ネミアさんも姉さんと別れるのが寂しいんだろうね。



 「んひぃぃいいいぃぃぃっ! は、放してくださぁぃっ! 私にはソウマと言う心に決めた人がいるんですぅっ!!」


 「ああっ! せめて一晩フェンリルさんと夢を見たかったぁああぁぁぁっ!!」


 「のひょぉぉおおおぉぉぉぉっ!!」



 脂汗をだらだらと流しながら涙目の姉さん。

 そうか、姉さんもここを離れるのが寂しいんだ。



 うん、ちょっと年上のお姉さんだけどネミアさん良い人だったもんね!



 「ほらほらほら、地竜も討伐終わったしやる事やったんだから行きましょうよ」


 シェルさんがいい加減しびれを切らせてそう言う。

 姉さんはネミアさんからやっと離れてこちらに来る。


 「ぜぇぜぇ、もうノルウェンに来るのは絶対にやめましょう、危なかったわ‥‥‥」



 はて?


 姉さんなら地竜くらいどうってことは無いのにやっぱり一度に数体くるときついのかな?



 僕は首をかしげていると姉さんが抱き着いてくる。


 「ソウマ成分補充しないとだめだわぁ~」


 「だからと言って姉さん胸押し付けないでよ、息苦しいよ!」


 「もう、ソウマのいけずぅ!」


 そんな事を言いながら僕らはいよいよボヘーミャに向かってこのノルウェンを後にする。



 * * * * *



 「で、こっちでいいんだっけ?」


 「いやいや、シェルさんきっとこっちですよ!」



 二人とも明後日の方向を向いている。



 なんで?


 ここに石碑が有るんだけどしっかりとボヘーミャ方向が書いてあるのにコルニャやユーベルトに行こうとするの?



 「あの、途中の街ドーバスってこっちだよね?」


 「あらそっちだっけ? うーん、昔通った時はあんな山なかったような‥‥‥」


 「ねぇねぇソウマ! あっちなんか面白そうよ!!」


 既に二人は別々の方向に歩き出している。

 このままじゃ本気ではぐれちゃうよ!!



 「姉さん! シェルさん!! そっちは違うってぇっ!!」



 僕は仕方なく二人を連れ戻しに行くのだった。

 

 

 * * * * *



 「えーとぉ‥‥‥」



 盗賊のおじさんたちが姉さんとシェルさんにあっさりとやられてぴくぴくしている。



 「なんか最近物騒ねぇ? この国の衛兵たちは何しているのかしら?」


 「あ、でも路銀は手に入るからいいじゃないですか、シェルさん!」


 姉さんは盗賊のおじさんたちからお金を巻き上げている。

 シェルさんはそんな様子をため息をつきながら見ているけどシェルさんは盗賊から路銀取らなくていいのかな?



 「あの、シェルさん盗賊の路銀没収しなくていいんですか?」


 「ああ、お金には困ってないからあなたたちで全部もらっちゃいなさい。こう言う人にお金持たせるとろくな事無いから」


 そう言って一休みとでも言うようにその辺の岩に腰かけて何処からか取り出したお酒を飲み始める。



 「ぷっはぁーっ! 一仕事の後の一杯は格別ね!」



 結局シェルさんは僕たちが路銀を回収するあいだずっとお酒を飲んでいた。



 * * * * *



 「あ、石碑だ! さぁて何処まで来たかな?」



 僕は道の端に立てられている石碑が見えたので急いで見に行く。

 順調に行けばボヘーミャの間にあるドーバスの街に向かっているはずなんだけど‥‥‥



 『この先ミハイン王国』



 はいっ!?



 「ね、姉さんこの先ミハイン王国だって!」


 「ミハイン王国ってどこだっけ?」


 「あら? おかしいわね、南のドーバスに向かっていたはずなのに?」


 何処でどう間違えたのか僕たちは南では無く西に向かっていたようだ。

 

 確かに盗賊は現れるわ、姉さんが気まぐれで肉を食べたいからって狩りに行っちゃって元の道が分からなくなったり、シェルさんが森の中歩きたいからってふらふらと道以外を進もうとしたりといろいろあった。



 でも南に向かって歩いていたはずなのに‥‥‥


 本当はガレントの衛星都市ドーバスに行くはずなのがいつの間にか西のミハイン王国って。



 「そうそう、ミハイン王国って真珠が有名よね? お土産に買って行こう!」


 「姉さん、遊びに行くんじゃないんだから。でもどうしよう、もの凄く遠回りになっちゃったなぁ」


 「あら、ミハインだったら逆に近道よ。大丈夫、あてがあるから行ってみましょう。あそこへも顔出さなきゃだしね」


 シェルさんはそう言ってにっこりと笑う。



 うーん、シェルさんの言う事だからきっと何か方法があるのだろうなぁ。




 僕たちはミハイン王国へと進むのだった。

  


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