束の間の
それから、僕らの
復讐ウェディング計画は
思いの外
順調に運んでいった。
式場は雪さんたちが
キャンセルした日程が
空きのままだったので
その日を。
参加客には
サクラを呼んだり、
元婚約者と繋がりのない
雪さんの旧友や、
あえて元婚約者の
会社員を招待したりもした。
プランニングについては
基本コースそのまま。
オプションで
ちょっとした演出を加える
という打ち合わせをして、
下準備を重ねた。
お姉さんが夢見ていた
ウェディングドレス選びには
時間も予算も割いた。
これが、お姉さんが
長年夢見ていた願いを
叶えられる最初で
最後のチャンスだったから……。
「上手くいくといいですね、
結婚式」
お姉さんが着替えのため、
待機中。
ぼーっと
椅子に腰掛けていると、
相談室の卓上で
パソコンを用いながら、
結婚式当日の
スケジュールを組み立てる
櫛名田さんがそう呟いた。
彼女の目元には
うっすらと隈ができており、
睡眠不足を感じさせる。
それでも彼女が
明るく見えるのは、
プランナーの誇りを懸けて、
女を捨て駒のように
扱う最低男を正攻法で
屈させようと
しているからなのだろう。
「はい。計画が
上手く行くことを
願うばかりですね」
短期間とは言え、
あれだけ綿密に
計画を練ったんだ。
失敗させてなるものか、
絶対にあいつを、
杣山に復讐してやる。
お姉さんがどれほど
苦しんだのか知らしめて、
地の底まで貶めてやる
……とどろどろ禍々しい
何かが僕の中で沸き立つ中、
「あぁ、そういう
意味ではなくてですね。
幸せな結婚式になると
いいですねってことです」
彼女は
パソコンから目を離して、
子どもに向けるような
陽だまりの笑顔を浮かべた。
「幸せな、結婚式……」
「はい、幸せな結婚式です」
作業していた
パソコンを閉じて、
確認するように
再度にっこり笑って見せた
彼女が少し怖くなった。
「え、でも……
だってあれは
復讐のための
結婚式なんですよ?」
そんなことは彼女だって
百も承知のはずなのに、
それでも彼女は笑顔を続ける。
「ええ、それは
勿論承知しています。
ですが、だからこそ、
こう思います。
復讐としての
ウェディングが
失敗したとしても、
お二人が幸せであれば、
それは何よりの
復讐になるのではと」
彼女は言い終えて
すっきりしたらしく、
再びパソコンを開いて、
カタカタと
タイピングを始めたのだった。
「お待たせしましたー
やっぱり
ウェディングドレスって
感動しちゃいますね。
嘘でも着られて、
すごく嬉しいです」
着替えから戻ってきた
雪さんの浮かれた表情を見て、
改めて僕は
彼女を幸せにしてあげたい
と感じた。
絶対、
結婚式は成功させよう。
しかし、そんな
優しい時間も
束の間だった。
結婚式を明日に
控えた晩のこと。
いつものように二人で
夕食を楽しんでいたら、
突然僕のスマホが着信した。
相手は
櫛名田さんからだった。
「雪生様っ!!
……本当に、
本当に申し訳ございません。
実は……」
それから続けた彼女の言葉が、
手元からスマホを滑らせ、
床に落ちたそれが
ゴツンと音を立てた。
「実は明日の支度をしていたら、
オーナーに
この件がバレていて、
『こんなことをして、
ただで済むとは
思わないように』と
釘を刺されて
しまったんです……」
そんなこと
言われたって今さら、
どうすることも
できないだろう?
僕は、心配そうに
スマホを拾ってくれた
お姉さんにお礼を言い、
それを受け取りこう告げた。
「もう
強行するしかないでしょう」
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