前代未聞(2)
「あ、あなたはっ!!」
彼女の驚きに応えるように、
お姉さんは口を開く。
「……はい。以前、
この結婚式場であなたに
プランニングを担当していただいて
おりました、鈴生雪です。
以前はその、本当に、
ご迷惑をお掛けしました……」
雪さんが元婚約者の杣山に裏切られて、
多額の違約金を払わされたのが
この結婚式場。
プランナーにとっても、
式をキャンセルされた
相手と顔を合わせるのは辛いようで、
櫛名田さんは顔を顰めている。
「……あの!
差し支えなければ、
式をキャンセルされた
経緯をお伺いしてもいいでしょうか!?
ずっとその、気になってまして……
式をキャンセルされたときは
鈴生様おひとりでしたし、
終始俯いていらしたので
何かあったのだろうとは
思っていましたが、
あのときは立場上
わたくしからは何もお聞きすることが
できませんでした。
ですが!
改めてご相談に
来ていただけた今ならお聞きできます。
わたくしは、
鈴生様にも幸せに
なっていただきたいのです」
雪さんに向かって伸ばされた手が、
彼女の手を覆うか
覆わないかのところで留まった。
彼女は突然の櫛名田さんの
申し出に目を剥きだしたけれど、
「長話になりますが、
それでもよろしければ」
そう返して、
櫛名田さんの手に自分の手を重ねた。
お姉さんがいくらか割愛して、
杣山に裏切られて
行き倒れたこと、
さらに両親を餌に再度騙されて
軟禁されたことまでを語った。
「――なるほど、最低なクズ男の
未練を断つためと復讐のために、
潦雪生様と模擬挙式が
行いたいということですね、
承知致しました」
「えっ、いいの!!?」
「何を仰られるのです?
それを言い出したのは
潦様ではありませんか」
自分で誘導しておいてなんだが、
あまりに前後で対応が違いすぎる
櫛名田に愕然とする他なかった。
「い、いやそうなんですけどーーー
さっき言ってた
プランナーとしての誇りは??
責任を負えない
未成年の結婚式は
認められないんじゃ――」
「潦様、世の中は臨機応変なものですよ。
ケースバイケースとも言いますね!」
数分前まで真面目な顔で
人生の門出について
語っていた人と同一人物とは
思えないほど、底抜けに明るい顔だった。
「それに……、」
「それに??」
「同じ女性として、
鈴生様の元婚約者が
行ったことは許せないんです。
罰を受けて然るべきですよ
……本当はこんな、
復讐に手を貸すなんて事、
してはいけないんですが、
捨て身覚悟で
お手伝いさせていただきますので、
安心して計画を練りましょう!!」
「そうしましょ、
そうしましょう!!!
まずは~~雪さんのウェディングドレス
選びからですね、
これだけは絶対外せませんからねー
……あれ、雪さん?」
雪さんだけの声が聞こえない
と思って辺りを見回すと、
彼女はいつの間にか、
窓辺の椅子へ腰掛けていた。
ドレス選びのため、
近付いて話を聞こうとすると、
「――に、こんな無茶なことが
上手に運ぶのでしょうか?」
彼女が視線を向けていた先の
ガラス窓は外気温との差で
結露しており、
それは誰かの冷や汗を
象徴しているかのように見えた。
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