コンビニエンスストア(2)

  

 結局二十数分かかって

 ようやく辿り着いた

 コンビニ。


 やはり外観に

 これといった特色は無く、

 よくある

 コンビニチェーン店だ。



 変わったところが

 あるとすれば、

 このチェーン店は

 僕の住む町にはなく、

 ある程度都会的な

 場所でなければない

 ということくらいか。



 が、お姉さんは

 到着するなり駆けだして、

「やっと……」と突進する

 勢いでコンビニに

 入店していった。


 彼女の表情からは

 焦燥と希望の二つが

 見て取れた。


 僕は大きめの傘を閉じて

 傘立てに突っ込むと、

 青空が広がっていた。



 いつからなのか。


 すぐ彼女の後を追って、

 入店した。



 おなじみのメロディと

 店員の挨拶が

 人気の少ない店内に響く中、

 僕はある既視感に襲われた。



「あれ、なんだここ……

 僕、ここに何度か

 来たことがあるぞ…………?」



 遠い昔でもない、

 ほんの一、二年ほど前。


 確か、ばぁちゃんに反抗して

 家を飛び出そうとしたときの

 言い訳のために、

 ここへ寄ったんだっけ。

 懐かしいなぁ。



 ――いや、今はそんな

 思い出に浸っている

 場合ではない。

 お姉さんを探さないと。



 店内を歩きながら

 雪さんを探していくと、

 菓子コーナーで

 立ち尽くしているのを発見した。



「もー雪さん、

 急に走ったら危ないでしょう?」



「……い。やだ、

 なんで、どうして…………」



 僕の声など届いていない様子で、

 ただ目の前の

 現実に打ち拉がれている。


 彼女の顔にはもう希望などなく、

 うっすらと

 諦念が滲みかけていた。



「雪さん、本当に

 どうしちゃったんですか?

 僕にも分かるように教え――」



 お姉さんの肩に手を置こうと、

 手を伸ばしかけた

 そのときだった。



「雪?」



 高そうなスーツに身を包んだ

 いかにもエリート臭漂う男性は、

 僕の斜向かいからやってきて、

 お姉さんの

 退路を塞ぐように立ち、

 顔を覗き込もうとする。



 あれ、この人、

 確かどこかで……、



「せい、いちさん……」



 そう思いかけたのも束の間。


 彼女が口にした男性の名前に、

 僕は唖然とするしかなかった。



 雪さんを行き倒れまで

 追い詰めた張本人。

 元婚約者。



「やっぱり雪なんだな!?


 あぁ……会いたかったよ、

 探してたんだからな!!」



 人目も憚らず、

 お姉さんを抱擁する彼。


 そして、あれほど恨んでいた

 元婚約者との再会なのに、

 そんな奴からの抱擁なのに、

 彼女の横顔は

 ひどく安堵したように

「ここがわたしの

 居場所なのでしょう」と

 唇がそう

 なぞったように見えた。



 そんなわけがないのに、

 あるはずないのに、

 あの日々は

 嘘なんかじゃないって

 そう思うのに。



 お姉さんは彼と落ち合うために

 ここに行きたいって

 言ったんじゃないかって、

 脅迫的な観念で

 脳が

 埋め尽くされてしまうんだ。




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