コンビニエンスストア
結局雪さんが
何を隠したかったのかは
有耶無耶になり、
本当は帰りたくないけど、
強くなった雨脚を見て、
そろそろ帰ろうかと
言い出したときだった。
「最後にどうしても。
どうしても、
一緒に行きたい
場所があるのです。
今から一緒に来て
いただくわけには
いかないでしょうか?」
そう言って、
僕の腕を
ぎゅっと掴むお姉さん。
その瞳は確かに僕を捉えていて、
瞬きする間でさえ
ずっと見つめてくれている
ようでさえあった。
そこには力強い願い
というものを感じる。
「……うん、分かった。
いいですよ。
雪さんのお願いですからね、
もちろん行きますとも」
「本当ですか!!
っ、
ありがとうございます!!!」
「ところで、その行きたい
場所っていうのは?」
「……にある、コンビニです」
お姉さんの
予想だにしなかった
回答に僕は唖然とした。
そのコンビニは
僕の家から数km先の郊外にある。
特にこれといった特徴も無く、
強いて言うなら、
ラインナップが田舎らしくなく、
新作も置いてある
というくらいだろうか。
「……へ? コンビニ?
駅前にあるやつとかじゃ、
ダメなんですか?
雨も結構強いですし、
近場で済ませた方が――」
楽だろうと
続けようとした言葉を、
しかしお姉さんが遮った。
「これだけは譲れないのです。
どうか、お願いします」
この通りです、
と深く頭を下げてくる
彼女の態度に、
一度承諾しておいて
今さらダメとも
言えるはずもなく、
「分かりましたよ。
そこまで言うなら……
一度承諾した以上は
断れないですし」
と郊外にあるコンビニへの
直行を決定したのだった。
彼女に言われるまま
僕らは家の方を向いて、
快速電車に乗った。
行き先を告げられずとも、
ICカードなら困らない。
八両編成の車両に
揺られること、四駅目。
「ここで降りましょう」
と彼女が口を開いて、
その背中を
追うように電車を降りた。
それから改札を抜けるまでも
彼女は黙ったままだった。
「ねぇ雪さん?
そのコンビニは
ここからどのくらいの
場所にあるんですか?」
「……多分、歩いて
二十分くらいの
距離だと思います」
「に、にじゅっぷん!?
雨の中、そんな
距離歩けるんですかぁ……」
二つあっても
邪魔なだけだろうと
家から持参してきた
傘を持つ僕は、
不満げにそう零した。
彼女と4,5cmほどしか
変わらないとは言え、
二人で入るために
傘を持つのは
地味に疲れが生じる。
高さの調整や
角度の向け具合など、
微調整が必要で
適切な距離も
保たなくてはならない。
相合い傘とは実は、
かなりハードである。
それなのに彼女ときたら、
「……平気です」
これだ。
コンビニに行きたいと
言い出してから
ずっとこんな調子で、
不機嫌だ。
「ふぅん、そうですか」
無愛想に口先だけを動かして
返事をする雪さんを
そっけなく感じて、
僕も彼女とは
逆方向を向いた。
なんとなく
反抗してみたくなったから。
しかしすぐ気になって、
こっそり横目で彼女を覗くと、
その横顔は
どことなく切なげに見えた。
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