HMC-011 絡新婦(ジョロウグモ)

【登録番号】 HMC-011


【妖姫通称】 絡新婦(ジョロウグモ) / アラクネ


【親和性】 レベル2


 一般的には非常に危険な妖異として認識されています。野生の個体は「男を巣に引き込み、精気を吸い尽くして喰らう」捕食者そのものです。しかし、花街においてはその強い「捕食本能」と「独占欲」が、高度な教育によって「究極の管理願望」へと昇華されています。貴方のすべてを縛り上げ、管理し、世話を焼くことに至上の喜びを感じる彼女たちは、ある種のお客様にとっては女神とも呼べる存在となるでしょう。


【外観】

 上半身は、しっとりとした黒髪に紅を差した、挑発的な笑みが印象的な美女の姿です。蜘蛛の巣と彼岸花が金糸や黒糸で刺繍された深紅の着物を、妖艶に着崩しています。しかし、その下半身は巨大な蜘蛛の胴体となっています。腰から下は、黒く硬質な甲殻に覆われ、関節に赤い模様が入った8本の鋭利な蜘蛛の脚が大地を踏みしめています。人間の上半身と蜘蛛の下半身が融合したその姿は、美しさと恐ろしさを同時に感じさせます。また、白く細い指先からは、光を反射して銀色に輝く、鋼鉄よりも硬く絹よりも滑らかな糸を紡ぎ出し、複雑な巣を編み上げることができます。


画像

https://kakuyomu.jp/users/teikokuyouitaisakukyoku/news/822139840366442673


【説明】

 古来より人を化かし、捕食してきた蜘蛛の妖怪です。花街の彼女たちは、その捕食対象を「心と身体」に限定しています。彼女たちの最大の特徴は、逃げられない恋の糸による「捕縛(ボンデージ)」と、動けなくなった相手に対する徹底的な「お世話」です。


 彼女たちのその巨体と多脚ゆえに、普段は自らの部屋の奥に鎮座していることが多いです。興奮時にはその強靭な脚で相手を逃げられないように抱え込みます。彼女たちが紡ぐ糸は、物理的な拘束力だけでなく、微弱な神経毒を含んでいます。この毒は痛みを与えるものではなく、触れた箇所からじわじわと身体の自由を奪い、同時に脳内に甘い痺れと陶酔感をもたらします。


 彼女たちはパートナー獲物を自らの巣に入れると、決して逃がそうとしません。それは強い独占欲の表れですが、同時に「貴方はもう何もしなくていい。全ての判断、生活、快楽の管理は私がしてあげる」という、歪みながらも深い包容力の裏返しでもあります。


 Sっ気のあるお姉さんキャラとして振る舞いますが、その本質は「相手を無力化して愛でたい」という過保護な母性に近いものです。糸に巻かれ、巨大な異形に組み敷かれた状態で、食事から排泄、快楽の処理まで全てを委ねる背徳感は、多くの紳士を「甘い毒」の虜にしています。


【エピソード】 ~銀糸の繭、甘い檻~

 激務に追われるシステムエンジニアの男、田所(32歳・仮名)は、限界を迎えていた。


 終わらないプロジェクト、責任の押し付け合い、そして深夜でも鳴り止まない通知音。


「……もう何も考えたくない」


 思考を放棄したい。ただの肉塊になって、誰かの言いなりになりたい。そんな末期的な渇望に導かれるように、彼は花街の門を叩いた。彼が選んだのは、絡新婦の「朱音あかね」だった。


 通された部屋は薄暗く、微かにお香の甘い匂いが漂っていた。そして、部屋の奥には――巨大な蜘蛛の身体を持つ美女が、妖艶に微笑んでいた。


「あら、随分とお疲れのようねぇ……かわいそうに」


 朱音は、疲れ切った田所を見るなり、慈愛と嗜虐が入り混じった笑みを浮かべた。その異形の下半身が、衣擦れの音を立てて蠢く。


「ここに来たってことは……もう、自分では何もできない身体になりたいのかしら?」


 図星だった。田所が力なく頷くと、朱音の目が怪しく光った。


「いいわ。私がぜ~んぶ管理してあげる♥」


 シュッ、と空気を裂く音と共に、田所の視界が銀色に染まった。


 気づけば、彼は部屋の中央に吊るされた巨大な蜘蛛の巣のようなハンモックに、身体の自由を完全に奪われた状態で固定されていた。


 鋼鉄のように硬いのに、肌に触れる部分は人肌のように生暖かい。そんな矛盾した感触の糸が、田所の全身を瞬時に締め上げた。


「ん……っ」


 糸が食い込んだ場所から、痺れるような甘い熱が広がる。それは痛みではなく、脳の芯がとろけるような快楽の毒だった。指一本動かせない。でも、それがどうしようもなく心地よかった。


「無駄よ。私の糸は、貴方のその細い腕じゃ切れないわ」


 朱音は巨大な蜘蛛の下半身で田所の体を跨ぐようにして覆いかぶさり、鋭利な脚先で田所の頬を愛おしげに撫でる。恐怖よりも先に、抗えない安心感が押し寄せてきた。


「さあ、貴方はお人形。食事も、お風呂も、気持ちいいことも……全部、私がしてあげる」


 その夜から、田所の「飼育」が始まった。


 食事は朱音の口移しか、スプーンで運ばれる流動食のみ。トイレに行きたくなれば、彼女が用意した器具で処理される。彼が自分の意思で行えることは、呼吸と、彼女の愛撫に反応して声を漏らすことだけだった。


 最初は抵抗感があった田所も、三日もすればその環境に順応してしまった。


 今日の予定を考えなくていい。明日の心配もしなくていい。ただ、この美しい捕食者に身を委ねていれば生きていける。


 朱音の八本の足と二本の腕、計十本の手足による全身の愛撫は、田所の脳髄を溶かすほどの快楽を与えた。


「うふふ、随分といい顔をするようになったじゃない。……美味しそうよ」


 朱音が耳元で囁きながら、動けない田所の首筋を舌でなぞる。


 食べられる恐怖と、食べられたいという被虐願望。その境界が曖昧になり、田所は糸に巻かれたまま、涎を垂らしてコクコクと頷くしかなかった。


 その目には、かつての疲労の色はなく、ただ飼い主を見上げる従順なペットの光だけが宿っていた。


 ――その後、田所が会社に戻ることは二度となかった。


 彼の行方を知る者はいない。ただ、花街の奥深く、ある部屋の天井には、今日も幸せそうな男が「繭」となってぶら下がり、妖艶な女主人の帰りを待ち続けているという。


※花街事務局より  本エピソードは演出を含みます。実際の田所様は四日間のプレイ後、二日間のリハビリを経て社会復帰(ご帰宅)されています。野良の絡新婦の場合、本当にそのまま帰れなくなり、最後には捕食されてしまいますのでご注意ください。


【所属妖姫】

★ 朱音(あかね)さん(人外っ娘倶楽部 帝都本店所属)

 エピソードに登場した、面倒見の良い(?)ドSお姉様。一度気に入った獲物はとことん甘やかし、駄目人間にすることに定評がある。


本人コメント:「あら、貴方も疲れちゃったの? 糸の硬さは調整できるわよ。ガチガチに固められるのと、少しだけ藻掻ける柔らかさ……どっちがお好みかしら? ふふ、選べないなら、私が決めてあげるわね」


★ 紗(すず)ちゃん(モンスター☆ギャルズ 新十九区店所属)

 こちらはハーフアラクネのギャル系妖姫。軽いノリで近づいてくるが、一度捕まるとその拘束テクニックはプロ級。


本人コメント:「ウチの糸、マジ切れないから! 一回捕まったら朝まで離さないし~! てか、もう一生ウチのペットでよくない? 逃げようとしたら……マジで足、折っちゃうかも。あはっ、冗談だってば~♡ ちゃんと可愛がってあげるから、大人しくしててね?」


★ その他、多数の蜘蛛種族が貴方をお待ちしております。詳細は各店舗までお問い合わせください。

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