幽霊の正体見たり!

 遠目には夜の公園でデート中のヤンキーカップルに見えるであろう、本日の永遠とわ刹那せつな


 その頓珍漢な出立ちは、家中のタンスをひっくり返して、あり合わせで揃えたヤンキールック風の変装だ。

 永遠は部屋着のジャージに父親が黒歴史と言っている派手なスカジャン。髪型はリーゼントに失敗して出来たオールバック。

 刹那はこれまた母親の黒歴史、ピッタリとした原色のタイトミニワンピースにジージャン。髪はコンビニで買ってきたヘアブリーチを使って明るくしようとしたが、そのままうっかり朝まで寝てしまってのド金髪。昼間は学校で次の月曜日までに戻して来いと、こっぴどく叱られた。


 永遠の左腕に自分の腕を絡ませて歩く刹那。しかし永遠の左肘に柔らかい感触は無く、その代わりに当たっているのは、ショルダーホルスターに挿さっているグロックの予備マガジンの感触。


なんも出ねーな」

「出たら困るわよ」

「いや、出ねーと俺らただ働きだぞ」

 怖くて話を聞けない刹那は、適当に誤魔化して依頼内容を詳しく聞いていないが、永遠から伝えられた要点は、依頼者の姉が会社帰りにこの公園を通ると近道になるのに、幽霊が出て以降は怖くて行きも帰りも通れないこと、退治したらひとまず報酬は貰えるが、もし証拠画像も撮れたら報酬額は倍にアップするとのこと。


 ぐるりと全てのルートを練り歩き、そろそろ一周が終わる頃、永遠は僅かに気を引き締めて前回警邏の警官と遭遇したポイントを見た。そしてそこで信じられない光景を目の当たりにする。それはライトの光などではない、本物の人魂。ベンチの奥の茂みの辺り。その上空にゆらゆらと青緑の火の玉が昇り、星空に消えて行った。


「ごくっ……」思わず唾を飲み込む。額には冷や汗が流れ、つけ過ぎた大人用の整髪料の臭いがしてくる。

 チラッと刹那を見ると気付いていない様子だ。

(チャンスだ!)


 今回、刹那のオカルト耐性の無さから、どうせ本当に何か出ても画像など撮る余裕はないだろうと倍額報酬を諦めていた永遠だったが、今ならばと刹那に気付かれないように左手でジャージのポケットからスマホをそうっと取り出し無音カメラアプリを立ち上げる。

 そのまま連写モードにして当てずっぽうにレンズを向けて何度か捨て撮りを繰り返した。


 永遠の歩く速度が遅くなり、刹那が「ちょっと早くっ」と言って左腕を引っ張ったその時、新たに今度は赤い人魂が現れた。今度は刹那もそれに気付き、一瞬の硬直の後クロスさせた左腕で永遠を突き飛ばしながら右手でグロックを抜き、宙に踊る人魂を銃身に捉えてセミオートで数発見舞った。恐怖心をも押さえるトリガーハッピーっぷり。


 三発目で命中し、分裂しながら火は消えていった。永遠は地面に寝転がりながらも一部始終を連写。


「あららホントにBB弾効いちゃったよ」

「今日のは只のBB弾じゃないからね」とドヤ顔でマガジンを抜いて永遠に放る。両手でキャッチして注視すると僅か6ミリのBB弾の一発一発に何やら梵字の様な文字が描いてある。

「書いたの?」

「違うわよ。昔販売されてた『密教怨念弾』って言ってちゃんとお祓いもされてるBB弾。オヤジのコレクションから拝借してきた」


「刹那ァ! またッ!」叫ぶと同時にマガジンを刹那に投げ返す。

 今度はかなり低い位置で揺らめく人魂が出てきた。最初に永遠が見たものと同じ青緑色。受け取ったマガジンを入れて今度はフルオートでまだ低い位置を彷徨っている人魂にありったけの怨念弾を水平に撃ち込みながら歩を詰めて行く。

 と。

「イタタタ」茂みの奥からは若い女性の声。

 人魂は空中分解、永遠はその様子もバッチリ画像に収めた。


「効いてる効いてる♪」

 全弾撃ち尽くしスライドオープンし、今度はロングマガジンを入れてスライドロックを解除する。


「いや、イタタって」永遠が起き上がり声のする方に駆け寄ると、茂みの中でBB弾を喰らいしゃがみ込んで痛がる女と目が合った。


「……もしかして永遠くん?」

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