106話 夏休み

 太陽が全てを照らしていた。気温が上がり、夏がやってくる。夏休みの前日、千春達は荷物を持って家に帰っていた。


「夏だから私、日差しが……」


 千夏がクラクラしながら大量の荷物を持って家に帰る。リコーダー、ハサミやら色々なモノが入った小物入れ。他にも学校に置いてあったあらゆる道具をだ。



 相当な重さなので千夏は一番つらいが、千秋や千冬も辛そうだった。家に着くとすぐさま全員シャワーを浴びて、冷房を入れる。


「おー、最高に涼しいな! 我感動」

「千冬も涼しくて夏休みの宿題捗りそうっスー」

「冬はもうやるの? 速過ぎない、もうちょっとゆっくりやればいいのよー」

「それだから秋姉と夏姉は宿題後で出来なくて焦るんスよー」



 テキパキと千冬は颯爽と宿題に取り掛かる。千秋と千冬はぼぉっとしているのだが、千夏が思い出したかのように話し出す。



「そう言えば、好きな子っている?」

「え? 我か?」

「そう、秋は好きな人はいるの?」

「我は我が好きだ」

「自己愛ね」

「でも、カイトも好き」

「そう。まぁ、知ってたけど、私も好きよ。冬と春もでしょ」

「まぁ、そうっスけど」

「うちも好きだけど、三人みたいな感じではないと思うよ」



 千春が鋭い一撃を返したので思わず、全員が黙った。千春は千夏の頭を撫でながらフっと不敵に笑う。



「良いと思うよ」

「なにがよ」

「別に……未来はどうなるのかな。誰かが選ばれるのか、どうなのか」



 千春はそう言ったまま撫で続けた。


「そう言えばさ春は泳ぐのあんまり上手になってないわよね」

「泳げるよ」

「犬かきみたいな感じじゃん」

「でも、泳げることには変わりない」

「今年も魁人にレッスンしてもらうのかしらね」

「どうだろうね。さて、千秋も千夏も宿題やるよ。夏休みを楽しみたいならね」

「ええー! 我、今日はやめとく!」

「ダメだよ。お兄さんがおじいちゃんとおばあちゃんの家に行ったり、ドライブに行くって言ってたんだから。今のうちに色々やっておくの」

「はーい!」



 千秋が元気よく声を上げて、ノートを広げた。ドリルに答えを写す作業を始めたので妹の千冬にそれを止められている様子が見える。


「……アンタはどうなの?」

「宿題やるよ」

「違う、魁人のこと」

「……好きだよ」

「……色々、本当は相談したい事あるんじゃないの? 能力とかさ……」

「うちはもう、大丈夫だからさ。それにそれを言っても意味はないよ、お兄さんもそれを分かってるから話してこない。あの人とうちは同じような生き方をしてるから、本質をついても意味がないんだよ」

「どういう意味よ、それ」

「何ていうのかな。同じことしてるのに、それを否定できないって事かもね」

「……魁人の事を自分が一番よく分かってるみたいに言うじゃない」

「実際そうだよ。うちがあの人を一番理解してる」

「……ふーん、でも私だって理解してるわ、一番ね」

「そうかな、それは錯覚だと思うよ。でも、安心して。好きと言っても千夏達の意味じゃないから張り合う必要もない」

「……なんか、余裕ぶってるのが気に入らないわね」

「余裕ではないんだけどね……それより宿題宿題」




 千春が千夏を席に座らせる。そのままドリルを取り出して彼女の前に置いた。千夏と千春が僅かに張り合いみたいになったが、すぐにその空気は消えた。


 彼女達は宿題に取り掛かった。全ては夏休みを楽しむためだ。





◆◆




 俺は久しぶりに車の手入れをしていた。鳥の糞とかがついていたのでホースで水をまきながら掃除をしたり、夏休みなのでなるべく良い車で出掛けたかったのだ。



「おー、魁人。精が出るな! 我もその鉄砲みたいなホースで水撒きしたいぞ!」


 俺は千秋にホースを渡す。すると彼女はパーと水を銃のようにして遊び始めた。車に水を当ててきゃぴきゃぴ笑って居る。


「千秋は可愛いなー、和むよ」

「ニハハ、ならば良し!」


 本当に可愛らしい笑顔でビビる。


「さて、魁人。ドライブ楽しみにしてるぞ! 我がカイトの助手席だからな!」

「分かった。道案内は任せるよ」

「まかせろー」



 千秋がそう言うので助手席は任せることにした。


 そして、ドライブの日がやってくる。皆の為にも楽しいドライブの想い出を作るんだ!

 

 と思っていたのだが


「私が乗るの!」

「我!」

「私が魁人を支えてあげるの! アンタは寝るでしょ! どうせ!」

「寝ないもん!」

「寝て、運転してる魁人に飴とか飲み物とか上げられないでしょ!」



 二人が喧嘩をしている。助手席にどちらが乗るのか争っているらしい。


「はい、じゃんけんしよう。千秋も千夏も、千冬を見習って……」



 千春が間に入って、仲裁をしつつ騒がない千冬を褒める。と思ったのだが千冬が既に自然と助手席に座っているので、千春は黙った。



 なんやかんやで千冬が助手席に乗り車は発信する。少し遠めのデパートにでも行こうと思っていた。途中で休憩がてら道の駅に止まる。



 千秋達にソフトクリームを買ってあげながら、俺はコーヒーを飲む。そう言えば……もうすぐこの子達は小学校を卒業するのか……。



 出会ったのは小学四年生だったが……時間が経つのは速い。案外大人になって巣立つのも早いのだろうか。それともこのまま一緒に居るのだろうか。


 どちらにしても、俺はこのままで見守り続けるしかないな。














―――――――――――――

書籍発売中です!! お願いします!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る