104話 魁人君の真相
ああ、いつからだろうか。自分が大した存在ではないと思っていたのは。
小さい時に虐められていた子を助けたことがある。虐めに立ち向かった事があった、その結果自分が虐められるようになった。その時に親に言われた。
『危ない事をしなくていいのに、貴方は大したことがないんだから。無難に生きなさい』
好きな子が居て、その子が俺を虐めていた子によって、電車に飛ばされた時、飛び出しそうになった彼女の手を掴んだ。それをして、俺は電車にひかれて死んでしまった。
死ぬときに思ったのだ、やっぱり俺は大したことなかった。無難に生きた方が良かった。そうすればこんな死に方をしなくて済んだ。
だけど、そんな生き方は間違っていると俺は言いたかった。あの時の俺の行動は誰かの為にした分不相応な行為は正しかったと言いたかったのだ。
だから俺は四つ子を強く愛した。彼女達に不幸で分不相応をしていた過去を重ねていたのだ。そして、それを何度も強く肯定した。
愛せるはずなんだ、良い言葉が言えるはずなんだ。だって、彼女達にかけていた言葉は不幸であった時に自分が言って欲しかった言葉なのだから。
それに気づいてしまった時、どうしようもなく自己嫌悪をしてしまった。今も眼も前に千夏が居て、俺を心配してくれているのに自分の事しか考えていない。
「俺は、本気でお前達を愛そうとはしていなかった……自分を肯定したかっただけだった……」
◆◆
魁人が初めて出した弱音だった。それを聞いた千夏はどうしても彼を支えたくなった。弱弱しい彼の体を彼女はハグをして抱き寄せる。
「……魁人に何があったのか、魁人が何をしていたのか私には分からない。だけど関係ないわ」
「俺は善意で皆を愛していなかった」
「悪意でも、善意でも良い。だって、私は魁人に救われたから。救われた私がカッコいい理由を求めるのは可笑しいわ」
だから、そんなに卑下しないで、と千夏は想いを伝える。彼がしてきたことがどんな理由だったとしてもそれでも救われたのは自分だったのだから。
そして、今度は自分が彼を救ってあげたいと思った。
「大丈夫、私はどんなことがあっても一緒に居るから。寂しい思いは絶対にさせないわ」
自分が人間であったのか。一人ぼっちではないのか、そう感じていた世界に彼は来てくれた。姉妹を盾にして外の世界を見ようとはしていなかった彼女は、もういない。
「私が絶対に貴方を守るから。だから、魁人も私と一緒に居て」
「……ッ」
魁人は驚愕をした。彼女は自分が言って欲しかった言葉を自分に投げてくれたから。偶然かもしれない、でも、確かに欲しかった。
自分がしてきたことを肯定してくれる存在。それが子供である彼女からの言葉だとしても、いや、彼女の言葉だからこそ彼の中の気持ちは落ち着きを取り戻した。
やってきた事は、紡いできた時間は無駄ではなかったと言う証明が確かに眼の前にはあった。
「……ありがとう、千夏。嬉しかった」
「もっと嬉しい思いをさせてあげる、だから、一緒よ、ずっとずっと。私と魁人は一緒に居るの。分かった?」
「……そうだったらいいなと思ったよ」
魁人は千夏の事を恋愛的な意味では見ていない。子供のような存在だと思っており、千夏の好意と魁人の好意は僅かに掛け違いがある。
でも、千夏はそれで今は良いと思った。彼とずっと一緒に居ると決意をしたし、いつまでも愛していこうと決めたのだから。
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