100話 不思議ちゃん

 なんやかんや月日が経って、運動会がやってきた。朝から俺は場所取りをしていたので大分いい場所を確保できた。


 ここならばいい写真も取りやすい事であろう。四人共六年生だからこれで最後になるのか。来年からは中学生になるか……中学校は運動会ないよな? 

 残念なような気もするが成長をしていると考えればそうでもないのだろう。時間が経つと、千春達が外に体操着姿で出てきた。


 全員揃って紅組だとは聞いていたので仲良く頑張ってもらいたいものだ。そして、千花ちゃんも紅組らしい。何というか、ゲームの知識を知っている俺からしたら……凄い無敵の布陣に思えてしまうのは気のせいだろうか。


 俺に千秋がめっちゃ手を振ってる。手を振り返す。相変わらず可愛い笑顔だ。俺以外の保護者も物凄い盛り上がりを見せている。


 開会式的なのが終わると……徒競走が始まる。最初に千冬と千夏、千春が走るらしい。


『魁人さん、千冬が一位になったら……ご褒美欲しいっス……』


 って、千冬が言ってたな。一位にならなくても千冬は頑張り屋さんなのは知っているから、ご褒美はあげても全然いいとは思うんだけど。


 千冬本人は一位になってご褒美をもらうって事が大事らしい。千夏は日が出ているので、ちょっと体に力が入らないらしい。千春は妹に負ける姉は威厳が保てないから何としても勝つと言っていた。



「よーい、どん」



 パンとスターターピストルが鳴ると三人が走り出す。千夏が明らかに出遅れているが、千春と千冬は拮抗している。他の生徒も走っているが、二人がダントツで早い。千冬……いつの間にあそこまで足が速くなっていたんだ!?


 千春も速いが、千冬の成長具合は彼女に迫りつつあった。千春も珍しく目を見開いている。そのまま千冬は引き離して、一着でゴールをした。


 肩で息をしながらも千冬は嬉しそうに笑って居た。そのまま俺に笑顔でピースをするので思わず写真を撮ってしまった。娘は可愛い。



 さて、その次には千秋が走る。そして、千花も一緒だ。ゲームの時は主人公の運動神経は抜群だと言う特徴があったが果たして……


「我、一位になるぞ。天命だから」

「僕も負けないよ」



 二人が走り出す。いや、速いなぁ。会場もあの二人速くね? ってなってる。千花ちゃんはあんなに速かったのか……。千秋にもいいライバルが出来て良かったと言うべきだろうか。


 拮抗する二人……勝ったのは千花だった。まさかの千秋は二位。千秋めっちゃ悔しそうにしてる。


 その後も、競技などを写真で問ったりして時間が経過していき、お昼の時間になった。千秋達が俺の居る場所にお弁当を食べに来たが、千花ちゃんも一緒に連れて来た。


「カイト、千花、お父さんとお母さんが仕事で居ないんだって。一緒に食べても良いか!」

「勿論だ」

「お邪魔します。魁人さん」


 流石は俺の娘。千秋は本当に優しい子だよなぁ。お弁当を広げて、千花ちゃんにも食べて良いぞと進める。彼女もお弁当は持ってきていたようだが少し貰うと言ってから揚げを食べた。



「美味しいですね」

「なら良かった」

「当然だな、カイトの料理は我も認めている!」

「なんで、秋が誇らしげなのよ」



 満足そうで良かった。不味いとか言われたら自身が無くなる所だ。


「この料理……毎日食べたいです」

「お、おう。そんなに美味しいのか……作った身としては本当に嬉しい」



 意味わかって、使っているのかな……? 表情が読めないんだよな。あんまり変化しないと言うか……そもそも千花ちゃんについてはあんまり知らない。ゲームでも主人公にはあんまり触れてる描写はなかったしな。


 あくまで攻略対象の情報提示があって、主人公はそれに対して動くだけで主人公をどうこうするのはなかった。いや、ゲームの世界ではないのは知っているがどうにもこの子は分からない事が多い。


「ふふふ、我は毎日これを食べて生きているぞ」

「そっか……じゃあ、その内、千秋さん達と一緒に僕も毎日食べるのかな?」

「んん? そう、なのか! ん? そうなのか? 我分からないが……どうなんだ? 魁人?」

「いや、どうなんだろうか。家にはいつでも遊びには来てくれていいぞ。千秋達の友達だしな」

「はい、いつでも這い寄ります。千冬さんは僕のことどう思ってますか?」

「え? 急にそんな事……足が速い人っスかね……?」

「僕は娘みたいに可愛いと思ってますよ」



 千冬が眼をぱちぱちさせてる。どう言葉を切り替えそうか迷っているようだ。


「千花って、本当に不思議ね。何考えてるか分からないわ」

「……千夏、うちもミステリアスだよ。千夏のこと、天使だと見間違えたし!」

「春は変にそこで張り合わなくて良いのよ」

「すいません。僕は別に不思議ちゃんって訳じゃなくて……今までレールで生きてきたから本当の意味で人と接するのが苦手なんです」



 ……なんとなくだが、今この子が不安になっているのは分かった。対人が意外と苦手な子なのかもしれない。



「俺もだけど、千春達も気にしてないよ。苦手でも個性だから不安に感じることはないさ」

「我もそう思う! 我なんて、勉強千冬にやらせる時ある!」

「千冬もコンプレックスはあるし……別に気にしてないっス」

「うちも……気にしてないけど、強いて言えばキャラ被ってる事だけかな」

「私もどうでもいいわ、好きにしていいと思うわよ」



 千花ちゃんは僅かに口元を緩ませた。



「はい。ありがとうございます……やっぱりいいな、ここ」



 取りあえず、お弁当を美味しそうに食べてくれてよかった。









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第一巻買ってくれた方々ありがとうございました! まだ続刊が決まったわけではないのですが、皆様の買ってくれたという報告励みになります。


度々、お願いで申し訳ないのですが、口コミとかが凄く大事らしいので、Amazon、bookwalker,キミラノ等で面白かった方はレビューをどうか、お願いします。

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