第90話 千夏と千花
私の名前は真東リリア、趣味で帰国子女のふりをしている者だ。まぁ、最近は誰も信じてはくれなくなったけど
母にその事を話したら
「あなた、そんなことしてると友達を失っちゃうわよー」
と言われた。だが、その心配には及ばない。何故なら私には千夏と言う友が居るからだ。
「チナツー、ソウダンッテなにー?」
「あ、うん……実は、いえ、仮にね……リリアが4つ子の次女だとして……妹2人が同じ人を好きになったり、二人の妹になんていう?」
えっと、きっと自分の事だよね?
「……えッと、チナツのはなし?」
「……そ、そうともいえるかな……」
「ソ、ソウ」
そうとしか言えないのではないかと、思うが口を閉じる。
「私はその二人の背中を押して、それでその想い人にも幸せなって欲しいから……応援しようと思ってたんだけど、どうしてか、心がざわつくの……どうしてかな?」
「……ウ、ウーん、ドウシテカナ?」
「私、こう見えてかなり意外だと思うんだけど、がさつって言うか。小さい事は気にしないって言うか」
「……」
こう見えて……どう見ても……。
「でも、なんか……ちょっと、だけ……心が落ち着かなくて……それが頭から離れなくて」
「……」
頬が少し綺麗に紅葉する。もじもじし始める、どした?
「ど、どうしたら良いと思う?」
「う、ウーン、スキシタラ? スキナラエンリョスルコトもナイとオモウ」
「好きって言うか……その、家族的な意味での私は好きだから……」
何やら、本人はもどかしい心境のようで、複雑そうである。私と千夏が教室の一角で話していると、誰かが私達の間に入るように歩み寄ってきた。
「あの、千夏さん」
あ、千花ちゃんだ。目元が隠れているから千夏は幽霊みたいで怖いらしいけど、別に悪い子じゃない。まぁ、私も初見で帰国子女ないでしょ? と言われのでちょっと苦手である。
「ふぇ!」
「あ、ごめんなさい」
「あ、き、気にしないで! わ、私が勝手に驚いただけだから! ご、ごめんなさい!」
「うん、大丈夫。それより」
「あ、切り替え速い」
本当に何も気にしていなそうな千花ちゃんは、そう言うのいらないんで……みたいな雰囲気で手で制し、話を変える。千花ちゃんが千夏に何のようなんだろう。
「千夏さんは、魁人さんって人と同棲してるんでしょ?」
「あ、うん……そうだけど」
「僕が相談があるって、前の場所で待ってるって言っておいてくれないかな?」
「あ、うん。分かったわ……E? ごめん、よく話がわからなかったわ。もう一度、始めからお願いしてもいいかしら?」
「え? あの千夏さん……」
「あ、そこよりちょっと後かな……私が聞きたいの」
「……?」
「前の場所ってら辺かな……私が聞きたいの」
「あ、そういうこと。でも、そのまんまの意味だよ」
「ど、どういうことなのよ……えぇ……わ、私は秋と冬になんて言えば……」
千夏はあわあわと慌てている。まぁ、確かに千花ちゃんの言い方的にちょっと含みがあるような気がする。
千夏はパニックのようになってしまって、千花ちゃんは首をかしげて自分の席に戻って行った。私には、大体分かっている。千夏もね、年頃だから好きな人もね……。
頑張れ! 千夏! 貴方がナンバーワンだ!
◆◆
「うーん」
「どうしたの?」
学校から帰宅した私の妹である秋が今のソファで難しい顔をしている。宿題を終えて、やるべきことを終えた秋。一体何を考えているのだろうか。
「むむ……なんでもない」
「いや、無理があるでしょ」
「えっと、夕食考えていた! カイトに美味しいものを食べさせたくて」
「ふーん、そう」
「我、カイトの為に美味しいの作る! 健康にも気を遣う!」
一体いつから、こんなにもこの子は成長をしてしまったのか。そんなものを忘れてしまった。もう6年生だし、成人に以前よりも近いから別に不思議な事ではない。
魁人が好きだから、支えてあげたいから積極的なんだろうけど。
「そんなに魁人が大事なの?」
「うん!」
「好き?」
「好き!」
「……そ」
「千夏は?」
「……そりゃ、好きよ」
恥ずかしいんだけど。あんまり好きとか言わせないで欲しい。冬と春は一緒にテレビを見ていたので特に邪魔をしないように、私は一回のリビングを出て、二階に向かう。
彼の部屋に入って、彼の寝ているベッドに体を預ける。とても大きなベッド。明らかに一人用ではない。彼の両親が使っていたベッドを使ってると言ってたけど。
受け入れてくれたことが嬉しかった。異端であった。普通ではなかった。そんな自分達を……。でも、おかしい。
それで満足であった。そこが自分にとって頂点であったはずなのに。
それなのに、今自分の中に渦巻いている複雑な感情は何だろう。大きな大きな飢えともいえるような欲求不満。
あれ、私は。どうして、満足をしてないんだろう。不満が広がって行く。何だか気持ちが悪い。寝よう、少し、疲れているのかもしれない。
私は夕食の時間まで眼を閉じて眠りに落ちた。
■◆
「――千夏、千夏」
誰かが私を呼んでいる。暖かくて、思わず笑みがこぼれてしまうような声。眼を開けて、見上げる。
「そんなに寝ると寝れなくなるぞ? ほら、もうご飯らしいから」
「魁人……」
いつものように優しく笑みをこちらに浮かべる彼を見ていると自然と甘えたくなってしまう。
「ギュってして」
「え?」
「いいから……」
「わ、わかった」
彼は戸惑っているのか、少し言い淀む。だが、優しく私を抱き上げて、ハグをしてくれた。ワイシャツに顔をうずめる。
「お腹がすくのよ」
「え? じゃあ、ご飯食べるしかないな」
「そういうのじゃなくて……良く分かんないけど。例えるならお腹がすく感じ?」
「そうか……?」
「でも、今は良い感じに満たされてきた……」
「そうなのか……俺も眠りから覚めた後はそんなに空腹感は無いな」
「そうじゃないわ」
全然分かっていない。自分でも分かっていないが、彼の言う事は絶対に違う。
こうやって顔をうずめていると、自然と満たされていく。ようやく自分の感情が頂点になる。これって、一体なんだろう? どんな状態なんだろう?
彼にちゃんと伝えたい。私はこんなにも荒れているのに、彼は涼しい顔をしているから。ちゃんと私の現状を分かってほしい。
「ねぇ」
「ん?」
「私、魁人が居ないと生きられない体になったかもしれないわ」
「……それ、外では絶対言うの止めような」
「え? なんで?」
「なんでもだ。あと、千秋と千冬と千春にも言ったらだめだ。俺と千夏、二人だけの約束だ」
なんか、凄い慌てている。良くない言葉の選び方だったのだろうか?
でも、二人だけの約束か……
「えへへ、うん、なら……分かった」
「よし!」
凄い喜んでいる。私もなんだか嬉しい。
「ねぇ……」
「今度はどうした?」
「秋と冬の事だけど……前に話したあれよ」
「あぁ……あれか」
「私、やっぱり相談には乗れないかも」
「え? あ、そうなのか。どうしてなんだ?」
「うーん……なんか……お腹空きそうだから」
「……そ、そうか? ストレスになって過食になるって意味か?」
「それでいいわ」
そろそろ夕食で皆待ってるぞと言いたげな顔だが、私は無視する。夕食を食べに行ったらお腹空きそうだから。
「おーい! 我の作ったゴハン……また、そぼろしてる!」
痺れ切らした秋が私を迎えに来たらしい。私と魁人を見て、ぷんすか怒り始める。
「魁人あるある……すぐ千夏に抱き着く……」
「そんなことない……はずだ」
「むー、じゃあ、我も抱き着く!」
秋が私の隣で彼に抱き着く。焦がれているような視線を向けて、彼と話す。彼も秋を見て、微笑ましそうに頭を撫でる。
嬉しいはず、別に否定をしたいわけでも無いのに。
……お腹が空く
そう言えばと私はそこで思い出す。彼と秋の話を少し遮るように、私はそれを言った。
「千花が、魁人に、また話したいことがあるって。前の場所で待ってるって言ってたわ……」
「むー、魁人あるある、すぐ小学生と仲良くなる」
「その言い方はやめてくれ。あ、千夏は教えてくれてありがとう」
本当は千花との関係性を聞きたい所だけど……なんか疲れたから、今日はいいや。
はぁ、何だか本当にお腹空いた……
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