第51話 写真は綺麗な物が良い
夕食の時間。お兄さんとうちの麗しの妹達と机を囲みながらテレビなどを見て談笑をしているとお兄さんがそう言えばと話を切り出す。
「そう言えば、もうすぐ四人の誕生日だな」
「え? 魁人さんどうしてそれを……」
千冬がどうしてそれをと驚きを隠せない表情であった。うちも少し驚いた。お兄さんいつの間にそれを知っていたのであろうか。
「冬、それは秋がカレンダーにこれでもかと書いているからよ」
「ふふふ、その通りだ!」
「胸張る事じゃないわ……」
そうか、千秋がカレンダーに書いたのか。
「魁人さん、良いんでスか? その、何というか……」
「構わないさ。誕生日は我儘を言う日だからな。何が欲しい決めておいてくれ。今度の休みに買いに行くから」
「わーい!」
「いつもスいません……あ、じゃなくて、ありがとうございまス……」
「それでいい……遠慮するな。俺も金はある」
千秋がもうニコニコの笑顔。守りたいこの笑顔。そして、千冬。謝罪ではなく感謝をを述べるあたり以前との変化が感じ取れる。
「えっとね、えっとね、我はね、千円から二千円くらいの服を複数とグラサンが欲しい!」
「やっぱり、女の子だなー」
「じゃ、じゃあ、千冬がはニュキュアとかペデュキュアを……」
「女のだなー」
「私はゲームを」
「いいぞー」
「うわ、ゲームとか子供か!」
「なに、悪いの?」
「いや、別にただ、千夏は子供だと思っただけだ」
「秋には言われたくないけど」
会話が弾む。明るい家と暖かい食事が自然にそれを弾ませる。幸せがすぐそばにあると言う事はそれだけで気分も上がるのだ。
会話は途切れるとことなくずっと、ずっと続いた。食事の際中は皆、何を買って貰うのかそればかりを考えていた。
服か装身具か娯楽物か、単純に食べ物か。
迷いに迷って、でも食事の際中では具体的な物は決められなかった。
◆◆
「うーん、うーん、うーん……」
「どうしたウインターシスターよ」
「いや、その呼び方は勘弁してほしいっス……」
「ふっ、冗談と事実のマリアージュだ」
「そうっスか……」
「あ、今、我をメンドクサイと思ったな!」
千冬が何やら悩んでいる。
湯船に四人で浸かりながら会話をする。不思議な事に四人で居ると会話が途切れない。うち達はいつも誰かが話して、誰かが黙って、するとまた誰かが話して、無限ループのように会話が途切れない。
勉学に励む時、眠りにつくとき以外は会話は途切れないのが普通。
これがうち達姉妹の日常であり普遍的な物だ。だけど、ふと疑問に思った。
逆に言えば沈黙が殆どない。他の家族を見たことがあまりない、特に家の内部の中の様子は殆ど知らない。だから比べようがないけれどもこれは周りから見たら普通なのか。
ずっと途切れない会話。
前に話したことでもまるで新しい会話のように会話を弾ませることは。
普通、なのか……
どうして、会話が途切れないのか。二つの仮説がある。と言うよりほぼ正解であると思うが……沈黙が全員嫌い。そして、共感をしたい。
言葉を交わして、共感をして自分は自分たちは一人でないと常に自覚をしていたい。でも、これは誰でもある気がする。
「魁人さんって、お金持ちなんスかね……? 何というか、お金で困っている様子を見たことがないって言うか……」
「カイトは金持ちなんだろ? 前にそう言ってた。金はあるって」
「この家に来てからもうスぐ一年で、かかった費用はかなりの物のはずで……でも、お金の事気にしてる様子がないっス……」
「だから、それはカイトが金持ちで」
「本当にそうなのかって思ったんスよ……実はかなり財政的に厳しいみたいな……ことがあるのではないかと……」
「じゃ、じゃあ何でそれを我らに言わないんだ!」
「気を遣っているのんじゃないっスかね……? 子供をお金で心配させないように的な……」
「あわわわ、じゃ、じゃあ、誕生日は質素にした方が……」
「したほうがいいかもしれないっスね……」
「我、誕生日プレゼントはコンビニの冷凍パスタにする……」
「あ、いや、でも本当かどうかは分からないっスよ……!?」
この会話は初めてのような感じはするけど、前にもしたような感じがするような気もする。一見、普通に見えるような物でも見方が変わればおかしくなるのかもしれない。
別におかしいとは思わない。ただ、気になったのだ。
この子達が、姉妹がどう思っているのか。周りから見たらこれは見えるのか。
等と、マイナス的な視点と思考で見てしまっているがこれ以上は良くないだろう。うちが姉妹たちの考えを分かるように全てではないが姉妹もうちの考えを読む時もある。
不用意に楽し気な空気を壊すような行動は避けないといけない。
「ねぇ、春はどう思う?」
「お兄さんに聞いて見れば良いかもね。お金は本当に大丈夫ですかって」
「そうね……私達が気を遣わなくてもあちらが気を遣っている現状は良くないわ。ここは、それとなく聞いて見るしかないわね」
「そうだね」
その後も、会話が途切れることは無かった。
◆◆
お風呂から上がるとお兄さんがテーブルに写真と白紙のアルバムを広げて何やら整理をしていた。
「カイト、何やってるの?」
「ん? 旅行とか運動会とかで写真沢山とったから整理してるんだ。ついでにアルバムに貼る写真を厳選してる」
「おおぉ! 我もやる!」
パジャマ姿の千秋がお兄さんの隣に座りテーブルの上に並べられている写真を見る。千冬が恥ずかしそうにしながら片手におにぎりを持ち、もう片方の手でピースをしている写真。
これ、定価で十枚欲しい……。
千秋が豚丼を美味しそうに大きな口を開けて食べている写真。口元が豚丼のタレで少し汚れている。
いっぱい食べる千秋が好き。
そして、千夏が口を開けて水族館の魚を驚愕しながら見ている写真。水槽の中の魚達は確かに綺麗だけれども。
千夏の可愛さにうちは口を開けてしまう。
「これとこれは、アルバムにダメ!」
「え? どうしてだ? 可愛いと思うが……」
「口を大きく開けてる写真はイヤ! アルバムに貼るならもっと良いやつある!」
「そ、そうなのか……」
千秋がお兄さんがアルバムに選抜していた写真をさらに選抜して、殆ど落選させる。
「魁人さん、千冬的に、これはダメでス……」
「え? どうしてだ。全然、問題なく可愛いと思うが……」
「か、可愛い……コホン。その、この写真千冬目閉じてるから……いやでス……」
千冬もアルバムに収める写真は色々基準があるようだ。
「魁人さん、私もこの写真は……」
「良いと思うが……」
「すいません。やっぱり、口を開けてるのはちょっと……。あと、この写真もイヤです……」
「この写真は口大きく開けてないぞ?」
「だって、スノーで撮ってないじゃないですか……」
「いや、肌は十分綺麗だろ……四人共……」
お兄さんはなぜダメなのか良く分かっていないようだ。うちも同じ気持ちです。こんなに可愛いのにどうして三人はダメと言うのだろうか。
それが分からない。だけどまぁ、ダメなら仕方ない。コッソリうちが回収してもらっておこう。
「あ! そうだった……我、カイトに言いたいことがあったんだ」
「なんだ?」
「えっと、誕生日プレゼントはコンビニの冷凍パスタが良い……」
「いや、どうしてそうなった? 確かに美味しいけど……お金の心配でもしてるのか?」
「……うん。カイトは本当は無理してるのかなって」
「ああー、そう言う心配ね……。無理なら無理って俺は言うタイプだ。お金ならそれなりにはあるから気は遣わなくていい」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫」
「じゃあ! 服買ってほしい!」
「ふっ、分かった」
お兄さんの言葉は千秋だけでなくうち達にも遠回しに告げていた。お兄さんってお金持ちなのかな? お兄さんってお兄さん自身の事はあまり語らないし分からない事が多い。
聞いてもはぐらかせるわけではないと思うけど、進んで答えないから聞かない方が良いのかとちょっと思ってしまったりもしている。
「今度の休みの日にでも買いに行くか」
「おぉ! 行く!」
六月も、もう終わり。
一年、ここに居る。ここで姉妹と一緒にお兄さんと一緒にいる。それで大きな変化が姉妹に訪れた。
誰もが変わり行く中で、自分があまり変わっていないと思った。
だが、それでいい。
それが良い。
自分は姉妹の事だけを考えていればいい、それがあの時、選んだ道なのだから。
◆◆
七月に入った。徐々にだが暖かい日が多くなりつつある今日この頃。俺は安い衣類などが並んでいる店に四人と来ていた。
「これ、可愛い!」
「千冬的には、こっちが」
「うちはこれが似合うと思うよ」
「あ、これ、センスありね……」
女の子って服とか凄い長い時間見るんだな。いやまぁ、男でもしっかり選ぶ人はいるし休日だから全然時間はあるんだけどさ。
あっちに行ったり、こっちに行ったり忙しい。一時間以上もテンション下がらずずっと服を選び続ける四人。千夏はゲームを誕生日プレゼントとして選ぶみたいだが服を眺めるだけでも暇は潰せるらしい。
俺はマネキンに着せている中でセンスが良さそうなのを直ぐに選んだりするが、四人は違うらしい。
「ねぇねぇ、カイト、どっちが似合う?」
千秋が二つの服を両手で天秤のように比べるように持っている。それを交互に自身の服にあてる。
「どっちも似合うと思うぞ」
「むー、そう言うのじゃなくて。どっちが良いのかって聞いてるの」
「あー、その黒っぽい方が良いんじゃないか? 白よりは……」
「だよな! 我もそう思ってた!」
白ってカレー溢したりすると洗うのが大変だし、面積が大きく見えたりするから黒の方が良いんじゃないかって理由は言わない方が良いんだろうな……
千秋は気分よさげに白の服を戻した。
「か、魁人さん、ど、どっちのがいい感じでスか……? 羽織るなら……」
「……あー、そうだな。どっち、も……」
「むっ……」
千秋と千冬はどっちもはダメなようだ。千冬が少し膨れ顔になる。まぁ、確かに俺も夕食カレーとシチューどっちが良いと聞いてどっちもと言われるのは困るな……
どっちが良いか……。千冬は二つの羽織る感じの服を持っている。片方は青い色で少し硬めの生地のジャケット、もう片方は地味目のグリーンで首周りに紐が付いてて、ついでにフードもついているパーカー。
どっちが良いと言われても……どっちもイメージが違う感じがするからどっちが良いと言えないような……いや、でも聞かれてる事にしっかりと答えないと。
「そっちの硬めの青い奴の方が良いんじゃないか……? 羽織るなら……」
「そ、そうでスよね! ち、千冬もこっちが似合うかなって……か、魁人さんがもこっちが良いって思うなら、こっちにしようかな……?」
照れながら彼女は地味目のパーカーを棚に戻した。
……本当は子供がパーカーとか、紐が付いた服を着ているとそこが引っかかって首が絞まったり、怪我したりするのが危ないから青い方を選んだんだと言うのは言わない方が良いんだろうな……
まだまだ、選び足りないと言う二人を見ながらふと千春が目に入った。彼女も服は手に取るが自分より姉妹たちの体に服を当てていた。
「千春は決まったのか?」
「うちは、これが良いです……」
「それはどうしてなんだ?」
「千夏に似合うからです」
「……自分の着たい服は無いのか?」
「これが千夏に似合っているので、ついでにうちも偶に着れればいいかなと……」
「あー、そう言う感じか……」
自分だけの服を選んで欲しいんだけどな。俺としては。俺は近くに置いてあった黒と白のワンピースが目に入った。
「……これ、千春に似合いそうだな」
「そうですか?」
「多分……」
「どっちですか?」
「多分、似合う……俺、自分の服のセンスが信用できないけど。このワンピースは千春に似合う感じがする」
「……千夏と千秋と千冬には似合うかな……」
独り言のように彼女はそうつぶやいた。クリスマスの時も思ったが彼女は自分が来たい服と姉妹に似合う服が合わないとそれを選ばない感じがする……
「いや、千春にしか似合わないな」
「っ……はい?」
「俺の勘だけど、これは千春限定のワンピースだな……多分」
「……じゃあ、これはいいです」
「いや、買おう」
「え?」
「買おう、これは買っておこう」
「……お兄さんがそう言うなら……じゃあ、試しに着てもいいですか?」
「良いと思うぞ」
千春は近くの試着室の方に向かって行った。本当に似合うと良いんだが……。ここで俺のセンスが試されているのかもしれない。
「むー、カイトズルい! 千春だけちゃんと選んでる!」
「魁人さん、千冬の事はいつもほったらかし……」
「そ、そんなことはないぞ! ほら、これとこれは千秋と千冬によく似合う感じがするし!」
「魁人さんも大変ね……」
千秋と千冬の目線がレーザーポイントのようにつき刺さる。千夏の同情のような視線が優しく肌を撫でる。しばらく二人に似合いそうなやつを頭を捻らせて何とか選抜しながら試着をした千春の元に。
「……どうですか?」
「良いと思う、グッジョブだ」
「そうですか……じゃあ、これも、いいですか……?」
「ああ、勿論」
「ありがとうございます……」
元が良いから大体似合うんだけどね……。俺のセンスあんまり関係ないみたいだ。結果的にかなりの時間の間、服を選び続けて気付いたら二時間を超えていた。
その後、千夏が欲しがっていたゲームを購入。
「子供だな~!」
千秋がゲームを買った千夏の頭をポンポンと撫でている光景を見ながら家に帰宅した。
◆◆
「ねぇねぇ、ゲーム貸してー」
「あとでね」
「貸してー、貸してー」
「あとでね」
「むぅ、ずっと一人で使ってズルい!」
「私が買って貰ったんだもん」
「……ねーねー、千夏が貸してくれないー、千夏を怒ってー」
ソファに千夏が体育座りしながら買って貰ってゲームをプレイしている。どうやら相当ハマったらしく帰って来てからずっとプレイ。
千秋は最初は子供だなとちょっと小馬鹿にするようにしていたのだが、千夏が遊んでいる姿を五分見ると貸して貸してと、千夏に引っ付くようになった。
そして、貸してくれないとうちにどうにかするように頼んでくる。
「でもね、千秋はお兄さんに服を買って貰ったでしょ……? だから、その、千夏を怒るわけにうちはいかないの……」
「むぅ、千夏、貸して!」
「また、今度ね」
「今度っていつ!?」
「今度は今度……」
「さっき、あと五分したら貸すって言ったのに!」
「言ったっけ? そんなこと?」
「言った!」
「何時何分何秒、地球が何回周った時に私、それ言ったの?」
「ううぅ、ねーねー、千夏が我に意地悪する……」
「あー、よしよし、大丈夫だよ。じゃあ、うちと一緒にトランプを……それじゃ、嫌だよね……」
千夏も買って貰ったばかりの物を貸したくは無いだろうな……。自分は服を買って貰ってないわけだし……。千秋をよしよしと宥めながら貸してあげてと千夏に視線を送る。
だが、千夏はゲーム画面をずっと見ていて視線が合わない。仕方ないから声をかける。
「千夏……」
「なに?」
「お姉ちゃん、千秋にも貸してあげて欲しいな? だって、ほら、皆でした方が楽しいじゃん」
「これ、一人用だから」
「……で、でもさ、やっぱり皆でした方がさ……お願い……千夏」
「……分かったわ。ほら、秋、これ」
「わーい!」
「……はぁ。結局秋が得をするのよ。いつもいつも……」
千夏がため息を吐いて、千冬はそれを見て苦笑い。
「千冬も秋姉はちょっとズルいって思う時はあるっスよ……」
「そうよね。冬も私と同じ気持ちよね」
「まぁ、仕方ないって思う時もあるっスけど……やっぱりズルい」
「そうよねそうよね!」
「おおぉ! ……穴に落ちた」
「はい、じゃあ、終わりね」
「ええ! まだ一回だぞ!」
「関係ないから、一回できただけでもありがたいと思ってほしいわッ、ちょ、この手離しなさいよ!」
「いーやーだー、まだ、やるもん!」
「やるもん! じゃなくて! これ、私の!」
「姉なんだから! 妹に貸して!」
「こう言う時だけ、妹特権使おうとするんじゃないわよ! いつも、言う事なんか聞かないくせに!」
「聞くもん!」
「嘘つけ!」
「貸してー!」
「ああ、二人共落ち着くっスよ! 危ないし! 買って貰ったのに壊れちゃうっス!」
「そうだよ、二人共喧嘩はダメ」
ソファの上で二人がやんややんやと喧嘩をしながら時間は過ぎて行った。最後は結局千秋がごり押して、しばらくゲームをした。
千夏と千冬は結局、千秋が得をすると嫉妬的な視線を向けた。
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