第113話「洗濯と石鹸」
いや筋肉痛が凄い。
まず受け身の練習で
「今日もクエスト無いけど訓練する……?」
「筋肉痛ひっどいから嫌なんだけど……」
「回復魔法で治す事も出来ますが」
「回復魔法って凄い!」
「私、魔法3回しか使えませんので3人が限界です」
「おおう……」
「全員、腕は比較的無事だろ?なら今日は俺が投げナイフでも教えようか」
そう言うのはヨハンさん。なるほど、それなら……と思ったのだが、僕は念の為
「……いやこれ痛いですよ」
「気づいたか」
ヨハンさんはくつくつと笑った。騙そうとしたな!
「座学にしましょう座学!」
「はい!あたし疲労で寝そうです!」
ルルが元気よく手を挙げた。まあ、一理ある。結局全員、あまり気乗りしないとの事で今日は休暇になった。イリスとルルは暑くてやる気が出ないというのが大きそうだったが、疲労した状態で何かを覚えるのは効率が悪いので休息も大事、というのも事実だ。
まあ休暇といっても家事からは逃れられないのだが。特に洗濯。昨日の訓練で服が泥だらけになっていた事もあり、全員で洗濯に出かける事になった。
僕はヴィムから手回し式洗濯機を借りてきて、それを使っていた。
「ねえ、後でそれ貸して」
「良いよー」
イリスは洗濯板で頑張っているが、
「今度、これ買おうか。洗濯大変でしょ」
「……ふぅん?」
イリスは何かを見定めるようにして僕を見つめてきた。やっぱり昨日、フリーデさんのバストに浮気した事怒ってるかな。その埋め合わせ――――にしても何か気の利いた理由を伝えねば。
「……嫁に重労働させたくないし」
「本当に珍しい価値観よね。男は辛い労働をして金を稼ぐ、女は家事が労働。だから平等に苦しむべしって、家事が楽になる道具を買わない旦那だって居るのに」
「そういう平等の解釈もあるのかー。でも僕ら共働きだし、それは適用出来ないんじゃないかな」
「あら、私が子育て始めたらそうもいかなくなるわよ?」
子育て。それはつまり……いかん、下半身が主張を始めた。洗濯機の水を捨て、急いで水を
「……まあ、ともかく洗濯機は買おう。家事は楽な方が良いでしょ、子供に手がかかるんなら」
「そうね。……ありがと」
イリスの視線が僕の下半身に刺さってるのが痛いが、何故か満足げだ。……そうだぞ、僕は君の身体でもばっちり欲情するから安心して欲しい。愛があればバストの大きさなど関係ないのだ。それが理解してもらえれば良い。
一先ず服から泥を洗い流した僕は、汲み直した水の中に新兵器を投入しようとする。
「ちょっと、石鹸を洗濯に使うの!?」
「え?使わないの?」
「貴族趣味と思われるわよ。普通に身体洗うのに使いなさいよ」
「そ、そんなにかぁ……」
確かにお高いが、服は洗剤で洗うものという日本の常識があるので違和感は感じないのだが。……そうか、この世界は灰の上澄み汁など「家庭の暖炉からタダで取れるもの」で洗濯するから、洗濯に石鹸という高級品を使うのは僕が思っている以上に贅沢と感じるのかもしれない。でもせっかく買ったし使ってみたいじゃん。
「えい」
「あーっ!」
僕が洗濯機の中に石鹸を入れ、表面を溶かし始めるとイリスが悲鳴を上げた。
「今回だけ!今回だけだから!」
「……私の家事に"家計管理" って仕事が増えたわね……」
なんだか家庭の支配度が高まった気がするが仕方ない。だって灰の上澄み汁だとあんまり綺麗になった気がしないんだもん。その点今回買った石鹸はミントの香り付きで良い匂いもして、仕上がりが楽しみだ。虫除け効果もあるようなので、この夏場の鬱陶しい羽虫がどれだけ寄り付かなくなるかも気になる。
洗濯機を回して排水すると、泡立った水が出てきた。もう一度綺麗な水を汲んで回してすすぎ洗いをすれば洗濯完了だ。イリスに手回し式洗濯機を貸し、洗濯物を絞る。これも中々の重労働だ。
「手回し式脱水機も作ってもらおうかな」
「家事を楽にするのに投資するのも大概にしなさいよね……いつまで経ってもお金貯まらないわよ」
「不便すぎる中世が悪い」
「だから今は現代だってば」
やいのやいのと言い合いながら他の人の洗濯風景を見ていると、ルルは踏み洗い、ヨハンさんは洗濯板で洗っていた。そしてフリーデさんは棍棒で洗濯物をぶっ叩いて洗っていた。……いや原理的には踏み洗いと同じだけどさ。何かが間違ってる気がするよ戦闘牧師。
全員の洗濯が終わってから家の物干し竿に洗濯物をかけ、ビールを飲んだり昼寝しながら過ごしていると14時頃には一通り乾いた。この季節は乾くのが早いし、湿気も少なくて洗濯物がカラッと乾くのも気持ちが良い。そして。
「おー……良い匂い」
石鹸で洗った僕の洗濯物だけ涼しげな香りが漂っていた。イリスの視線が痛いが、たまには良いじゃないか。
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