第21話 決着

 ――飯多橋駅前の路上 相良十朱


 街頭LEDビジョンの画面一杯に映される両者の衝突。藤村秋人とバアルの二人が戦闘を開始して、既に10時間が経過している。

十朱にも両者の動きを目で追うことすらできなかったが、二時間ほど前から十朱にもどうにか捕らえることができるようになり、今やこの場の全員が認識できるようなっている。

 10時間ほど殴り合い続けている二人に、見物している都民や1500名のバアルの部下の悪魔たちから大気が震えるほどの声援が送られていた。

ちなみに、二人の衝突で巻き込まれて死亡など洒落にもならいと、戦闘が開始されて直ぐ、千世田区飯多橋駅前の安全地帯まで全員で避難してきた。

 もちろん悪魔たちも同伴だったから、一時は緊張したが、ファルファルの映像により、あの悪魔たちがアキトの軍門に下ったことは動画を見て皆知っていたらしく、遠巻きに眺めるだけでパニックにはならなかった。


「二人ともホント、よくやるよねぇ」


 テレビを見上げながら、隣の雪乃がうんざり気味に十朱も口から出かかっていた感想を述べる。


「同感だな。ああも楽しそうに殴り合いされると、毒気を抜かれるというかなんというか」

「でも意外だな。アキトってもっと戦闘にはドライかと思ってたんだがよ?」

「そうでもないぞ。あ奴は昔からあんな感じじゃ」


 不貞腐れたような表情で隣の黒髪の美女――クロノが銀二の言葉を否定する。


「あれ、クロノってアキトの昔、知ってるの?」


 キョトンとした顔で尋ねてくる雪乃に、


「い、嫌、知らぬぞ。ただそんな気がしただけじゃ」


 ドモリながらも、慌てふためくクロノ。


「ふーん。へんなのぉ」


 雪乃が間延びした声を上げたとき、


「どうやら、決着だ」


 丁度二人の右拳がクロスし、バアルがゆっくりと仰向けに倒れ、アキトが直立した状態で右拳を上げる姿が映し出される。次の瞬間、飯多橋駅前に、津波のような歓声が襲ってきたのだった。


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