第61話姉貴の突撃訪問

 慣れない仕事や環境の変化で、すぐに日にちが過ぎていく。


 だが、新人の彼らともコミュニケーションを取れるようにもなってきた。


 雑談や、それぞれの趣味など……。


 俺は、今までしてこなかったが……意外と大事だと思った。


 それによって話が円滑に進んたり、アイデアが浮かんでくることもある。


 そして、あっという間に週末となる。




「早……もう金曜?」


 アレやってこれやって、アレもやらなきゃとか考えていたら……。


「時間の経過が早すぎる……」


 でも、きっと……これが充実しているってやつなのかもしれないな。




 会社に到着すると……。


「水戸先輩〜明日って何してますか?」


「森島さん? 会社での誘いはよろしくないわ」


「えー、硬いこと言わないでくださいよ〜。こういうのは早い者勝ちですよー」


「うっ……」


 ……いつの間にか恒例になっとる。

 朝来ると、二人が待ち構えているようになった。

 少々、いや、かなり困っている。

 いや、時間をずらせばいいんだが……。

 それはそれでなんだかなぁ……。


「森島さん、楽しんでるね? あまり、松浦係長を困らせてはいけない」


「水戸君……!」


「はーい、わかりましたよー。じゃあ、先輩を困らせますねー」


「それも却下だ。俺の容量はすでに限界だ」


 ただでさえ、両側から良い匂いがして困っている。

 これでは仕事にならん。


「むぅ……仕方ありませんね。今は大事な時期ですもんね。では、あとで連絡します」


 森島さんが去ったが……麗奈さんはプルプルしている。

 きっと怒っているんだろうな……でも、俺も強く言えないし。


「申し訳ありません、松浦係長。朝から騒がしくしてしまい……」


「そ、そうね……あ、あの……」


 モジモジしとる……!

 あれ? ほかに社員いるよな?

 これ、良いのか?


「はい、なんでしょうか?」


「わ、私も……あとで連絡するわ」


 小声でそう言うと、足早に去っていった……。

 ……やめよう、考えるのは。

 色々勘違いの可能性大だし……すでに、俺の容量はパンクしそうだ。

 はぁ……色々と器用にこなせる人が羨ましいな……。

 恋愛も仕事も友人関係から、プライベートまで……俺には無理だな。

 一個一個、片付けていくしかないか。



 その日の仕事を終えると、姉貴から連絡があることに気づいた。


「もしもし?」


『仕事は終わったー?』


「ああ、終わったよ。どうした?」


『今日、そっち行っていいかい?』


「別に良いけど……何も用意してないぞ?」


『適当でいいよー』


「いや、それは姉貴が言うセリフをじゃないから」


「細かいことは気にしない気にしない。そんなんじゃモテないぞ?』


 ノリが軽いが……こういう時は、凹んでいる時だな。

 仕方ない、付き合うとするか。


「ほっとけ……わかった、じゃあすぐに帰る」


『ありがとね、侑馬。じゃあ、あとでねー』




 急いで家に帰ると、すでに姉貴が待っていた。


「遅いぞー」


「これでも急いで来たんだが……まあ、良いや」


 ひとまず部屋に入り、手洗いうがいをして、調理に取り掛かる。


 といっても、レンジでチンだか。


「カレーで良い?」


「うん、良いよー。できれば豚バラがいーなー」


「はいはい、わかりましたよ」


 ストックしてあるルーに、焼いた豚バラと玉ねぎを合わせる。

 付け合わせには、スジャー○のコーンポタージュ。

 これ、値段の割にめちゃくちゃ美味いよな。

 あとはサラダボックスから、野菜を盛り付ける。



「はいよ、完成だ。まずは食べよう」


「賛成ー、お腹ペコペコだし」


 とりあえずは食事に集中する。



 そして、十五分ほどで食べ終わる。


「あぁー美味しかった!」


「そりゃ、どうも。カレールーは冷凍しとくと味が深まるからな。しかも、ルーだけを冷凍しておけば、あとは具材を変えるだけで……」


「どうしたの?」


「いや、なんでない。で、話はなんだ?」


 新商品は、カレールーでも良いのか……提案だけしてみるか。


「いやね……お父さんに会ってきたのよ」


「そうか……なんだって?」


「婿はまだかって……三十歳にもなって何をやってるんだって……」


「相変わらずクソ親父だな。今は時代が変わっていることを理解しようともしない」


 あの世代は、まず人の話を聞かない。

 聞いても理解しようとしない。

 終いには、頭ごなしに否定をしてくる。


「そうなのよねー。今は珍しくもなんともないし、子供だっていない夫婦も多いし。俺の後継はどうするだとか、老後の楽しみの孫はとか……うんざりするわね」


「勝手だよなぁ……結婚も子供も、親のためにするわけじゃないのに」


「そういう人もいるけど、それだけじゃないわよね」


「やっぱり、俺が一度会いに行くか」


「え? あ、いや、そういうアレで言ったわけじゃ……」


「わかってるよ、それは。ただ、俺もそろそろ会っておこうと思って」


 まだまだ自信なんかはついてないが、少しはマシになったはず。

 それに、それを待っていたら……姉貴が傷ついていく。


「そう……無茶はしないのよ?」


「ああ、わかってる」


「ふふ、良い顔になってきたわね……麗奈さんのおかげ?」


「まあ……そうなるのかな」


「進展はないの?」


「飲みに行ったり、ばったり会ったり……」


「はぁ……情けない」


「ぐっ……だってな、今の仕事で頭が一杯で……忙しいんだよ……あっ——」


「気づいた?」


「……ああ、俺の嫌いなセリフだ」


 無意識のうちに言っていたが……。

 親父がよく言っていたことだった。

 何かあると、俺は忙しいんだ! 仕事をしているんだ!

 終いには、誰のおかげで暮らしていけると思っている!とかいう始末。


「あそこまでではないけど、少しだけね」


「うわぁ……ショックだ」


「仕方ないわよ、親子だもの」


「ああにだけは絶対なりたくない。俺は反面教師にして抗う」


「なら、どうするの?」


「……キャパの隙間を見つけ、そこで何とかする」


「まあ、良いでしょう。まあ、人の心配をしてる場合じゃないだけど」


「新しい人はいないのか?」


「まあねー、自分で言うのも何だけどモテるんだけど……」


 姉貴は身長も160あるし、スタイルも良い。

 美人というわけではないが、可愛いらしい顔立ちはしている。

 俺のより年下に見られることもあるし。


「まあ、条件か……俺が言えた義理じゃないけど」


「ふふ、二人して同じようなこと言ってるわね。どっかにいないかなー、料理人を目指しててアラサーくらいの人……いるわけないか」


「…………」


「なによ、変な顔して……」


「いや、いると良いな」


 ……昇のことが、一瞬頭に浮かんだ。


 だが、あのクソ親父をどうにかしないと紹介もできない。


 よし……今月中に、一度だけ実家に帰ってみるか。

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