第55話二人は気づいて欲しい~それぞれの気持ち~

 ~松浦麗奈視点~


 ……言えないよぉ〜!


 好きってどうしたら言えるのっ!?


「ハァ……恋愛もしたこともないのに告白とか、ハードルが高すぎるわよぉ〜!」


 自宅の机に突っ伏して、缶チューハイ片手に私は項垂れています。

 おっさんみたいだとわかってはいるけど……もうっ!


「というか! 気づきなさいよっ!」


 わ、私なりに頑張ってアピールしてるのに……!


「それに、いつのまにか森島さんとお昼ご飯食べてるし……」


 むぅ……もちろん、そんなこと言う権利もないのはわかってるけど。


「乙女の感情は別なのよぉ〜!」


 水戸君が新しい仕事で大変なのもわかるけど……。


「もう少し考えてくれても……ううん、十分に考えてくれてるよね」


 お弁当だって、約束通りに作ってきてくれるし……。

 飲みにも誘ったら、嫌な顔をしないで付き合ってくれるし……。


「ただ、単に……私が贅沢になってきちゃってるだけなんだよね……」


 少し仲良くなったから、もっと仲良くなりたいとか。


「それにしても……仕事してる水戸君かっこよかったなぁ〜。そ、それに、私のこと可愛くて優しいって……嬉しいかったなぁ」


 テキパキと仕事してたし、これなら主任になっても平気かも。

 課長が言ってないけど……きっとそういうつもりだと思うし。


「それに比べて私は……なんでスウェットなんかで出かけてるのよぉ〜!」


 いや、散歩なんだから当たり前なんだけれども!

 日課の朝の散歩に行ったら……水戸君がいるなんて思わないもん!


「仕事でも、あの時ほど迷ったことはなかったわ……」


 声をかけるか、五分くらいオロオロしてたし……。

 幸い、水戸君もぼーっとしてたから平気だったけど。


「でも、勇気を出して声をかけたんだわ」


 ふふ、楽しかったなぁ〜。

 あんな格好でも、可愛くて良い匂いって言ってくれたし……。


「でも……アレは酷いと思うのですっ!」


 頑張って良い人いないかなぁーって言ったのに……。


「あれかしら? 眼中にないってことなのかな?」


 むぅ……そりゃーおばさんだけれども……。


「私だってまだまだいけるはずっ! ……ダメかな? スン……」


 ……告白できたらどれだけ楽かな……。


「でも、良い年した大人だけど……告白されてみたいなぁ〜」


 もちろん、男女差別をするつもりはないけど……。


「やっぱり、初めて好きになった人には言って欲しいもん」


 ということは……。


「私からグイグイいって、水戸君を意識させるしかないってこと?」


 は、恥ずかしぃ……。


「でも、そうしないと水戸君が気づかない……」


 よ、よーし! 頑張ってアピールしなきゃ!




 ◇◇◇◇◇



 ~森島恵視点~


 ……言えないし。


 私から告白はあり得ないし。


「自慢じゃないけど……告白されることはあっても、したことはないんだよねー」


 滅多に飲まない缶ビールを飲んで、私は机に肘を着く。


「読めない……水戸先輩はなに? 天然なのはなんとなくわかるけど……」


 女慣れしてないかと思えば、ドキッとするようなことも言うし……。

 ごく自然に、いきなり手とか握ってくるし……不覚にもドキッとしたし……。


「え? 実は遊んでるとか? それを巧妙に隠してる?」


 いや、私が気づかないわけがない……いや、過信は良くないかも。


「うーん……とりあえず、旦那にしたら良いタイプだと思うかなー。長男だけど、お姉さんがいるから両親の世話を一手に引き受けることもないだろうし。料理屋も継ぐつもりはないって言ってたしねー。やっぱり、サラリーマンじゃないと……安定した生活が良いし」


 育児もやってくれそうだし、料理もできるときた。

 よくいる『家事や育児を手伝ってあげる』とかいう旦那にはならなそう。

 たまにいるんだよねー手伝ったって顔する男が……。

そもそも、子供は二人で育てるものだよねー。


「話してても楽しいし、楽だし……趣味なんかも合いそうな感じだし」


 少しまずいかも……。

 予想外に時間が過ぎるのが早かった……。

 目的を忘れて、普通に楽しんでしまったかも。


「私が本気になったらやだなぁー……結婚する人は好きな人じゃない方が良いし」


 二番目に好きな人っていうのはよく聞くけど……。


「いやいや、二番目とかないから。一番好きな人か、それ以外だよねー」


 あと、これは複雑なところだけど。


「すぐに手を出して来なそうなのはポイント高いけど……少しは出してくれても良くない?」


 もしかして……私が眼中にない?

 全然、ヤラシイ視線もないし……デートしても、そのまま帰るし……。


「そう思うと、なんだがムカついてきた……自慢じゃないけど、私が狙って落とせなかった男はいないんだから……!」


 それに、新しい仕事を始めたから……きっと昇進するよね。


「そうなると競争率が高くなりそう……今のうちに牽制しとかないと……」


 元々、人柄が良いから人気はあったけど……。

 昇進するタイプじゃなかったから、皆がノーマークだったんだよねー。


「部署のみんなも、驚いてたもんなー。水戸先輩が、急にやる気を出すから」


 でも、告白はしたくない。


 そうなると……させる方向、もしくは匂わせることが肝心かな。


「攻めるしかないかも……水戸先輩は鈍感だということはわかったし……」


 さて……本格的にアピール開始といきますか。

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