第23話麗奈さんのお礼と森島さん
昼食を食べ終えた後、麗奈さんがモジモジし始めた……。
なんだ?やっぱり、何かリクエストがあるのか?
「どうしました?何か、お弁当についてリクエストでもありましたか?」
「ううん!違くて……水戸君は、お腹いっぱいよね……?」
「え?いや、そこまでは……腹6分目くらいを目安に作ったので……」
「え?そうなの?」
「お弁当のサイズは違いますけど、そこまでお腹いっぱいではないでしょう?」
「そうね……いや、どうかしら?最近、お昼は食べないこともあったから感覚が……」
「麗奈さん?」
「ご、ごめんなさぃ……」
「ったく、それでは仕事に支障が出ますよ。やっぱり、しばらくは作ってきますね」
「返す言葉もないです……」
「いえ……でも、そうか。そういうことも考慮に入れないとな。正直言ってください……多いですか?足りないですか?」
「……多いことはないかな?7、8分目……くらいかな」
「なるほど……6分目を目安にしたけど、それでは多いかもってことか」
「多いとダメなの?」
「ダメということはないですが……眠くなりやすかったり、苦しかったりしたら仕事もやり辛いでしょう?」
「あっ——そういうことね」
「ええ、料理とは相手に合わせて作るものですから……っ——!」
「ど、どうかしたの?苦い顔してるけど……」
「い、いえ……少し、昔を思い出してしまって……親父の言葉が……」
嫌な記憶だ……。
料理が好きだったのに……嫌いになりそうだった頃を思い出す……。
あれから何年経つと思ってる……!
俺がソファーで俯いていると……何か、とてつもなくいい香りがした……。
次の瞬間……俺の身体は——横にされていた……。
「は、はぃ……ど、どうかしら……?」
「はい?え……?」
「ひ、膝枕……最高だって言ってくれたから……少しは楽になるかな……?」
「……お気遣いありがとうございます……ですが……」
「ダメ、起き上がっちゃ。こ、これはお礼なんだから……」
「そ、そうですか……」
いや、まあ、確かに……極楽ですけど。
程よいムッチリ感と、脳内を刺激する甘い香り……。
安心感と、ムラムラ感が同居する不思議な感覚……。
しかも、ダメって……こんなの——最高だろ。
結局——俺はその誘惑に耐えきれずに、身を委ねるのだった……。
午後の仕事は、調子が良かった。
理由は言うまでもない……膝枕だ。
なんだ?あれは?天国なのか?
え?弁当作ったら……してくれるのか?
……馬鹿か!俺は!
「いかんいかん……せっかく、はかどってたのに……集中、集中……」
「どうした?さっきから、ニヤニヤしたり真面目な顔したり……」
「は?本当か?」
「ああ、良いことでもあったのか?」
「まあ、そうだな……うん、良いことだったよ」
「ふーん……おっといけねえ、睨まれてるわ。仕事、仕事……」
昇の視線の先を確認すると、麗奈さんと目が合う……。
え?俺……あんな美人に膝枕されてたの?
何ということだ……俺みたいな平凡な男にはあり得ない状況だ……。
勘違いするなよ?俺。
あれはお礼、あれはお礼……よし、これでよし。
俺は再び仕事に戻るのだった……。
無事に仕事が終わり、定時で帰ることができそうだったが……。
会社を出たところで、声をかけられてしまった。
「水戸先輩!」
「森島さん?どうしたの?」
「これから、飲みにいきませんか?」
「はい?俺と?」
「はい!」
「いや、俺原付だから。飲めないし……」
「んー……じゃあ、食事だけでも!」
……どういうことだ?
俺を誘う理由は何だ?
断るのも面倒なことになりそうだな……。
理由はわからないけど……少しすれば飽きるだろう。
誘われ続けるのもアレだし、付き合うとするか。
「いいよ。ただ、オシャレな店とか知らないよ?」
「普通でいいですよー。ファミレスでも良いですし」
「へぇ……」
「あっ!今……意外だって思いましたね?」
「まあ……正直」
「良いですよ、そういうイメージですし……じゃあ、行きましょう!」
「はいはい……」
その後、本当にファミレスに入った。
意外だ……フレンチとかイタリアンに連れて行かれるかと思った……。
「どれにしようかなー……和風ハンバーグにしようっと」
「おっ?早いね」
もっと、時間がかかるかと思った。
こっちにしようかなー、でも〜とか言うかと……。
見た目で判断しちゃいけないな……。
「結構、即決しますよー。水戸先輩は?」
「リブステーキにするよ。滅多に来ないしね」
「スープとかドリンクバーはどうしますかー?」
「スープセットにしようかな。ご飯との」
「私も同じでいいかも……じゃあ、呼んじゃいますねー」
店員さんが来て、森島さんが注文を頼む。
へぇ……テキパキしてるな。
もっと、男性に甘えてくるタイプだと思っていたけど……。
いや……確かにお茶汲みなんかも上手だし、タイミングなんかも上手だ。
たまにスマホいじったり、お喋りに夢中になってることはあるけど……。
あとは、男に媚び売ってるなんて言われてるけど……。
「まあ……俺は俺で判断すれば良いことだな」
「え?何か言いました?」
「いや……意外としっかりしてるなと思って。でも、よくよく考えてみたら気配りも上手だし……会社でも、俺らは助かってるしね」
「…………」
「どうした?黙り込んで……」
「水戸先輩って、そういうところありますよねー」
「はい?」
「いえ、なんでもありませんよー」
こうして、なし崩し的に食事をすることになったが……。
一体、何故こうなったんだ?
俺は、理由を聞くか聞くまいか——悶々とするのであった……。
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