第10話氷の女王の休日~松浦麗奈視点~

 ハァ……やってしまったわ……。


 私は、休日の昼間から落ち込んでいた……。


 水戸君の前で、あんな醜態を晒してしまうなんて……。


 呼び出しておいて、酔った挙句……送ってもらうだなんて……。


 唯一の救いは、お母さんがくるから、偶々部屋を掃除していたことね……。


 普段の生活は見せられたもんじゃないもの……。


 料理も出来ないから、コンビニ弁当ばっかりだし……。


 お金もないから、割引シールが貼ってあるやつだし……。


 片付けも下手だし……流石に、ゴミ屋敷にはしないけれど……。


「水戸君……紳士だったなぁ……何もせずに帰っていくんだもの……」


 私に着衣の乱れはなかったし……部屋にも上がらなかった……。

 自慢じゃないけど、ナンパされたり連れ込まれそうになったことはあるけど……。

 まさか、走って逃げちゃうとは思わなかったわ……。


「で、でも……少しくらい、寄って行っても良かったじゃない……」


 それに……幻滅はしてないって言ってたけど……ホントかしら?

 彼は優しいから、私に気を遣ったのかも……。


「うぅー……何で、私ったら飲み過ぎちゃうのよぉ〜!」


 男の人と二人きりでお酒飲むなんて初めてだったし……。

 し、しかも……気になる男性と……!

 でも、嫌な顔一つしないで話を聞いてくれてたなぁ……。

 ホントに、つまらなくなかったかな……?


「で、でも、給湯室で聞いたら楽しかったって……また、誘っても良いって……ふ、二人だけの秘密だって……!」


 あ、あんな至近距離で言われたの初めて……!

 耳元でなんて……恋人のすることじゃないの〜!?

 ドキドキして……心臓が飛び出るかと思ったわ……。


「水戸君って、良い声してるよね……低くて……こう、ぞくっとするような……」


 実はモテてることに、まるで気づいてなさそうだけど……。

 森島さんも、なんだか狙ってるみたいだし……。

 他の女子社員にも、飲み会に誘われてるし……。

 中々参加しないみたいだけど……。


「あと……眼鏡を外したら、意外と可愛い顔してたなぁ……わ、私ったら、ひ、膝枕までしちゃって……」


 課長に言われたとはいえ、会社でなんてことを……!

 は、初めて、男性に膝枕というか……ふ、触れ合ったわ……。


「……ハァ、自分で言ってて悲しくなる……アラサーの女性が、そんなことすら初めてだなんて……」


 この歳で処女とか、水戸君引かないかしら……?

 いや!そもそも付き合うわけじゃないもの!

 ……誰に言い訳してるのかしら……?


「そういう機会が全くなかったわけじゃないけど……女子校育ちとはいえ、大学は共学だったし……」


 お父さんのことや、お母さんのこと、弟のことでそれどころじゃなかったし……。

 家にお金がなくて、奨学金制度や、特待生になるために勉強の日々だったし……。

 社会人になったら、奨学金の返済や、実家への仕送りでそれどころじゃなかったし……。


「……恨んだりしたこともあったけど……でも、大事な家族だものね」


 ただ、そのせいで……気がつけばアラサーの処女……。

 男性とお付き合いしたことがない……。


「どんな事故物件よぉ〜!!私だって、好きでこうなったわけじゃないのに〜!!」


 気がつけば、友達はみんな結婚して子供までいる……。

 もちろん、最近は独身でも幸せな人はたくさんいるし……肩身も狭くないけれど……。

 それでもアラサーの独身女性には、風当たりはまだまだ強いもの……。


「水戸君は、そんな女性はどうかしら……?私だったら逃げるわね……」


 ハァ……どうしたら男性と仲良くなれるんだろう……?

 みんなはどうやってるの?

 連絡先の交換はいつ?電話もいつ?


「友達は、放っておいてもアンタなら寄ってくるって言われたけれども……」


 寄ってくるのは、ろくでもない男だけ……。

 不倫目的や、やりたいだけの男達が……。

 だから、嫌気がさしてきてたんだけど……。


「水戸君は、そんなことなかったもんなぁ〜……す、好きなのかな?」


 恋もしたことがないし……わからないよぉ……。


「あれ?そういえば……今、何時?……えぇ!?もう、こんな時間!?」


 1時から考え始めてたら……もう3時……。


「折角の休みにお昼近くまで寝てて……カップ麺を食べて……これじゃ、ダメね……そうね!水戸君と仲良くなる前に、色々やっておきましょう!」


 というわけで、まずは部屋の掃除ね!

 い、いつか……来るかもしれないもの……。




「フゥ……これでよしっと……後は、買い物ね……」


 夕方かぁ……自炊とか挑戦したいけど……。

 今から買い物行って作るんじゃ、夜中になりそう……。


「……今日は、お惣菜やお弁当で良いわ……あ、明日から頑張るわ!」


 これ、社員には聞かせられないセリフだわね……。

 普段、あんなに偉そうに言ってるのに……。



 流石にスウェット上下はまずいので、ジーパンとパーカーに着替えます。


 そしてウオーキングも兼ねて、歩いていくことにします。




「フゥ……ついたわね。一時間ってところかしら?」


 スーパーの中に入って、割引シールが貼ってある食品をカートに入れていく。


「家族連れや、カップルが多いわね……良いなぁ……」


 そんなことを思いながら、数日分の買い貯めもしていく。


「こんなものかしら……?あっ——自炊するんだったわ……」


 というわけで、行き慣れない生鮮売り場や、生野菜があるところに来ました。


「……何を買えば良いのかしら……?野菜は切ればいいだけよね?お魚は焼けるかしら?そういえば、グリル使ったことないわね……フライパンも何年も使ってないし……」


 ど、どうしよう……!?

 何から手をつけていいかわからない……!

 こ、こんなんじゃ……いざ、仲良くなったとしても、水戸君に嫌われちゃうよぉ〜!


「……私には無理なのかなぁ……あれ……?ま、まさか水戸君……?」


 ラフな格好をした水戸君がいます……。

 可愛らしい女性を連れて……。

 ……そうよね。

 あんなに素敵なんだもん……彼女くらいいるわよね……。

 私ったら、何を勘違いして……飲みに誘っちゃって悪かったなぁ……。

 完全なパワハラじゃない……。


 私の心は……暗闇に包まれるのでした……。



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