第67話 磁力兵団招集、総攻撃
『——シールド・オーダー!』
クラリーナは魔杖にありったけのエーテルを注いだ。
水晶の影響を受けるエーテルの流れを浄眼で見極め、乱れをすぐさま新たな術式で修正しつつ、シールドを五連展開する。
ティナに迫りつつあったビームがシールドによって防がれる。
しかしシールドは次々と音を立てて破壊されていく。
二枚目、三枚目、四枚目と破られていく度に、クラリーナは奥歯を噛み締める。
(嫌や、嫌ッ——もって、うちの
限定した魔法しか使えなかった、自分のただ唯一にして最強の武器。
あの日、父に褒められた魔法。
(ティナを……うちの友達を守って——!)
——果たして、願いは通じた。
最後のシールドが壊れる前に、ビームは先細り、やがて途切れた。
砕け散ったシールドの影から無傷のブラウ・ローゼが現れる。
ブラウ・ローゼはすぐさまその場を離脱、その隙にレッドとグレインが双方向から攻撃をしかける。
『——ティナに何しやがるッ!』
レッドが吼え、ニードルを撃ち込みながら、アサシンブレードを振りかぶる。
『てめえ、許さねえぞ!』
グレインがカンケルシックルを核めがけて押しこんだ。
——しかし、トゥリゴノの動きは素早かった。
触手で両者の武器を軽くいなすと、間髪入れずにその先端をレッド・ロードとレギオンの操縦槽に差し向ける。
『くっ……!』
レッドとグレインはすんでのところで触手を弾いたものの、撒き散らされたカースヴェノムをかぶり、機兵の装甲のところどころが焼けた。
レッド・ロードは足の関節部を、レギオンは魔晶球の一部を損傷し、どちらも身動きがとれなくなる。
『レッド、グレイン!』
ティナの悲痛な叫びが木霊する。
一方のクラリーナは操縦桿を強く握りしめていた。
レッドもグレインもぼろぼろだ。
そして——ティナにいたっては殺されかけた。
クラリーナの中に沸々とした怒りが沸いた。
それは温度を伴わない、冷静な感情だった。
(ああ、うち、怒ってるんや。人のために)
思わず、口元に微笑が浮かぶ。
(こんなん久しぶりや。……なんや、悪くないな)
クラリーナは顔を上げると、映像盤を睨み付けた。
ゆっくりと前に進み出て、魔杖を構える。
トゥリゴノがこちらを向いた。
再びビームを撃ってくることは容易に予想できた。
「——
クラリーナの周囲を取り囲んでいた砂鉄が矢の形を成す。
それは一斉にトゥリゴノめがけて飛んでいく。
トゥリゴノは微動だにしなかった。
動く必要がないからだ。
矢はそのことごとくが霧散し、意味をなさないエーテルとして空気中に溶けていく。
視界の端で音叉水晶がきらりと輝いた気がした。
クラリーナの浄眼が視る景色は、澄み渡っていた。
エーテルの流れが手に取るように分かる。
それはいつも以上に正確に。
「それで防いだつもりなん?」
意思を込める。
力を込める。
自身の魔法に揺るぎない命を下知する。
「
新たに組み込まれた
「——
瞬間、トゥリゴノの体躯にありとあらゆるオーダーが突き刺さっていた。
シールドがトゥリゴノの体を周りから封じ、アックスが触手を叩き切っている。
アローは三角形の外周を、ソードは内側の体を、そして威力と貫通力のある槍が三つの核のうち二つを全方位から貫いている。
表情のないはずのトゥリゴノが——確かに、信じられないという意思を示していた。
『っ、しゃあ!』
レッド・ロードが拳を握る。
全ては彼の作戦だった。
トゥリゴノと初めて邂逅を果たした初戦、クラリーナのでたらめに撃った魔法がアローと化して、トゥリゴノに刺さった時から全ては始まった。
トゥリゴノに当たって無効化された魔法は、意味を為さないエーテルとなる。
それを音叉水晶が跳ね返す。
普通の魔術師なら乱されたエーテルの流れを読めず、そこで終わりだ。
しかしクラリーナは違う。
左の浄眼をもってして、乱れたエーテルの流れを読み、完全に制御することができる。
エーテルに術式を乗算し、トゥリゴノの能力自体をエーテルに作用させ、魔法を再現することができる。
否、再現などという生易しいものではない。
トゥリゴノの能力で乱されたエーテルの動きを読み切り、あらかじめ予測して術式を組み込み、明らかに≪≪魔法を強化≫≫していた。
言葉にすれば簡単だが、まるで綱渡りのような芸当だ。
一つでもエーテルの流れを読み間違えれば、それはまったく意味をなさないのだから。
けれどクラリーナはやり遂げた。
魔法が効かないはずのトゥリゴノに——自身の
縫い止められた
クラリーナは網膜にその光景を焼き付けながら、叫んだ。
「——ティナやん、今や、撃てえ!」
同時に、ブラウ・ローゼの銃の砲身から120ミリ砲弾が放たれる。
クラリーナが言うまでもなく狙撃体勢に入っていたティナが、寸分違わずトゥリゴノのたった一つ残った核を撃ち抜いた。
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