第47話 私の理由

 話し終えるのにそう時間はかからなかった。

 思えば、オズに何度も訴えた話だったからかもしれない。

 あの“魔女”のおかげでこの件に関しては口が滑らかになったと言えなくもなかった。


「つまり、アーミアの仇討ちか!」


 興奮を隠せない様子でグレインが言うのに、ティナは頷く。


「そう。第七層禱手ゼト“アバドン”を斃す。——それが私の、復讐」


 かつで伝説の探索者と謳われた、アーミア・バレンスタイン。

 第六層禱手ゼト“ガルガンチュア”を討伐したことで、その名声は広がった。

 同時に——次の第七層禱手ゼトである“アバドン”と交戦して、命を落とした。


 グレインは景気づけるようにビールを飲み干す。


「かつて母が挑んだ敵に、今度は娘が挑み、斃す。熱いじゃねえか、俺は乗ったぜ!」


 さすがアーミアの熱烈なファンであり、熱い男である。

 残るはレッドだ。

 彼のクレバーな一面が復讐という行為を受け入れてくれるかどうか。

 それが気になった。


「復讐、か……」


 神妙な顔つきで吟味しているレッドに、ティナは言い募る。


「トゥリゴノも倒せないで、アバドンを倒せるとは思えない。あいつは乗り越えなきゃいけない壁なの」


「じゃあ尚更、先を急いだ方がいいんじゃねえか? アバドンが他の誰かにとられてもいいのか? それとも誰かが倒してくれれば、お前の復讐心とやらは満足するのかよ?」


「それは……」


 先ほどのように反論されて、ティナは黙り込んでしまう。


 レッドはエールを残したまま、立ち上がった。


「ともかく、だ。グレインの機体の修理が終わるまで時間がある。今日は色々あったしな。お互い、時間を置いて少し考えてみようぜ」


 そうは言っても意見は平行線を辿っている。

 時間が解決してくれるとは、今のティナには思えないのだった。


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