第40話 エピローグ
ファースト・フロントの夜に、暖色の魔石灯の明かりと人々の喧噪が響いている。
酒場『宵闇の浮舟亭』に三者三様の声が上がった。
「乾杯」
「かんぱーい!」
「うおおお!」
グレインは謎の唸り声を上げるなり、
そして皿に盛り付けられた“奈落の鋏”の肉を食いちぎる。
マスクの下から口だけだして、実に器用に。
「うめぇ、やっぱり長生きしているヤツは肉が引き締まってんな!」
「お前、メシ食うときもそれ外さないのな……」
呆れ顔で呟きながら、レッドはノンアルコール・エールを飲んでいる。
年齢的にまだ飲酒ができないとのことだ。
存外真面目なのだな、とティナは内心で苦笑した。
ひとしきりアビスカンケルの肉を堪能したグレインは、ふうっと大きな溜息をついた。
「……レッド、約束通りティナは諦めよう。お前達の活躍を祈るぜ」
その口調はどこかすっきりとしていた。
(三人で食事を囲むのもこれが最初で最後、か)
自分とレッド、そしてグレインと協力して“奈落の鋏”を打ち倒した瞬間のことが頭を過る。
ティナは口元に薄く笑みを湛えながら、そっと眉を下げた。
しかし。
「何言ってんだ。俺が勝ったら、言うこと一つ聞くって約束だろ?」
レッドが急にそんなことを言い出す。
グレインはマスクの下でくつくつと苦笑した。
「そういや、そうだったな。よし、裸踊りか!」
「だからそれはいいっての。——グレイン、俺達のチームに入ってくれねえか?」
「えっ?」
驚くグレイン同様、ティナも思わず目を瞠った。
レッドは上機嫌に続ける。
「つーか、別に二人だけで組む必要ねえだろ。今日の戦いは息もぴったりだったしな。俺達、三人でチームになろうぜ? どうだ、ティナ?」
レッドの赤い瞳がティナに目配せしてくる。
ティナはグレインを見つめ、大きく頷いた。
「グレイン、私達に力を貸してくれると嬉しい」
グレインは何故か深く俯いた。
そして顔を上げるなり、叫び声を上げる。
「う、う、うおおおおおおおッ!」
「うわっ、いきなりなんだよ」
「な、な、泣いてなんかないからなああああ!」
そう言うグレインのマスクの下からとめどなく涙が溢れてくる。
レッドとティナは顔を見合わせて、苦笑を浮かべた。
「チーム名はいいのがあんだよ。——“ブルーローズ”ってのはどうだ?」
「蒼い薔薇……? どういう理由で?」
レッドは得意満面の笑みを浮かべる。
「蒼い薔薇っつーのは自然界には存在しなくてよ。花言葉が『不可能』って意味だったんだが、最近になって人工的に作り出すことができたらしいぜ。今の花言葉は『夢かなう』——つまり、俺達も『不可能に挑む』ってわけだ」
(——ブルーローズ)
心の中でその名を噛み締める。
(私達は“不可能に挑む者達”……っていうわけだ)
母がたどり着けなかった、深淵を。
その先を目指す。
「いいチーム名だと思う。賛成」
「ホワイトゲイルを継ぐ、ブルーローズ……最高だ!」
「よっしゃ、決定!」
白い歯を零すレッドに、はしゃぐグレインを眺める。
世界はままならない。
けれど、そればかりじゃない。
——こうして眩しく拓ける時が、必ずやってくる。
それはいつかきっとティナ自身の道も切り拓いてくれるだろう。
そんな予感が、していた。
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第二章『深淵の探索者』読了ありがとうございます。
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