第27話 旧時代の遺物

 朝食を摂ったティナは、マザー・カミラに出かける旨を伝え、『新しき深淵』第一層の底部へと降り立った。


 昇降機を出るとファースト・フロントとは比較にならない、淀んだ空気が漂っていた。


 岩肌は尚黒く、頭上を見上げてもかろうじて集落の影が見えるだけ。

 いつもはブラウ・ローゼに搭乗しているため、第一層といえど生身で立つと、ここまでの圧迫感があるのだと知った。


 同じく昇降機で降りてきた機兵乗りの探索者一団を先に行かせ、ティナは洞窟の壁に沿って歩みを進める。


 しばらく平らな地面を進むと、遠目に建物群が見えてきた。

 そのシルエットはまるで岩をカッターでくりぬいたかのように、一様に長方形をしていた。


 第一層には旧時代に建設された施設跡地が多数存在する。

 一体誰がどういう目的で造ったのかは、今も定かではない。


 これらの施設の建設には科学技術が用いられており、時折、新しく発見された遺跡から幻装兵や旧人類兵器LEVが見つかることもある。


 ティナが狙うは幻装兵の狙撃用武装である。

 手前の施設跡地はあらかた捜索し尽くされているため、自然と足は奥へと向かう。


 クラリオンを油断なく構えたまま、ティナは靴底で地面を慎重に踏みつけていく。


 時折、遠くで金属と何かがぶつかる音や、甲高い動物の鳴き声がした。

 おそらく機兵と魔獣が交戦しているのだろう。

 さすがにここまでは来ないことを祈りつつ、ティナは先を急いだ。


 森のように林立している建物群の間を縫うように進んでいくと、不自然に重ねられた瓦礫を見つけた。


 建物の壁から剥がれた細かい破片ばかりが積み重なっていて、非常に人為的なものを感じる。


 ブーツの底で蹴りつけてどけると、大の大人がゆうに入れそうな地下への入り口を見つけた。


 先に発見した者が、後で獲物を独り占めしようと隠していたものらしい。


(悪いけど、お宝は取った者勝ち)


 ティナは悠々と階段を降りて行く。

 その先には何かしらの倉庫が広がっていた。


 魔石灯ませきとうのランタンで照らしても、その明かりは壁まで届かない。

 孤児院が一体いくつ入るほど広いのだろう。


 足元に注意しながら、探索を続ける。


 ティナの足音だけが暗闇に反響した。

 地下室でありながら、換気システムは生きているようで、少し埃っぽいだけで済んでいる。


 鼻先がふっとオイルの匂いを掠め取った。

 向かって右の方向を照らすと、初めて壁に行き当たる。


 そこに座り込んでいたのは鉄の巨人だった。


(幻装兵……)


 巨人には頭部がなかった。

 そこからオイルが漏れ出して、床に黒い血溜まりを作っている。


 少し離れた場所に巨大なライフルが転がっているのが見えた。

 ティナはオイルに足を取られないよう、慎重にライフルを見定める。


(あった、光学スコープ)


 銃身の上に取り付けられていたスコープをしげしげと観察する。

 接眼レンズの方は頭を吹き飛ばされた時に被弾したのか粉々になっていたが、対物レンズは無事だった。


 大きさも50センチほどとぴったりだ。

 ありがたいことに傷もなく良好な状態である。


 レンズはスコープ本体から外れ掛かっていた。

 少し回してやると簡単に取ることができた。


 背嚢にレンズを仕舞う。

 時間はまだ午後にもなっていない。

 これで親方の仕事を無事増やせそうだ。


(——上々)


 軽い足取りでティナは地上へと舞い戻った。

 地下と洞窟、さして差異はないように見えても、外の空気はそれなりに新鮮だった。


 先にこの地下倉庫を見つけた者へのせめてもの礼として、瓦礫を元に戻してやる。


 ……まぁ、ぞんざいに隠しただけなので、また他の者に見つからないとも限らないが。


 ずっしりと重たくなった背嚢を満足げに担ぎ直し、ファースト・フロントへの帰路を急ごうとした、その時だった。

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