第14話 白い地平にて
背後で轟音がした。
肩越しに振り返ると、ブラウ・ローゼの大盾がぐらぐらと揺れていた。
狙撃だ。
大盾にあれだけの衝撃を与えるということは、やはり対物ライフル、しかも対従機用の大口径弾と見て良いだろう。
対物ライフルと大口径弾は狙撃にも用いられる。
とにかく弾の重量があるため、空気抵抗や風の影響を受けにくい。
つまり射程が長く、弾道の直進性が良い。
長距離狙撃と相性がいいのだ。
ティナはブラウ・ローゼが狙撃されたのを確認してから、その場に踏みとどまった。
すぐさま雪の上に座り込み、
クラリオンを両手と肩で支持し、金の意匠が施された美しい銃床に頬を寄せて、狙いを定める。ティナは光学スコープを覗き込んでガルバスの姿を追い求めた。
(ナウマンを撃っていたのは中口径の拳銃弾だ。あの森からそんなに遠くはない。ナウマンが倒れた角度からしておそらく十時の方向。ローゼが狙撃された方向とも合う。——あの岩陰!)
ついにティナの目がガルバスを捉えた。
そしてガルバスもまた岩から身を乗り出して、ライフル越しにこちらを睨み据えていた。
奇しくも彼我の距離は、先ほどと同じく1000メートルだ。
クラリオンの銃身に三段式加速装置の魔方陣が展開される。
淡い緑色の光に照らされた自分の横顔は今、冷たく凍り付いているのだろう。
急速に、ティナの神経は細く鋭く研ぎ澄まされていった。
風の音が消えた。
木々の葉擦れも、鳥の鳴き声も聞こえない。
周囲の森が跡形も無く消え去り、白い地平だけがティナを包み込んでいる。
自身の呼吸が止まり、心臓の鼓動もなくなり、仮死したような感覚が脳髄を痺れさせる。
自分の輪郭が溶け出して、クラリオンと一体になっていく。
ティナの意識から余計なものが消えていった。
ナウマンのことも、集落の人々のことも、母も、仲間も——レッドのことすら、今この瞬間のティナにとっては不要の長物だった。
必要なのはこの手にある銃だけ。
見据えるのはただ一つ、この銃口の先にある敵のこと。
撃つべき相手、刈り取る命——それだけだ。
トリガーを絞る。
風魔法によって加速された銃弾が、ゆっくりと銃口から飛び出す様を、確かにティナは感じた。
強烈な反動がティナの全身を揺さぶる。
次の瞬間、ガルバスは胸を撃たれて、雪の上に鮮血を撒き散らして倒れた。
同時にティナの頬を一筋の熱源が擦過する。
ガルバスの狙撃はティナの髪の一房をちぎり取った後、背後の大樹の幹を粉砕した。
(——終わった)
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