第七話 現騎士団長の不祥事
「いやはやまさかトルイの森にこんなデッケェーゴブリンの巣があったとは、アスラが知ったらアイツ卒倒するな。うん間違いない」
「貴女は一体、確か冒険者ギルドに居られた方ですよね。それがどうしてここに」
「アタイの名は、カルミラ=バッハレイ。アスラに頼まれて一応あんたらが無事に依頼を果たせるか影から監視していたのさ。しかし大した勇気だまさか二人でゴブリンの巣に乗り込むとはな」
「それはどうも」
「でここからが肝心な話だ。後ろの女性たちはひとまずギルドが保護、心のケアは任せてくれ。というわけでそっちのポニーテール、彼女らが襲われた村がどこか聞いてきてくれくれぐれも言葉を選んで慎重に頼む」
「はい分かりましたそれとポニーテールじゃなくベレスっていう名前があるんですから、今度からはお願いしますね」
ビシッとカルミラさんを指して指摘して、離れた所で一塊になっていたアンシアさんらのもとへと行った。
「それでカルミラさん、どうしてベレスを遠ざけたんですか?」
「王女様とサシで話したかったからだね」
んっ!
思わず一歩後方に下がってしまう。
シラを切ることも忘れ、そんな行動を取れば認めたことを意味することだと気づく時には既に遅しカルミラさんはニヤリとほくそ笑み確信したようだ。
「やっぱり、嘘じゃないようね」
「どこで気づきました?」
「吸血鬼と戦っている姿の目撃プラスその時の話を聞いたら、気づくも何も貴女が教えてくれたようなものでしょ」
「まさか居たんですか?」
「居たよ。人助けの為にゴブリンの巣窟に入ったと行っても齢12歳の少女二人だけは流石に危険いや無謀過ぎる。だからバレないよう時間を置いて巣窟に入った。意外と透明になってたし見つけられず奥まで向かって見つけた時にはあんたが吸血鬼と戦う寸前あれは焦った」
話の内容から察するにつまり一部始終覗き見られていたのか。
「何故王女が素性を隠しギルドにやってきたのか理由は問わないから安心しな」
「ありがとうございます。助かります」
「だが吸血鬼、ゴブリンの件はギルドに報告しなきゃならない。だからあんたが相棒に語った吸血鬼の倒し方だけ教えてくれ話の辻褄合わせに必要だ。もしあの黄金の輝きの力で倒したとなれば追及は免れないだろうからな」
なにからなにまで助かり、私はベレスに説明したものと同じことをカルミラさんに語る。
「了解した。そんな感じでギルドに話す。しかしそれには条件がある」
「承知の上です」
カルミラさんの提案は王女という正体を隠したい私にとって魅力的過ぎるもので、しかし旨い話にはトゲがあるのは自覚していたからこそ条件があると言われ納得する。
「覚悟はあるみたいね。三日時間をあげる。なんでこんな大きなゴブリンの巣を騎士団が見逃したのか、そしてこっちの方が問題だけど私は最近村がゴブリンに襲われたという類いの話聞いていない」
「私もです」
「なら言いたいことは分かるわよね」
「勿論なのでベレスには適当に誤魔化しといて下さい」
「仕方ないそれは任せなさい。しかしあんた本当にこの国の王女?」
「正真正銘レテシア=パルアその人です」
「噂は噂、やっぱり実際に会ってみないと人の真価は分からないものね。託したわよ王女様」
※※※
一日後。
騎士団長室には、思いもかけぬ来訪者が三人押し寄せてきた。
ホーエンハイム元騎士団長。
ミカサ=カッサォ、王女に遣えるメイド。
そして最もこの場所に来ることがないとされた予想外の人物レテシア=パルア王女。この三人の突然の来訪にトーファン現騎士団長は何事か分からず、汗だけが噴き出し言葉を失う。
「彼は緊張してるみたいだし、ミカサ何故私たちが来たのか理由説明してもらえる」
「畏まりましたお嬢様。結論から申し上げますとトーファン騎士団長貴方には国への反逆行為が確認されました」
「反逆だと!?私が何故」
飛び上がり机を叩く姿は無罪を訴えているようで、証拠を既に握っている状況である私にしてみれば滑稽だ。てか嘘も白々しいぞ。
「不思議ねぇ大方見当はついてると思ったけど、まさか気づいてないの?」
「騎士として恥ずべき行いトーファン、貴公はワシへの信を損なうた」
「お待ちをホーエンハイム元騎士団長私が何を」
「この戯けが!!!!!!」
ホーエンハイム卿は怒号とともに、ミカサが一日で掻き集めたとある資料を現騎士団長の顔めがけて投げつけた。
身長差は大きくぶつけるのに膂力を要したことは勿論オフレコ。
これだから十二歳は嫌なのよ。早くもっと大きくなりたい。
「こ、これは……」
資料が物語る報告内容を確認し蒼白する。
※※※
時系列は少し戻るが、昨日ゴブリンの巣窟にて吸血鬼と戦闘を繰り広げた私はカルミラさんにその場での対応は任せて速攻で王城にある自室へと帰還を果たし、ミカサを呼びつけていた。
「お嬢様、いい加減最近どこにお出かけになられているのかお教え願いたい」
「それは駄目ミカサが私の行動を知っちゃうと、ミカサの苦労が絶えなくなるから」
「ちょっ本当になにをされているのですか?」
慌てふためく様は素のミカサが垣間見、もっとみたい気もするが今はやるべきことが数多く構ってはいられない。
「ミカサ頼みがあるの、諜報暗部に即時調査して欲しい案件が浮上したこの意味解る?」
「何故その事をお嬢様が知って」
「それはこの件が片付いた時、地獄に堕ちる覚悟があればもう一度私に問いなさい」
「二言はないですね」
「ええ約束するわ」
「ならば大変申し訳ありませんが、今日のお仕事はモニカに引き継ぎお暇させていただきます。なので呉々も今日はお静かにお願いします、それで調べて欲しい案件とは」
「トーファン騎士団長の不正について」
「不正とは具体的に?」
「彼には魔族と取引し国民に対して不利益となり得る契約を結んだ可能性があるわ。まぁ私がそこに至った経緯は伏せるけど、調べるにあたってトルイの森で確認されたゴブリンならびに吸血鬼の巣窟多分冒険者ギルドが情報を持っている筈、出来るだけ早く三日以内にお願い」
「三日?笑止、一日で十分です」
メイド服をその場でてきぱきと脱ぎ畳み込むと一度私に会釈をして部屋から退出した。その後ろ姿は高揚感に満ちあふれてるみたいだった。
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