第六話 VS吸血鬼
「大丈夫ベレス?」
「逃げてサーシャ。アイツには、
「ベレスしっかりしてベレスねぇってっば」
何度名前を呼び身体を揺さぶったところで目覚める気配はない。がしかし脈はありどうやら気を失っているだけに過ぎないようだ。
「私の友達を苦しめるなんて絶対許さない」
「そんな非力な身体で何を
何処からともなく集まった蝙蝠が私に向かって襲いかかり剣で斬り捨てるより速く群がってきて、服を掴まれ吸血鬼の前へと無理矢理運ばれた。
「フフフ、上等な女が手に入ったものよ。薄汚いゴブリンどもを手懐けて女を上手く集めるとは私って天才ね」
「何故吸血鬼がゴブリンを……」
「簡単な話である。私は人間の生き血を啜り、ゴブリンは人間の肉体を求める。両者がその為手を取り合ったまで、今の時代魔物も寄り添う時代なのだよ」
「何を世迷い言。人間の敵め」
「貴女方は私らを人に渾なす害する存在として滅しますが、それはこちらも同じこと」
「頭沸いてるの?根本的な所が違うでしょ、あんたたち魔物は衝動的に人を襲い己が欲求を満足させる。私たちは自衛のために戦っているに過ぎない」
「あら意外と世を知り頭がキレる小娘だ。決めたお前私の眷族にならないかそうすれば命を助けてやるがどうだ?」
「嫌なこった!そんな道しかないなら自決してやる」
「残念交渉決裂か。ならお望み通り殺すまで」
「私は死んでも、この国の騎士団があんたを討伐するから覚悟しなさい」
「おかしなことを言う。騎士団は決して私を殺すことはないぞ」
「嘘よ騎士団はあんたみたいな魔物を討伐するのが仕事の一つで、この森には何度も任務で訪れる、次期に見つかるわよ」
「それが嘘ではない。おたくらの騎士団のトップと私密約を結んでいるのだ。内容はお互い不干渉を貫く、代わりに対価として毎月幾らの金を支払っているがな。だかまぁ人間は本当金に目がない生き物だこと」
「成る程、だから見つからなかったわけね」
これは叱るというレベルにはどうやら留まることは無い程悪質な事案になりそうだ。
騎士団長トーファン。
民を傷つける行い万死に値する。
この事実を公にするためにも、ここは全力を尽くすしかないと諦めた。
「何か、違和感を覚えていたがまさか変装していたとわ畏れ入った」
今、吸血鬼に見えている私の姿は平民サーシャではなく王族レテシア=パルア。
私本来の姿だ。
「変装に回す魔力が勿体ないのよ。それに全力を出さないとあんたには通じそうにないみたいだしね」
「粋がるな小娘。姿が変わったところで身動き出来ない様に変わりはないだろ?」
「それが違うんだなぁ~これが」
魔力を一気に放出させ群がる蝙蝠を散らすことに成功した。
その魔力の輝きはまるで黄金色、神々しき光が魔を打ち払い私はゆっくりと地面に降り立ち戸惑いが隠せない吸血鬼と目が合う。
「その特有の魔力の輝き、ただの小娘と思いきや恐ろしき人間だったみたいだな。しかし今の王女は役立たずと聞いていたが、否違ったか」
王族だけが持つ特別な魔力を媒介にして発動する魔法、
残った魔力を総動員して全身を武装し、魔を打ち消す光を放つ力を私は得た。
私を暖かく包み込んだ光は利き手に持つ剣へと輝きを伝播させる。
「
禍々しき闇のオーラを放つ深紅の剣が、吸血鬼の腕から流れ出た血液を基に形成され吸血鬼の手に収まった。
「私の血を媒介にした剣これで貴様を屠ろう」
これから私と吸血鬼の剣戟が繰り広げられると二人の間で予感され、私もその気だった。
だから……こんな結果は予想もしなかった。
「………………えっとなんかごめんね」
次に起きた驚きの情景に言葉に詰まらせた私は、惨めな相手につい謝ってしまった。
私の剣と交錯した吸血剣はパリンっと音を鳴らし呆気なく砕かれ、破片がそこかしこに散らばり尽くす。
「へぇ、一体ナニが起きて」
どうやら理解が追い付いていないのか、挙動不審に見えたが情けはいらない。
「この魔女め」
「嫌々、魔女じゃないわよ私は王女よ」
最期の時を悟った吸血鬼は怒りや怨みといった負の感情ではなく、晴れやかな清々しい笑顔
と見間違えるほどの表情を被り、この世を去った。
その時握った私の感触は驚くほど重く、未来永劫忘れることは出来ないだろうことを痛感させられもした。
「と、ひとまずは変装しなきゃ」
神衣は意外と私の魔力を持っていかず、サーシャへと再び変身することが出来て一安心、これで王女だとバレずにベレスや囚われの身の村民を助けることが可能となるわけだ。
サーシャに成り代わると今も気絶しているベレスの頬を最初は軽く叩いたがいっこうに目を醒ます気配がなく、今度は強めに覚醒を促すビンタを喰らわせる。
「起きろぉ~」
「はっ、サーシャ。貴女もやられて捕まっちゃたかこれからどうしよっ、吸血鬼からどうやれば逃げるか考えないとね」
「う~ん………………」
「何考えて、なんで牢に閉じ込められたりしてないの私たち?」
「理由は簡単私があの吸血鬼倒したからに決まってるでしょ」
「ふざけるなーーーー」
「嘘じゃないからもうやーめーーてーーー」
何度も何度も身体を前後に揺さぶられ、事実を受け止めきれない気持ちのやり場を吐き捨てるが如く私にぶつけてくる行動に、身を任せるようにしかし少しの抵抗で応える。
暫くはベレスの気持ちを落ち着かせるのに黙って付き合い、彼女の最も聞きたいであろう質問「どうやって吸血鬼を倒したのか」には偽りの言葉を混ぜ込み伝えた。
「いやそれ
「うん
私がどう伝えたかって?
そりゃ~勿論、魔法をフルに用いてヒット&アウェイ戦法で頑張ったってことでどうでしょう。
なにしろ神衣を使って倒したなんて口が裂けてもいえないもん。
嘘を嘘で塗り固めるように同じ主張をし続け、やっとのことで多分渋々だろうが納得をしてくれた。
「じゃあもうそれでいいや」
「なら本題を片付けるとしましょうかベレス」
※※※
「セレスっ!」
「アンシアお姉さまご無事でしたか」
姉妹の再会にホッコリしつつ、体力が衰え息が絶え絶えになっているゴブリンに捕らわれここに連れてこられた農民女性を気にかける。
早くここから出ないと。
顔色悪そうだし。
「アンシアさんすみませんが姉妹の会話は後にしてくれませんか」
「ごめんなさいこうして再会出来るとは思わず」
「ここから抜け出すまでが問題です。気を抜かずにいてください」
アンシア姉妹を合わせて、ゴブリンに連れてこられた人数は十人。
私とベレスが先頭に立ち出口へと向けひたすら歩き続けるがそこにはどうしても違和感があり、嫌なことをつい考えてしまう。
「おかしい……」
「そうねゴブリンが何故いないのかしら」
どうやらベレスも同じ考えが頭に過っていたようだ。
行きの道では度々ゴブリンと擦れ違いを起こしていた。まぁその時は隠避魔法を使っていたから気づかれなかったのだか。
しかし今は状況が違う。
侵入者の存在を知ったゴブリンは、私たちを襲ってくるべく巣窟の中を動き回っているはずなのにここまでで一匹とも接敵してない。
これをおかしいと言わずなんと言う。
「おそらくは入り口に固まっているってところだとは思うけど、ベレスも同じ?」
「十中八九間違いないと思う。そうでないとこの状況が説明出来ないわ」
しかし予想と反して、入り口に近づいてもゴブリンの襲撃はなく外の陽射しが目に入る。
「やったぁ~外だ」
「待ってください皆さん」
農民女性の一人の言葉を皮切りに皆が口を揃え外に憧れを抱き駆け出し、私の制止などお構い無く飛び出していく。
「はぁはぁゴブリンが外に待ち伏せしているかも知れないから、私たちから無闇に離れないでって何よこれ?」
「やっと出てきたな嬢ちゃん」
追いかけ外に出た私を待っていたのは数十にも及ぶゴブリンの死体と大剣を肩に乗せ、意気揚々と私に語りかけてきた片目を眼帯で覆いあの如何にもな黄色マントを羽織る冒険者ギルドで目撃した女性が立っていた。
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