第25話(3)最終局面突入

「いかがいたしましょうか」


「艦の足並みを桜島と揃えましょう」


 セバスティアンの問いにアレクサンドラが指示を出す。


「かしこまりました……上空に反応あり!」


「⁉」


 ビバ!オレンジ号の上の何もない空間に紫色の穴のようなものが開き、そこからアルカヌムが姿を現す。アルカヌムはビバ!オレンジ号に攻撃を加えようと急降下する。


「させるか!」


「!」


「はっ!」


 それを黒い影が防ぐ。テネブライである。二機は空中でサーベルを激しく打ち合わせる。


「テネブライ、ミマ=タカモトか、見かけないと思ったら……」


「虚を突かれる気分はどうだ⁉ シャイカ=ハーン!」


「ふっ、あまり良いものではないな!」


「うおっ!」


 アルカヌムがテネブライを弾き飛ばす。テネブライに同乗するナーが驚く。


「なんやあいつ! 一撃一撃が重くて速いな!」


「ナー、これはどういうことだ⁉」


「う~ん、短期間でごっつ筋トレしたんかな~」


「真面目に聞いている!」


「冗談や、恐らくやけど……あの志渡布っちゅう奴が力を分け与えたとか言うてたやろ? その影響やで多分」


「相変わらず勘だけは鋭いようだな……ナー=ランべス」


 シャイカが笑う。ナーが憤慨する。


「勘ちゃうわ! きちんとした現状分析や!」


「鍛えてもフェアリーだからな……」


「いや、自分も何訳分からんこと言うてんねん! フォローになってへんやん!」


 美馬の言葉にナーが突っ込む。アルカヌムがサーベルを構え直す。


「仕組みは私にも分からないが、志渡布によって今の私はポテンシャルを存分に引き出されている……いくら貴様が救世主と言っても、止めることは出来んぞ……!」


「ぐおっ⁉」


 一瞬でテネブライの懐に入ったアルカヌムがサーベルを振るう。予想以上のスピードに美馬は反応しきれず、攻撃を喰らってしまう。


「貴様との因縁もいい加減面倒だ……ここらでご退場願おう!」


「ア、アカン!」


「ぐっ!」


 アルカヌムの振り下ろしたサーベルをテネブライはなんとか受け止める。


「しぶとい……な!」


「む!」


 アルカヌムが頭部のバルカンを発射させる。至近距離でその射撃を受けたテネブライの頭部が損傷し、モニターが真っ暗になる。ナーが叫ぶ。


「メインモニターをやられた! サブモニターに切り替えな!」


「そんな隙は与えん!」


「……は!」


「なっ⁉」


 アルカヌムが三度サーベルを振るうが、テネブライが驚異的な反応でその攻撃を躱す。


「か、躱せた! ど、どうやったんや、今の⁉」


「……」


「おい! 何黙ってんねん⁉」


「ちょっと静かにしていてくれ!」


「ん!」


 美馬の叫びにナーは口をつぐむ。


「集中力の高まりを感じる……奴の居場所が分かるぞ!」


「今度こそ!」


「そこだ!『エレメンタルフルバースト』!」


「ぐわっ!」


 テネブライの放った強烈な斬撃による衝撃波がアルカヌムを襲う。次の瞬間、テネブライのサブモニターが稼働する。ナーがモニターを確認する。


「やったか⁉ ……ちっ! 半壊させただけかいな!」


 モニターには半身が損傷したアルカヌムが映っている。シャイカが忌々し気に呟く。


「まさか……奴もポテンシャルを解放したというのか? しかし一体どうやって? エレメンタルストライカーの機体同士での共鳴か? それとも……」


「……知らなかったのか? これが救世主の底力ってやつだ」


 美馬が笑みを浮かべながら話す。シャイカが苦笑する。


「ひとつ勉強になった……ここは退かせてもらう」


 空間に穴を発生させ、アルカヌムはそこに飛び込む。穴はすぐに消えてしまう。


「あ! 逃がしてもうたな……まあ、エレメンタルフルバーストを使うと負担がな……」


「ああ、すぐには満足に動けん……一旦ビバ!オレンジ号に着艦する……」


「テネブライ、本艦に着艦しました」


「厄介な敵を退けてくれたわ。流石は異世界を救った救世主殿ね」


 アレクサンドラが満足気に頷く。セバスティアンが重ねて報告する。


「各地の機体もこちらに戻りつつあります」


「皆、それぞれ敵を退けたのね、頼りになるわ」


「ちっ……しゃあないなあ、あんまり荒っぽいことはしたくなかったんやけど……」


「⁉」


 戦場に志渡布の声が響く。


「大富岳、起動!」


「! 大富岳が機体の向きを変えます!」


 セバスティアンの言葉通り、大富岳の巨大な船体が横向きから縦向きになる。


「丸い方が上に来たわね……あの姿勢は確か?」


「膨大なエネルギーの上昇を確認! ビームの類を発射する模様です!」


「くっ! 狙いはこっちと桜島ってこと⁉」


「……慌てないで、サーニャ」


 ビバ!オレンジ号のモニターに伊織が映る。


「伊織⁉ そうは言ってもね!」


「向こうの発射までまだわずかに時間がある。その前に桜島とビバ!オレンジ号、両艦の主砲を直撃させるのよ!」


「あ、あんな馬鹿デカい艦を沈黙させられるの⁉」


「計算上はね……データを送るわ」


 送られてきたデータに目を通したアレクサンドラは即座に叫ぶ。


「いや、これはこちらのエネルギーが150%の場合でしょ⁉ エネルギーが足りないわ!」


「それを今から充填しま~す♪」


「ユエ! 戻ったのね! って、なにその機体⁉」


 アレクサンドラはモニターに映った金青白の見慣れない機体に驚く。


「これは光風霽月だ!」


「その声はご主人様⁉ それに乗っているの⁉ なんなのその機体は⁉」


「知らん! 気がついたらこうなった!」


「そ、そう……」


「とにかくありったけのエネルギーを注ぎ込むぞ!」


「言い方が気になるな! ちょっと黙っていて……!」


 ユエが大洋に注意し、補給作業を行う。


「高島津艦長! 柑橘参号戻りました! 只今、補給を行います!」


「ポンカン! お願い!」


「ちょっと足りないかな……ミカン、イヨカンも協力して!」


「「了解!」」


「……補給作業完了!」


「こちらも完了です!」


 ユエとポンカンが同時に声を上げる。モニターを確認したアレクサンドラが頷く。


「よし! これならフルパワーで主砲を放てるわ! 伊織!」


「こちらも大丈夫よ!」


「セバスティアン! 砲撃準備!」


「主砲発射準備!」


 アレクサンドラと伊織が同時に指示を出す。


「……距離・方向OK、角度調整完了、エネルギー充填完了でございます」


「主砲発射準備完了しました!」


 セバスティアンと桜島のブリッジクルーが同時に報告する。


「よし! 撃てえぇぇぇ‼」


「主砲、撃てえ――‼」


 二人の揃った掛け声により、凄まじいエネルギーの奔流が二筋、大富岳に向けて放たれる。


「むう⁉」


 大富岳が砲撃をまともに喰らう。セバスティアンが報告する。


「大富岳、エネルギーの低下を確認! ビームの発射を中止! 動きが止まりました!」


「ロボット部隊を補給が済み次第順次発艦させて! 大富岳を一気に制圧する!」


「かしこまりました! パイロットの皆さん! 発艦をお願いします!」


「了解です!」


「ジュンジュン、お願いね~」


 石火に乗った状態の電がカタパルトにつく。隼子が閃に声をかける。


「オーセン、振り落とされんなや!」


 石火が勢いよく発艦する。電に乗る閃が冷静に戦況を分析する。


「機妖の群れもあらかた片付いた……このまま大富岳に取り付ける!」


「そうはさせんで! 出番や、百鬼夜行!」


「⁉ まだこいつがいたか!」


「!」


 百鬼夜行がジャンプして、石火の高度まで達する。隼子が慌てる。


「くっ、ぶつかる⁉」


「そのまま突っ込め、隼子!」


 隼子は隣を飛行する光風霽月を見て驚く。


「大洋か⁉ なんやねん、その機体は⁉」


「これは光風霽月だ!」


「説明になってへんねん!」


「ユエとタイヤンの機体と合体したの? 設計思想が似通っているとは思ったけど……」


 閃が冷静に呟く。大洋が満足気に頷く。


「つまりはそういうことだ!」


「なにがつまりやねん! こっちが察しただけやろ!」


「前を見ろ! 百鬼夜行が迫ってくるぞ!」


 タイヤンが叫ぶ。隼子がパニックになる。


「ど、どないすんねん!」


「一点突破よ! オーセン! タイミング合わせてね!」


「! 了解!」


 ユエが口を開く。再び何かを察した閃が頷く。


「大洋、光龍刀で攻撃よ!」


「ああ! 『ぶった切り』!」


「‼」


「合体解除!」


「合体!」


 光風霽月の攻撃が百鬼夜行に当たった瞬間、光風霽月は合体を解除する。次の瞬間、光は電と石火と合体し、電光石火となる。閃が間髪入れす叫ぶ。


「大洋!」


「『大袈裟斬り』!」


「ウオオオ‼」


 電光石火の振るった刀を受け、百鬼夜行は落下する。ユエが声を上げる。


「『瞬間連撃』成功よ!」


「無茶をするな……」


 タイヤンが呆れ気味に呟く。


「なるほど……リーチの長い刀でまず攻撃し、間髪入れず次の攻撃を加える。パワーを集中させた、まさに一点突破ってわけか」


 閃が頷く。大洋が声を上げる。


「要するにそういうことだ!」


「嘘つけ! アンタは絶対分かってへんかったやろ!」


 叫ぶ隼子をよそに、閃がユエに尋ねる。


「電光石火の合体機能が戻っているなんて、よく分かったね?」


「私もギリギリで気が付いたのよ……正直一か八かだったわ」


「一か八かだったのか⁉ 本当に無茶をするな……」


 タイヤンが頭を抱える。閃がモニターを確認する。


「百鬼夜行は……黒い穴に消えた! 逃がしたか……」


「とりあえずは大富岳制圧に集中だ!」


「そうはさせへん!」


「⁉」


 巨大な九尾の狐が大富岳の前に再び現れる。志渡布の声が響く。


「力は戻った……やはり僕自ら、君らに鉄槌を下してやるとしよう……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る