第24話(3)正義VS極悪

「ふう……かなりの数の機妖だったな……」


 京都東部で機妖の集団を退け、小金谷は一息つく。


「どこかから呼び寄せているって話だったけど、限度ってものはないの?」


「なんとも言えないな……百鬼夜行か志渡布を抑えんとどうにもならない可能性が高い」


 殿水の問いに土友が答える。火東が呟く。


「一機一機は大したことないと言っても、流石にこれじゃあFtoVが持たないわよ……」


「一度腹ごしらえした方が良いかもね~」


「義一さん、呑気な言い方ね……」


 マイペースな木片に殿水は呆れる。土友が考えを述べる。


「思った以上に長期戦になりそうだ、補給に戻った方が良いかも知れん」


「戦艦まで戻るの? こっちの戦線が崩れてしまうわ」


「補給機能を備えた柑橘参号がこの近くまで来ている。合流して補給を行えば良い」


 火東の問いに土友が冷静に答える。小金谷が頷く。


「よし! 一旦退くぞ!」


「そうはさせないよ?」


「⁉」


 鋭い鞭がFtoVを襲う。土友が叫ぶ。


「『エテルネル=インフィニ=ニュメロ・アン』! 通称『エテルネル・インフィニ一号機』! 海江田啓子か!」


 FtoVのモニターに赤白のカラーリングの機体が鞭を構える様子が映る。


「……巨体だけに足元がお留守……」


「ぐっ⁉」


 FtoVの死角から飛び込んできた青白のカラーリングの機体がクロ―でFtoVのボディを下から上に切り裂く。


「『エテルネル=インフィニ=ニュメロ・ドゥ』! 通称『エテルネル・インフィニ二号機』! 水狩田聡美か!」


「いちいちフルネームを言わなくても良いって……」


 土友の生真面目さに対し、海江田が苦笑を浮かべる。火東が叫ぶ。


「アンタら、志渡布の手下になったの⁉」


「手下って……ただ単に雇用関係を結んだだけだよ」


「一八テクノはどうなるのよ⁉」


「ロボチャンベスト8入りを逃した時点でクビになっちゃったからね。まあ、限りなく自主退社に近い形だけど……」


「その機体は⁉ 会社のものでしょう!」


「退職金代わりに貰ってきたよ。まあ、貴重な実戦データは全て提供したから、それで互いにウィンウィンということで……」


「調子の良いことを……」


 海江田の返答に火東が苦い顔になる。小金谷が代わりに尋ねる。


「お前ら、悪に手を貸すということか?」


「善悪でしか物事を判断出来ないのか……」


 小金谷の問いかけを水狩田が鼻で笑う。


「何だと⁉」


「流石は正義の味方、ザ・スリーパーズ様だな……」


「ザ・トルーパーズだ!」


「なんでも良い……物事の価値観というものは様々だ」


「……傭兵として、金で動いたってこと?」


 殿水の問いに海江田が肩を竦めて答える。


「まあ、そういうことになるかな。単純な損得勘定だけじゃないけどね……」


「どういうことよ?」


「色々あるんだよ……詳しく答える義理はない」


「気になる物言いをするわね……」


「もういい、殿水! こいつらを倒すぞ!」


 小金谷が声を上げる。水狩田が呟く。


「イリュージョンフォアカントリー……相手にとって不足はない」


「フュージョントゥヴィクトリーだ!」


 FtoVが頭部のバルカンを発射させる。二機のインフィニが素早く回避する。


「海江田!」


「はいよ!」


 インフィニ一号機が鞭をFtoVの左脚に巻き付かせる。


「ぐっ!」


「出力最大!」


「ぐはっ⁉」


 鞭から強烈な電磁波が流れる。FtoVがその巨体のバランスを崩す。水狩田が笑う。


「ちょうど良い所に首がきてくれたな……」


 水狩田がインフィニ二号機をジャンプさせ、FtoVの頭部へクローを振りかざす。


「なんの! ウィンクボンバー!」


 FtoVが片目をウィンクすると、ハート型砲弾が発射され、インフィニ二号機に当たる。


「ぐおっ⁉」


 砲弾を喰らったインフィニ二号機が地面に落下する。土友が叫ぶ。


「……ライトアームフリック!」


 FtoVが右腕を伸ばし、所謂デコピンを操り出し、インフィニ二号機を弾き飛ばす。


「うぐっ⁉」


「水狩田! はっ⁉」


「レフトアームバスター~」


 木片の呑気な声とともにFtoVが左腕に備えているバスターを発射するが、インフィニ一号機はなんとか回避する。


「か、躱せた!」


 海江田が安堵したように声を上げるが、間髪入れず火東が叫ぶ。


「近距離で大した反応ね! ただそれは誘いよ!」


「なっ⁉」


「電磁鞭のお返しよ! レフトフットサンドイッチ!」


 FtoVが左脚を伸ばし、内腿とふくらはぎの部分を用いてインフィニ一号機の下半身を挟み潰す。海江田が声を上げる。


「ぬおっ!」


「くっ! 海江田!」


 水狩田が援護に向おうとしたところ、殿水が叫ぶ。


「……ライトフットキック!」


 FtoVが右脚を伸ばし、インフィニ二号機を蹴り飛ばす。豪快なキックはインフィニ二号機の上半身のほとんどを吹き飛ばしてしまった。小金谷が低い声で告げる。


「生意気な傭兵娘ども……キャリアが違うんだ、キャリアが」


「……」


「お前らには聞きたいことが山ほどある。大人しく捕虜になれ」


「はい、分かりましたって言うと思う⁉」


「強がるな、そんな状態で何が出来る?」


 声を荒げる海江田を諭すように小金谷は話す。


「『極悪なお姉さん』を舐めないでくれる⁉ これくらいの窮地は何てことないわ!」


「なっ⁉」


 海江田がインフィニ一号機に鞭を振るわせ、インフィニ二号機の下半身に巻き付かせ、その機体を思いきり引き上げる。水狩田が叫ぶ。


「なんだウィンクって! そこはビームでも出せ!」


「どおっ⁉」


 インフィニ二号機がキックを繰り出し、FtoVの右目部分を蹴り潰す。虚を突かれたFtoVは体勢を崩し、インフィニ一号機を離してしまう。


「コックピットを潰してしまえば良かったのに、正義の味方の慈悲深さに感謝だね! 水狩田、ここは撤退だ! ザ・トルーパーズ! この借りはいずれ返す!」


 海江田が叫ぶと、二機のインフィニは地面に広がった黒い穴に吸い込まれていく。


「お、おのれ……仕方ない、柑橘部隊と合流しよう。修理と補給を優先だ……」


 小金谷が怒りを押し殺しながら、メンバーに告げる。

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