第4話(2)いざ種子島へ

 社長室での話が終わった後、三人は地下格納庫へと向かった。光も含めて、三体ともこちらに収容している。


「しかし大きいな、この格納庫は。この会社の地下にこんなものがあるとは……」


 大洋が周りを見渡しながら呟く。


「この十五年はまともに人の出入りは無かったみたいやで」


「つまりこの会社のほとんど誰もその存在すら知らないということか」


「オーセンは何で知ったんや?」


 隼子が閃に話しかける。閃は情報端末を操作しながら答える。


「ん~偶然?」


「そんなわけあるかいな!」


「やっぱ誤魔化せないか」


「当たり前やろ」


「電光石火、あの機体にはちょっとした縁があってね……」


「縁?」


 機体を見上げていた大洋が振り返って尋ねる。


「そう、縁。それで色々とこの機体について調べていたらここに辿り着いたってわけ」


「ちょっと待った! アンタ、自ら進んでこの会社に⁉」


「半分はそうだね。もう半分はジュンジュンが言ったように業界の異端児と見なされて、大手企業で居場所が無くなって、ここに流れ着いたって感じだけど」


「でも、アンタもこの地下格納庫の存在を知ったのは最近なんやろ?」


「そうなんだよ~巧妙にデータが隠されていたり、消去されていたりしてさ~。大松さんとか古株の社員さんも皆案外口が堅くてさ~」


「光はずっと第二格納庫に置いてあったんだろう? それについては調べようとはしなかったのか?」


「もちろん調べたよ~」


 閃が端末から顔を上げて答える。


「ただその時は不覚にも、その光を含めた三機が合体して一つの機体になる、という発想が全く私の頭から抜け落ちていてさ~。よく似ている機体だなということで一旦結論付けちゃったんだよね~」


「そこからよく答えを導き出せたな」


「もうしょうがないから本丸を攻めたよ」


「本丸?」


「弓子社長に『ぶっちゃけどうなんすか?』って聞いたんだよ」


「軽っ⁉ ってよくそんなんで聞き出せたな?」


「本日のラッキーコンフェッションは“秘密を白状すること”ですよって適当に言ってみたら色々と教えてくれたよ~」


「コンフェッション……告白、白状って意味か」


「大丈夫なんかこの会社……今更ながら心配になってきたわ……」


 隼子が頭を抱える。


「しかし、大会では電光石火で臨むんだろう?」


「……そうだね」


「秘密はもう良いのか?」


「私がこの電光石火について社長に報告したら、『そんなスペックの高い機体があるなら使わなきゃ損じゃない!』ってことになってね、長崎県の予選を勝ち抜いたら投入する予定ではあったんだよ」


「そうだったんか……」


「言いづらいけど、FS改のスペックだと九州大会クラスになってくると、通用しなくなってくるというか、ぶっちゃけ歯が立たないだろうからね~」


「随分と正直に言うな……」


「いやFS改も結構ええ機体やで?」


 隼子が少し拗ねたように呟く。


「何らかの理由があって封印していたみたいだけど、出るからには勝たないと会社の宣伝にならないし……背に腹は代えられないってことだね」


「そうか……」


「ただ!」


 閃が声のトーンを上げる。


「ん?」


「考えがあってね~。電光石火への合体はしないで、電、光、石火、分離した状態で九州大会に臨みたいと思っているんだよ」


「ええっ、何でまた⁉」


「理由は主に二つ」


 閃は隼子に向かってVサインを作る。


「一つは光など単体でも戦える十分なスペックを持っているということ」


「巨大怪獣も数体撃破しているしな……」


「そう、もう一つは電光石火の合体時のデータがまだまだ謎が多いこと」


「謎が多い?」


「詳細な機体データは複雑にブラックボックス化されていてね。解析には流石の私でも、もうちょっと時間がかかりそうなんだよね~」


「そ、そんな状態やのに昨日は合体したんか⁉」


「ん~まあ、それはあの場のノリと勢いってやつ?」


 閃はそう言ってウィンクしながら右手の親指を立てた。


「勢いで無茶なことさすな!」


「だってさ~大洋? 『合体できます』って言われたら……するでしょ、合体?」


「迷わずするな、漢のロマンだ」


大洋は気持ちいい位に即答した。


「でしょ~?」


「アホなやりとりを止めろ!」


「とりあえず上手くいったから結果オーライってことで……」


「あ、アンタな~」


 隼子が閃の適当加減に呆れる。


「ただ……社長にはどう説明する?」


「う~ん、その辺は何とかなるでしょ。『本日のラッキーバトル』は“分離状態を保ったままで戦うこと”ですとか言えば」


「だからどこの占いやねん、その極めて限定的な条件は……」


「とにかく今は、大洋は光、ジュンジュンは石火の操作に慣れてもらって……更に各々の機体の特性についても少しでも理解を深めておいてね」


「了解した」


「了解。まあ……それは重要な事やな」


 そしてそこから約一か月が経過して、いよいよロボットチャンピオンシップ九州大会の開幕を迎えた。大洋ら二辺工業のチームは大会会場の鹿児島県種子島に到着した。


「いや~とうとう着いたで、種子島! おっ、向こうに見えるのはかの有名な種子島宇宙センターやな!」


「楽しそうだな」


「ジュンジュンのことだからもっと緊張でガチガチになるかと思ったよ~」


「いやいや、何を言うんや、お二人さん! ここまで来たら楽しむしかないやろ!」


「まあ、そういう気持ちは大事かもな」


「せや! 目指すは優勝や! いくで、エイ、エイ、オー!」


「「……」」


 テンションの高い隼子に対して沈黙する二人。


「な、なんやねんな! ノリ悪いな~」


「はっはっは! 随分と威勢の良いお嬢さんがいるとね~」


「だ、誰や⁉」


「残念ながら、一回戦の相手がウチらたい、その夢は夢のままで終わるとね」


 そう言いながらやたらと恰幅の良い人物が大洋たちに近づいてきた。大洋が素直に感じた疑問を口にする。


「おじさん? いや、おばさん? やっぱりおじさんか? 隼子、どっちだと思う?」


「気になる所そこかい⁉」

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