第3話(3)模擬戦からの実戦

「喰らえ!」


 軽薄男のFS改が模擬戦専用のソードを両手で持って大洋の機体に斬りかかるが、大洋は機体を前に踏み込ませて懐に一気に潜り込み、肘を相手の持ち手に当てて、ソードを振り下ろさせるのを防いだ。


「くっ!」


 大洋はそのまま肘を上に勢いよく跳ね上げて、相手のソードを両手ごと弾き飛ばす。軽薄男の機体は万歳をしたような状態になる。


「しまっ……!」


 大洋はがら空きとなった相手の胴体めがけて拳を思い切り撃ち込んだ。軽薄男は後方に吹っ飛ばされた。それを見たチャラ男が激高し、大洋との距離を一気に詰めてソードを真横に薙ぎ払う。


「⁉ き、消えやがった⁉」


 自身の視界から大洋のFS改が消えたように映ったため、チャラ男は困惑した。次の瞬間に両腕をガシッと掴まれて、大洋の機体がしゃがみ込んでいることに気づいた。


「⁉ 下か!」


 大洋は機体を後方に倒れ込ませながら、チャラ男の機体の両腕をグイッと引っ張った。そして、右足を相手の腹部に当てて、柔道で言う『巴投げ』を繰り出した。


「うおおっ⁉」


 全く予想だにしない攻撃を喰らったため、チャラ男はどうすることも出来ず、派手に投げ飛ばされた。


「ちっ……んん⁉」


 なんとか機体を起こしたチャラ男はモニターに映った光景に目を疑った。大洋のFS改が軽薄男の機体の両脚部分を持って豪快に回転しているのである。これはプロレスの技『ジャイアントスイング』である。


「お、おい待て、まさか……」


 そのまさかである。大洋は掴んでいた両脚をパッと離した。軽薄男の機体が真っ直ぐにチャラ男の機体に飛んでいく。両者の機体は正面衝突し、地面に派手に転がった。


「ク、クソが……」


「め、目が回った……」


「……」


 大洋が無言で二人の機体へと近づく。そして、二人のモニター画面に目を閉じた大洋が映り込む。


「な、なんだよ……」


「どうやら俺は興奮すると、コックピットでフンドシ一丁になる性癖があるらしい……しかし、今の俺は服を着ている……これがどういうことを意味するか分かるか?」


「は?」


 大洋がカッと目を見開いてこう言い放った。


「貴様らには半裸になる価値も無いということだ‼」


「な、何言ってんだコイツ⁉」


「やべえ、やべえよ……」


 そこに警報が鳴った。大松から通信が入る。


「怪獣が出現! 海上からこちらの方面に向かっていると! 三人とも一旦帰投し、武装を換装して、怪獣撃破に出撃ばい!」


「了解!」


「……りょ、了解」


「怪獣撃破? マジかよ……」


 三人は演習場から格納庫へ機体を向けた。格納庫に戻った大洋は機体から降りて、スタスタと歩く。大松が声を掛ける。


「大洋? どこに行くと?」


「光で出ます。あのFS改はダメージが蓄積されていて反応が若干鈍くなっているので」


「ば、ばってん、光のことは出来るだけ社内でも秘密に……」


「今は緊急事態ですよ」


「むう……まあ、止むを得んとね」


「おい、エンジニア!」


 大洋が声のする方へ振り返る。


「さっきはたまたま不覚をとったがな! あれはあくまでも演習だ! 実戦とは訳が違うってところを見せてやる!」


「御無事を祈ります、四天王寺さん」


「佐藤だ! 誰だよ四天王寺って!」


 機体の換装を終えた佐藤は鈴木とともに一足早く出撃した。


「……さあ、どこにいやがる怪獣!」


 威勢の良い佐藤とは対照的に鈴木はやや沈んだ声で呟く。


「撃破って……迎撃とかじゃないのかよ……」


「何だ、ビビッてんのかよ、鈴木!」


「ビ、ビビッてねえよ! ただ、俺らだけで撃破するのはちょっと厳しくねえか?」


「大松のおっさんが言ってただろうが! 防衛軍のやつらは別地域に出現した怪獣退治で忙しいんだってよ!」


「……なんか、最近そのパターン多くね?」


「しっかりしろ! 大丈夫だ、俺たちはロボチャンファイナリストだぞ! やれる!」


「そ、そうだな! なんてたって決勝進出者だからな!」


 鈴木が答えたその時、二人の機体のモニターに怪獣の姿が映った。大きなカラスのような怪獣である。


「来やがったな!」


「全長8m位か! 大した大きさじゃねえな!」


 鈴木がモニター画面のデータを大雑把に確認して叫んだ。怪獣は羽を大きく広げて二人に向かって飛んできた。身長自体はFS改と同じ位だが、羽を広げてみると、一回り大きく感じられた。二人は一瞬たじろいだが、すぐに気持ちを切り替える。


「カラスめ、俺が撃ち落としてやる!」


「よし、そこを俺が串刺しにしてやる!」


 佐藤がライフルを数発発射するも命中せず、怪獣は佐藤の機体との距離をあっという間に詰める。


「くっ、速え!」


 怪獣が佐藤の機体に取り付いた。両肩に足を乗せている形となった。


「は、離れろ! ん⁉ なんだ、前が見えねえ!」


 怪獣は佐藤の機体頭部に白い物体を掛けた。一瞬戸惑った佐藤も状況を理解した。


「て、てめえ! 俺の機体に糞しやがったな⁉ 畜生、モニターが!」


「落ち着け! サブモニターに切り替えろ!」


 鈴木に言われた通り、佐藤は画面を切り替えた。そこには怪獣の顔が画面一杯に広がっていた。


「う、うわあああ!」


 佐藤はちょっとしたパニック状態となり、ライフルを投げ捨てて、両手を使って、なんとか怪獣を振り払おうとして、怪獣の片足を掴んだ。その様子を見て、鈴木が叫ぶ。


「よ、よし! そのまま掴んでいろ!」


 鈴木の機体は飛び上がり、ソードで怪獣に斬りかかった。怪獣はすんでのところで直撃を躱し、二人から距離を取った。


「ちっ! どわっ⁉」


 ジャンプした鈴木の機体の脚が佐藤の機体の肩に当たり、二人の機体はバランスを崩して、折り重なるように倒れ込む。


「お、おい何やってんだ、どけ!」


「う、動くな! 脚と腕が絡まって……」


 二体がもたもたとしている間に怪獣が地面から飛び立って、その上に舞い降りる。両足を器用に使って、二体とも起き上がらないように抑えこむ。


「くっ! コイツ、思った以上に力が強え! 全然動けねえ!」


 怪獣は空を仰いで、嘶いたかと思うと、すぐさま視線を落とし、くちばしを閉じて、ジッと二体のFS改を見つめる。


「お、おいおい、まさか……」


 鈴木の悪い予感は的中した。怪獣は獲物を啄むかのように、その鋭いくちばしで佐藤と鈴木の機体を交互に突っつき始めた。


「うわあああ!」


「や、止めろ! だ、誰か、助けてくれ!」


 怪獣の鋭いくちばしが鈴木のコックピットを貫こうとしたまさにその瞬間……


「嘴狩り‼」


 大洋の駆る光が駆け付け、名刀・光宗を一閃。怪獣の体は横に真っ二つとなった。怪獣は崩れ落ちた。


「……大丈夫ですか?」


「そ、その声はエンジニアか……?」


「そうです」


「な、なんだよ、その機体は?」


「俺の一存では答えかねますね……どうしても気になるのなら戻って大松さんにでも聞いてみて下さい。起きられますか?」


 大洋が機体を引き起こしてやろうとするが、鈴木はそれを跳ね除けた。


「馬鹿にすんな! 自分で立てる!」


「それは失礼……」


 しばらくして立ち上がった佐藤と鈴木は冷静さを取り戻し、大洋に向かって叫ぶ。


「おい、そんな機体があるならさっさと助けに来やがれ!」


「そうだ! 危うくやられる所だったじゃねえか!」


「……もうほぼやられていたでしょう」


 大洋が呆れ声で呟く。


「何だ、文句あんのか⁉」


「いえ、その元気があるのなら大丈夫ですね。帰投しましょ……⁉」


 光のモニターに新たな反応があった。


「敵襲⁉ どこからだ!」


 すると先程より大きなカラスの怪獣が驚くべき速さで舞い降りて、佐藤と鈴木二人の機体の頭部をその両足で掴んだ。


「デカい! さっきの奴の親か⁉」


 怪獣は二体のFS改を足で掴んだまま、上空へと飛びたった。そしてある程度の高さで止まった。


「おいおい……」


「まさか、嘘だろ……?」


 二人の悪い予感は的中した。怪獣は勢いよく足を振り、両機を投げ捨てた。二人の機体は物凄いスピードで地面に落下した。


「佐藤と鈴木! いや鈴木と佐藤か! 大丈夫か⁉ どっちでもいいから返事をしろ!」


 両機は大破には至らなかった。通信回線からは二人の呻き声が聞こえてきた。


「くっ、俺が油断しなければ……おのれ!」


 大洋は上空の怪獣を睨み付けた。

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