幕間13 友の気持ち※エミーリア視点
「二人の邪魔をしたら悪いですし、私は失礼させて貰いますね」
苦笑いを浮かべたエリーザは私とクリスを気遣うようにガゼボを後にした。
別に一緒でも良いのに。
「ビューロウ伯爵令嬢ってエトの事を意識しているようだな」
「クリス、ここで言う事じゃないわよ」
明け透けな物言いをする婚約者を睨み付けると「防音結界を張っているよ」と返される。
確かに彼の言った通りエリーザはエトムント殿下の事を強く意識している。二人きりのお茶会の席でどんな話をしたのかある程度は聞かされたけど全てじゃないのだろう。隠された部分に彼女が彼を意識するような事があったのかもしれない。
「リーザは無自覚でしょうね。意識せずエトムント殿下を異性として認識し始めていると思うわ」
最初は全然良い印象を持っていなかったし、二人の噂が出始めた時は明らかに苦手意識を持っていた。
自身の中で起きている気持ちの変化に気が付いて居ないのだろう。況して恋愛感情を持っているとは夢にも思っていないはずだ。
「応援するのか?」
「リーザが気持ちを自覚してエトムント殿下と結ばれたいと望むなら応援するけど、望まないのなら私は彼女の意思を尊重するつもり」
本音を言えば彼女には好きな人と結ばれて欲しい。
ただ今回に関しては相手が悪過ぎる。彼女よりも身分の低い人間であれば彼女も自ら動こうとするかもしれない。しかし相手は一国の王太子だ。
エトムント殿下への気持ちを自覚したところで「私なんかが王太子の婚約者になれるわけがないわ」と言ってしまうだろう。
それは単にエリーザの自己評価が低過ぎるからだ。
自分なんか。
そう思っている部分が多いのだ。彼女には良いところが沢山あるのに本人は気が付いていない。いや、見ようとしていないのだろう。
彼女の自己評価が低くなるきっかけを作る私が無理強いをする事は出来ない。
「そうか。確かに無理に王太子の婚約者になったところで負担を強いるだけの結果となるからな」
王太子の婚約者は決して生半可な気持ちでやって良いものではない。隣国の王太子が相手となれば苦労も絶えないだろう。それだけじゃない。ゾンネ王国は男尊女卑が酷い国として有名である。好きな相手が一緒と言うだけでエリーザが幸せになれる保証はどこにもない場所だ。
「王族としては二人をくっ付かせるべきなのだろうな」
複雑そうに笑うクリス。
エトムント殿下には中立派の貴族から婚約者を選んで欲しいというのが王家の考えである。
その観点で見れば中立派であり名門とされているビューロウ伯爵家のご令嬢が隣国王子の相手というのは適任者なのだ。
ただクリスの場合は無理やり彼女達をくっ付かせたくないという気持ちもあるのだろう。
「エトムント殿下の方はどうなの?」
「彼もビューロウ伯爵令嬢を意識しているな。ただ無自覚だし、彼女に嫌われていると勘違いしているみたいだ」
「そうなの…」
つまりは両想いという事だ。
ただ王族との婚約は気持ちだけでどうこう出来る問題じゃない。
「今は見守る他ないだろうな」
「ええ」
私達に出来る事は少ない。
無理に動こうとすれば良い結果にはならないだろう。
「ただビューロウ伯爵令嬢が自らエトに剣技を教えたいと思ったのは意外だったな」
「そうね」
どうしても自ら教えてあげたいという雰囲気を身に纏っていた。
他の人に譲りたくないという意思も感じられた。
自己評価が低い彼女にしては珍しい事だ。
「もしかすると…」
「ん?」
「いえ、何でもないわ」
もしかするとエトムント殿下ならエリーザを変えられるかもしれない。
淡い期待が胸を過った。
「実はエトから同じような事を言われたんだ」
「え?」
「ビューロウ伯爵令嬢にルドヴィックの剣術を教えて貰う事は出来るか聞かれていたんだ。分からないから保留していたけどまさかこんな事になるなんてな」
予想外の事だった。
私達が思っている以上に彼女達はお互いの事を…。
いや、今は考えるのを控えた方が良さそうだ。
「でも、良かったの?クリスの訓練場を使わせて」
本来なら王族のみが入れる場所だ。
彼の婚約者である私も片手で数えられる程度しか訪れた事がない。
「ルドヴィックに見つかったら厄介な事になるからな。あいつに見つからない場所と言ったらあそこにしか思い付かない」
ルドヴィック様ね。
妹であるエリーザを溺愛している彼は色々な意味で彼女を困らせる存在だ。
本人に悪気ないので責める事も出来ない。
「試合はいつになりそう?」
「約三週間後。ルドヴィックが特別講師を務める最後の日だ」
つまりエトムント殿下が出来る特訓も約三週間という事になる。
「エトムント殿下は勝てると思う?」
「相手が悪過ぎる。現状では厳しいだろうな」
クリスの表情から察するに勝てる割合は九割にも満たないのだろう。
彼はエトムント殿下の剣の腕は優れていると言っていた。勝てないと思われる原因は魔法の使い方にあるのだろう。
私が教えるという手もあるけどエリーザがそれを望むか分からないし、彼女の自己評価を更に下げる原因に繋がるかもしれない。
動けないのだ。
「何とかエトムント殿下に勝たせてあげたいわね」
「そうだな」
目が合った私達はお互いに苦笑いを浮かべた。
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