第12話 友の助け
朝からの憂鬱な気分が抜けないまま午前の授業が終わりを迎えた。
全く集中出来ていなかったせいか何度か教師に注意を受けてしまう始末だ。
私に注意をした教師は決まって兄ルドヴィック様の名前を出す。兄が居るから授業に集中出来ていないのは確かなので否定は出来なかった。
「授業に集中出来なかったわ」
お昼休みになり、エミーリアと一緒に学生食堂に向かいながら小さく呟いた。
「ルドヴィック様が居るから?」
「それもあるけど昔の事を思い出していたせいね」
「昔の事?」
「ルド兄様やリアと比べられた時の事を思い出して…」
言ってからしまったと思った。
小さい頃エミーリアと比べられるのが嫌で何も悪くない彼女に当たり散らした事がある。あの時、彼女は悲しそうに笑って「ごめんね」と謝った。
そんな風に言わせてしまったのが嫌で、悲しそうな笑顔をさせたのが辛くて二度と当たらないように過ごしていたのだ。
今更になって掘り返していると知ったらエミーリアは傷ついてしまう。
「あ、あの、今のは…」
言い訳をしようとする私の背中を撫でるエミーリアは優しく笑った。
「大丈夫よ。分かってるから」
「ごめんなさい…」
どういうわけかエミーリアは私が過去を思い出していた事に気がついていたらしい。
恋愛面では鈍感な彼女も普段は察しが良い。だからこそ気が付けたのだろう。
「しおらしいリーゼは珍しいわね」
「どういう意味よ」
「そのままの意味だけど?」
見上げると意地悪く笑う友人。
私を気遣ってくれているのは明白だ。
「リア、ありがとう」
「今度ケーキ奢ってくれたら良いわ」
「いくらでもどうぞ」
くすくす笑いながら食堂に向かう。
エミーリアのおかげで憂鬱な気分が落ち着いていたのに食堂で多くの人に囲まれている兄の姿を見つけてしまった。
別に兄は悪くない。私が一方的に嫌な気分になっているだけだ。
「ルドヴィック様って本当に人気者ね」
「実際に凄い人だからね」
ぼんやりと兄の姿を眺めていると目が合ってしまう。
嫌な予感がするのはきっと気のせいじゃない。
「リーザ!リア様!」
こちらに向かって大きく手を振ってくる兄に頰が引き攣る。兄のおかげで私とエトムント殿下の噂も落ち着きを見せていたのにまた注目を受ける羽目になってしまった。
「ルド兄様…」
自身を囲んでいる人達から抜け出した兄が走ってやって来る。
「ようやく会えたぞ!」
抱き着いて来ようとする兄を避けると悲しそうな表情を向けられた。この光景に既視感を覚えるのは最近同じような事をしたからだ。
「何故避ける…」
「ここは学園です。抱き着くのはあらぬ誤解を招くのでやめてください」
冷たく言うと兄は項垂れながら「屋敷でも避けたじゃないか」と言われる。
幼い子供じゃないのだからこれくらいの事で騒がないで欲しい。兄がみっともなく叫ぶせいで私に非難の目が向いた。
抱き着かせてやれと言われているようだ。
何故こうなるのだろうか。
「ルドヴィック様、お久しぶりですね」
「お久しぶりです、リア様…」
「あまり情けない姿を見せていては伯爵家に伝わりますよ?もし奇行がバレたら特別講師で居られる期間も短くなってしまいます」
さらりと毒を吐くエミーリア。彼女がにこりと微笑むと兄は顔を青褪めさせた。
「そ、それは嫌です」
「嫌なら騎士らしく凛とした佇まいでいてください」
その言葉に兄は立ち上がり姿勢を正した。
エミーリアを見るとウインクを送られる。どうやら私が困っていると思って助けてくれたようだ。
「ここでは目立ってしまいますし、ガゼボで昼食を取る事にしましょう」
「そうですね。クリス様もご一緒ですか?」
「クリスも後で来ると思いますよ」
昼食が乗ったトレーを持ちながら移動をする。
後ろからついて来ようとする生徒に笑顔を見せたのはエミーリアだ。
「大事な話があるの」
王太子の婚約者に逆らおうとする生徒は居ない。
全員が残念そうな表情を見せて退散してくれた。
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