幕間7 友の様子※エミーリア視点

今日のエリーザはどこか様子がおかしい。

理由として考えられるのは彼女の兄ルドヴィックが学園にやって来たからだろうけど覇気がないのだ。


「リーザ、調子が悪いなら保健室に行った方が…」

「保健室に行ったらルド兄様が飛んで来るわよ。会いたくないから良いの」


苦笑いで答えるエリーザに「そうね…」と呟いた。

彼女がルドヴィックをあまり得意としていない事は知っていたけどそこまで関わりたくない相手だったかどうかは分からない。

短い休み時間が終わり、自分の席に着く。


「リーザ?」


前の席を見ると授業に集中出来ず外を眺める友人の姿があった。

彼女に倣って窓の外を見るとそこには剣術の授業で使用される訓練場が見えた。

出来上がった生徒の輪の中心に居るのはルドヴィックだ。騎士団の中で天才と呼ばれるほどの剣の腕を持つ彼は多くの人に慕われている。それは彼の性格が明るい事も理由の一つだろう。

ルドヴィックの事が気になるのかしら。

再びエリーザに視線を戻すと彼女はつまらなさそうに溜め息を吐いた。


「エリーザさん、授業に集中しなさい!」


授業を担当している教師が大きな声で注意をする。

声をかけられたエリーザはびくりと身体を震わせた後、申し訳なさそうに「すみません」と謝った。


「何か気になる事でも……ああ、ルドヴィック様の事が気になるのですね」


エリーザが眺めていた外を見た教師が納得した表情で呟く。続く言葉はルドヴィックを絶賛するようなものばかりだった。

恍惚とした表情で彼の話をする姿にクラスメイト達は苦笑い。当たり前だ。注意をしておいて自分が授業から脱線した話をしているのだから。


「エリーザさん、素晴らしいお兄さんを持った事を誇りに思ってくださいね」

「分かっています」


締め括りの言葉に頷いたエリーザはどこか不満気…というよりもどうでも良さそうだ。

この表情を見るのは久しぶりのような気がする。

普通なら家族を絶賛されたら喜ぶ。でも、彼女は素直に喜べないのだ。

天才と呼ばれる兄と比べられて辛辣な言葉を投げかけられた過去を持っているから。

そういえば比較対象はルドヴィック様だけじゃなかったわね。

私が側に居る事で彼女を苦しめてしまった過去がある。


「先生、そろそろ授業を再開させてください」


クラスメイトの一人が声を上げると教師は我に返ったようで慌てて授業に戻る。

ふと前を見るとエリーザと目が合った。

申し訳なさそうに笑う彼女に罪悪感で胸が締め付けられる。

もしデート対決の日に私が誰にも見られないように配慮しておけば彼女に苦労をさせる事もなかったのに。

そう思わざるを得なかった。



「恥ずかしい場面を見られちゃったわね」


授業の合間にある短い休み時間になりエリーザが自嘲するように笑った。


「ルドヴィック様が気になるの?」

「相変わらず人気者だと思って見ていただけよ」

「そう」

「あの調子で私に構ってくれなければ良いのだけど」


普段通りに振る舞おうとする友人。

労りの言葉をかけるべきだと思うが今の彼女に言ったところで誤魔化してしまうのだろう。

私に出来る事は普段通りに接してあげる事くらいだ。


「リア?」

「ううん、何でもないわ。授業には集中しないと駄目よ」

「分かっているわ。次から気を付ける」


結局お昼休みまでの間エリーザが授業に集中する事はなかった。

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